出会い
夕陽と共に、軍神の灯火も沈む。
数刻前、医者からの冷酷な現実を聞いていたためか、息子と娘は前程取り乱していなかったが、それでも諦めの涙はそっと頬に跡をつくる。
恐ろしいほどの静寂が部屋を支配する。
外で柔く吹く風と、かすかな息が虚しく鼓膜に届く。ただのちっぽけに思える音が心を打ち付ける。
二人は男に歩み寄り、「軍神」としてではなく「父親」へむけた別れと祈りを贈り、部屋から出る。
――もう、死ぬのか…… 別れも言えずじまいか、いや今まで私は、誰の死に目にも会えなかった。 それの報いか……
かすれきった息に思いが混じる。口をパクパクさせながら何かを伝えようとするが、声は出ていなく、それを伝える相手もいないが、目を閉じていたバースにはそれがわからなかった。
滴るはずの涙の気配がない。自分を支えてくれる人の気配もない。その虚しい現実に一人、独白を綴る。
――この国の民、息子娘達よ、もう少し側で支えてあげたいがすまない、先に行く。 妻と親友よもうじきそちらに行くだろう。 私はあの日死に目に会えなかった事を恐らく許してくれないだろうが謝りたい。
そう思い、瞳が自然と隠れそうになった瞬間、走馬灯が走る。懐かしい思い出に浸るなか、妻と親友の『生きて』という言葉を思い出し、回らない脳で頭を働かせる。
――二人は私がすぐに死に、再び出会うことを望んでいるだろうか、いや、二人の最後の言葉からそんなことは望んでいないはずだ。 私はいつも愚かだ、自分を優先したり、真意を読み取ることができなかったり。 どうか、もう少し長く生きさせてくれないだろうか
そんな現実味のない願いは心に溶けていった。
はずだった。
窓が怪しく光り、人影が見える。窓越しから声が聞こえる。
「こんばんは、僕は魔術師、時計と虹の魔術師だ。これから君の願いを叶えようじゃないか」
そう言うと窓越しにいた男は窓をスルリと通りぬけこちらに近づく。
バースは寝ぼけたのかと思い、瞬きを繰り返すも、現実は変わらない。
バースが驚いたのは、あまりに現実離れしすぎている状況に対してか、目の前にいる男があまりに美しかったからか、真意はバースにしか分からない。
「やっぱり、信じてもらえないよね。だったら」
魔術師と名乗った男が指をパチンと鳴らすと、彼の手の周りに虹がかかった。
――どういうことだ、私は今夢か幻覚でも見ているのか、でも、感触はある……
親友の手紙に時計と虹の魔術師と記されていたがまさか、本人なのか……
私は本当に今この世に実在し、生きているのかすら怪しい生を実感しているのだろうか……
あまりにそんなわけない状況にショート寸前になりながらも考えを巡らせていると、また彼の声が聞こえる。
「難しいことはない。僕は君の願いを叶えに来たんだ。今、君にはどうしても叶えたい願いってヤツがあるんだろ」
心の裏がどこか見透かされているような気がするとても優しいハープのような声色だった。このような状況でなければ一生聞いていたい、そう思うような声だったが現実はそうそう上手くいかない。
「私の願い…… 私の願いは……




