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「大丈夫?なにがあったか話せる?」
まだ残暑が残る季節。寒いなんて感じるよう気温ではないのに、陽斗くんは差し出されたマグカップで暖を取っているように見えた。
震える指先は目の前で起きた出来事に対しての恐怖からか、それによる緊張状態が続き、酸素が上手く回っていないため手が冷たくなってしまったのか。どちらにしても普段の様子化は考えられないほど陽斗くんはうろたえている。
対して俺はいつも落ち着きがないと言われているのに、いまは妙に頭がさえわたっている気がした。
頭はさえわたっているけど、いやむしろそのせいかいまがとてもまずいことだとは理解している。
人が死んでいる。
そしてその遺体は俺の部屋にある。どう考えても事件でしかない。でもここで俺が慌ててしまえばすべてが壊れてしまう。
俺も陽斗くんもcouleur、それから俺の家族、全部がなくなってしまう。
そうさせないため努めて平然と陽斗くんに接する自分を俯瞰的に見て、俺お芝居できるじゃんと自画自賛する。
去年初めてオファーを受けた深夜ドラマはキャラクターの設定上、大したセリフもないものの主役。それだったのにもかかわらず、棒演技すぎると酷評を受けそれ以降、俺に芝居の話が来ることは一切なくなった。
確かに放送されたそれを改めてみれば、二度と見たくないと思えるほどひどい演技だった。
この先、couleurがもっと有名になったとしたら、あれはきっと黒歴史として何度も掘り出されるだろうと、まだ決まってもいない未来を想像し、ため息が出そうになる。
陽斗くんは手の中のそれに口を付けなかった。
なかなか話し出すことのない彼を前に、俺は改めて目の前の人について考えてみる。
色の名を持つ俺たちのグループ。
リーダーは幸村灯。漢字に火が付くことから赤を担当しているその人は、分かりやすくヒーローのような明るさと正義感を持った強い男。運動神経が抜群でイメージも戦隊もののレッドとすぐ浮かぶような印象。
緑を担当している緑川星南は六歳年下でグループ結成当時中学生だった。可愛らしい見た目に反し本来の性格はなかなかに曲者で、それが関係しているか分からないが学校生活が上手くいっていないらしくあまり学校へは行きたがらない。
本来募集した年齢ではなかったが直談判のすえ俺と同じオーディションを受け見事合格した。名前に『緑』が入っているのも大きいだろうが、セナはいままでいろいろな習い事をしてきた経験値から俺より優秀なアイドルである。
紫を担当する藤咲和也。和くんは元々子役で、何でか知らないけど劇団からアイドルの養成所に所属を変え、そのままトモくんと陽斗くんの所属する事務所にスカウトされグループ参加が決まった。
それぞれ個性が強く色々なことでぶつかってきた中、俺たちを繋いでくれたのは間違いなく陽斗くんだった。よく解散しなかったなと思うような出来事も、彼の説得やアドバイスで持ち直しいまに続いている。
だから陽斗くんは、グループにいなくてはならない人なのだと改めて感じた。