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「ほら、陽斗くんじゃないよ。その人が勝手に自分を刺しちゃっただけじゃん。気にすることないよ」
人が死んでいて気にすることないよ何ておかしなことだったが、少しでも陽斗くんの罪悪感を取り除きたかった。
「そうだと、しても僕、自首、しなきゃ……、だって彼女を助けられなかった」
やっぱり、陽斗くんは優しい人だ。
自殺しようとしていた人を止められなかったことか、それとも彼女が倒れたあとの人命救助のことを言っているのか。どちらにしても自分を殺しに来たような奴に、そこまでの優しさを分け与える必要なんてない。
ああいう自己中心的な人間はそうやって優しい人の思いやりを食べて、その身勝手さを増幅させていく。食べられた方はどんどんとやせ細り、弱り、そして儚く散るのだ。
そんな世界間違っている。しかし事実だと俺は知っている。
「助ける必要なんてないよ。だってその人、死にたがってたんでしょ?それで陽斗くんはそれを望んでいなかった」
小さい子に言い聞かせるように彼の前にしゃがみ、目をじっと見つめゆっくりと話す。
「最後を陽斗くんに看取ってもらってきっと幸せだったよ?最後は一人じゃなかったんだ。俺だって一緒に看取った」
もしここに正常な状態の人間がいれば何を言っている?と言っただろう。何の解決にもなっていないし、なにを言っているのか分からないはずだ。俺だって自分がなにを言っているか分からない。
たハルま大事なことは陽斗くんを自首させないこと。彼女のことを隠蔽する事。その二つ。
混乱しているものの陽斗くんは正常な感覚があるのだろう、首を横に振って何か言おうとしている。
「そういうことじゃない」それとも「僕が殺した」だろうか?どちらにしてもそんな言葉を言わせるわけにはいかない。だからそれよりも早くひどい言葉を彼に告げる。
「陽斗くんあの女の人と俺どっちが大切?」
ファンを大事にしている陽斗くんだが、仲間と見知らぬ人。それを天秤にかければ比重は絶対に俺であると知っている。知っていてそう聞いた。
「蒼翔だよ。もちろん」
そう言ったのを聞いて俺はさらにひどいことを言うのだ。
「だったら俺を守って?やっとデビューできた。家族にも胸を張ってこれが俺の仕事だって言えた。トモくんだって、カズくんだって、セナだって、仕事が増えてやりたいことが見えてきて、いっぱい喜んだ。陽斗くんもでしょ?」
俺はいま仲間を人質に交渉している。でもそんなこと陽斗くんは気づいていない。優しくていい人だから、そんな狡いこと俺が思っているなんてきっと気づいていない。
「きっと自首しても陽斗くんは捕まらないよ。事故だもん。でもアイドルってイメージが大事じゃん?」
言わんとしていることが分かったのだろう、陽斗くんの青ざめていた肌が真っ白になったような気がした。もしかしたらただの思い込みかもしれないけど。
せっかく止まった震えが再び現れ、陽斗くんはようやくこれがグループにとっての危機だと気づいた。
きっとこの優しい人は目のまえで起きたことに対し、自分と相手だけのものだと思っていたのだろう。
自分に助けを求めに来た人を助けられず、みすみす死なせてしまった。自分の責任だ。罪を償わなければならない。
きっと陽斗くんにとっては彼女が被害者だったのだ。その相手にできる限りの贖罪を。
でもそんなものは一切必要がない。
だって被害者は陽斗くんの方なのだからと俺は話を続ける。
「couleurは誰一人かけても成立しない。結成当時そう言ったのは陽斗くんだよ。だからいなくなっちゃダメ」