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メンバーカラー黄色の黄瀬陽斗くん。俺より二つ上。グループの補佐役であり、リーダーの灯くんの幼馴染でその二人のためにできたのが『couleur』。
俺はそのグループの最後のメンバーを決めるためのオーディションに合格し、メンバーの一員となった。
色素の薄い髪は少しばかりくせっ毛で毛先がくるんとしている。
口角はいつも上がっていて、始終穏やかで優しいその人が、梅雨の時期は口をへの字に曲げ、鏡の前で悪戦苦闘している姿。
それを知っているのは、きっと家族とメンバーだけ。
梅雨時限定の陽斗くんを見ると、いつもつい笑ってしまった。
人気が出ると同時にそう言ったこともプロの人の手が入るようになり、最近はあまり見ることができないのが残念なことのひとつ。
見た目だけじゃなく、中身も優しい陽斗くんは技術面で劣る俺にいつも付きっ切りで最後まで面倒を見てくれた。
歌もダンスもグループ内では飛びぬけて上手いのが陽斗くんだ。
鏡の前で練習していると、同じことをしているはずなのに俺と陽斗くんでは全くの別物に見えてしまう。それぐらいの差があった。
それを見ていることが辛くて、教えてもらっている側なのに陽斗くんに当たってしまったことも一度や二度じゃない。泣き言だって何度もこぼした。
いい年して、泣き言じゃなくて本当に泣いたことだって数知れず、それでもオレを見捨てるなんてことはしなかった彼は俺に言ったのだ。
「こんな言い方するとあれだけど、蒼翔がいて、人間っぽさが出るというか」
最初はフォローされているのだと思った。けど話は続いてそうではないと言われる。
「全員が完璧っていうのも確かに見ていて気持ちいかもしれないけど、極論それならロボットとかでもいいわけじゃない?」
陽斗くんは言うことをまとめようとしているのか、ゆっくりと言葉を投げかけてくる。
「ふりを覚えていないとかは論外だけど、そうじゃなくて魅せ方?思いの伝え方と言った方がいいかな?同じ振りでもちょっとずつ変わっていく蒼翔の変化はきっとファンの皆にも届いていると思うよ?」
ただがむしゃらなだけ何て揶揄されたこともあった。それにも陽斗くんは優しい回答をしてくれる。
「凄く楽しそうで一生懸命な人って、見ているだけで楽しくなるし、幸せな気持ちになるよね」
優しくて頼りになるメンバーのお兄さん。
そんなイメージはあるものの、特別親しかったわけではないその人。
その人が真っ青な顔で床に尻もちをついている。その視線の先には倒れている女の人。