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カチリと鍵の開いた音がした。
変わることのない日常なんてありはしない。
それでも変わらないと、どこかでそう思っていた。
変わることは悪いことではない。
でも変化は本当に良いことなのだろうか?
鍵を開けたのは確かに陽斗くんだったのだろう。
しかし扉を開いたのは間違いなく俺だ。
この扉の向こう側。普通の人なら絶対に見ることのない景色。
俺は何の覚悟もないまま、その中へ一歩踏み出していた。
仕事を終えマンションに帰り、エレベーターに乗る。
狭い室内。見慣れた操作パネルのいつものボタンを押す。
そこで一息。
こんなにもここが安心できるのは、マンションが俺にとって家だからだ。
六年前からアイドルという仕事をしている。でも売れ出したのはここ二年。
それまでは普通に実家で暮らしていた今までの日常が一変、どこにいても注目されるようになったことで家を出ることを決めた。
その際、グループのメンバーも同じことを決めていたようで事務所に相談したところ、このマンションで一緒に暮らすことになった。
一緒と言っても同部屋ではないし、階も全員がという訳でもない。あくまで同じマンションに住んでいるというだけ。
プライベート空間も守られているし、その案に反対する者はいなかった。
思い返してみればその指示は事務所というより、グループのまとめ役である黄瀬陽斗、俺は陽斗くんと呼んでいる、彼から提案だったなと思い出す。
『couleur』フランス語で『色』それが俺たちのグループの名前だ。
メンバーそれぞれに色のつく名前が入っているから、そう名付けられた。
のちに知った話だったが、俺がオーディションで受かった理由も、名前に『蒼』の文字が入っていたことが関係していると知った時は、地味にショックを受けた。
歌もダンスも自信があったわけではない。いまだって顔だけと言われることも多い。
他のメンバーに比べ、一人足を引っ張っていることは充分に理解している。
それでも悔しいと思った。いつか見返してやる。そんな風に思っても毎日空回りばかりで腐りそうになっていた頃、声をかけてくれたのが陽斗くんだった。