閑話
朝日のつむじが水平線が顔を出す狭間、一人のレーヤ国民がバースの元気な姿を見たと口に出した。その情報は、音を超えるほどの速さでレーヤを駆け回る。
「なぁ! おい! 聞いたか!」
「ああ! 英雄が復活したんだろ!」
「今日の昼前に、英雄の家の前で話すらしいぜ!」
しばらくの間、氷海を超えるほどの冷気に溢れていた市場も、以前よりも活気に満ち溢れ、怒号にも似た歓声が飛び交い、心のドラムを各々が鳴らしながら、狂喜乱舞していた。
あるものは、着ていた上着を投げ捨て、酒を浴び、あるものは、泣きながら英雄バンザイと叫んでいた。
数刻後、レーヤ中の国民が街の中心にある家に、プランクトンに群がるイワシのように群がっていた。それも、鉄すら軽く溶かすほどの熱気のおまけ付きで。
今か今かと一人の男を待ち続け、ついにその時が訪れた。
バルコニーからチラリと見えた瞬間、レーヤ史上最も静かな時が訪れる。それも束の間、
「「「「「「「「「英雄の帰還だぁぁぁ!!!!!!」」」」」」」」」
全員の声帯がシンクロし、世界で最も騒がしい国となった。
帰還せし英雄は、湧き上がる歓声に少し笑みを浮かべ、口を開く。
「レーヤの民よ、この度は申し訳ない。私が突然寝込んでしまい、不安に支配されてしまったこと、本当に悪かった。これからは、二度とこのようなことが起きないように日々邁進していくつもりだ。どうか、不甲斐ない私をこれからも認め、後ろをついて行ってくれないだろうか」
バースの心からの謝罪に対し、民衆は……
「これからも一生ついていくぜ!!」
「そんな気を病むなよ!!」
「英雄バンザーイ!!!」
喉を枯らすほどの勢いで喜んだ。
その声が耳に届いた瞬間、バースの頬に一筋の跡がつく。
――これからも守り続けないと
気づけば、彼は拳を強く握っていた。
「師匠、願いを二つも叶えるなんて…… 本当に良かったんですか? いつも一人一つしか叶えないのに」
「うん、後悔はしてないよ。 彼の心意気が素晴らしかったんでね。 ちょっとおまけをしたんだよ」
レーヤの国境付近、魔術師とその弟子が他愛もない話をしている。
「で、師匠、次はどこに向かうんですか?」
「次は、帝都ヴァルキュリアに行こうかな」
その一言に弟子のリーユは思わず声を張り上げる。
「正気ですか!? 大陸の反対側ですよ! ここからどれだけ時間を喰うかわかってるんですか!?」
そんなリーユの声を柳のように受け流し、一言
「まぁ、なんとかなるでしょ」
そういうと、ゆっくりと次の目的地へと歩いていった。
締めるとこは締めてくれるのに、どこかおちゃらけた師匠にため息をつきつつ、リーユは跡をついて行った。
どこにあるか誰も知らないところで、二人の男女がレーヤで英雄と呼ばれている男を見ようと、下を見下ろしていた。
そんな二人の手は手紙を握っていた。
これにて、レーヤ編完結!
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