プロローグ
一つの謳い文句から、彼らの永遠にも等しい旅が始まった。
「その願い叶えます 気分次第で 時計と虹の魔術師」
この言葉を聞いたことがある者は、一度では足らず、二度も三度もこう思っただろう。
「どうか魔術師が現れて、願いを叶えてくれないか」
と。
だが、現実はおとぎ話のように上手くはいかない。
よくよく考えてみて欲しい。この世界にどれほどの者が彼に祈っているだろうか。
それに、もし仮に彼が現れたとしても、彼は気分次第で願いを叶えるということを忘れてはいけない。
砂漠にでも行って、その中から一粒の砂金を見つけろと言われたほうが、まだ現実的である。
しかし、幸運の女神に微笑まれ、先の確率を乗り越えた者はいる。
彼らは年齢も、性別も、何から何まで異なっているし、会ってみた感想も千差万別だ。
ある者は、聖母とも見間違うほどの慈愛に満ちあふれていたと語り、またある者は花の命のような触ればふっと消えてしまいそうな雰囲気に包まれていたという。
「師匠! 今までどこ行っていたんですか!」
「リーユ、落ち着いて。 僕はどこにもいかないから」
「今は、旅の途中なんですよ!」
「ごめんごめん、じゃあ旅の再開とでもいこうか」
師匠と呼ばれた男は、絵画から飛び出たような美貌を持っており、自然すらも虜にするような笑みを浮かべ、オルゴールのような、どこか懐かしく、包みこんでくれるような声でそう言った。
この男の名はアルス。
彼は、謳い文句にある時計と虹の魔術師だったりする。
灰色をした髪の毛は、光を浴びては艶かしく光り、灰のまつ毛に包まれた虹色の瞳は虹すら子供扱いする輝き、月白色の肌は自然と人を魅了する。
あまりにも現実離れした美貌は、画家が書いた最高傑作と言う言葉が物足りない程である。
リーユと呼ばれたアルスの弟子である少女もまた魔術師である。
白銀の髪は肩ほどまで伸ばしており、光を受け止めては揺らし、彼女もまた虹色の瞳を持っているが、アルスとは違いどこか透き通るような色である。彼女のミルク色の柔肌に薄色の頬は浮かんでいる。
あどけない容姿は、国の一つや二つぐらい簡単に傾けられそうなほど麗しい。
この二人が並ぶと、天使すらもに声を失うと同時に心も掴まれるほど美しいのであり、神の寵愛を受けているのかと錯覚するほどのものである。
「次の目的地は軍事国家のレーヤですよね?」
「うん。 レーヤに行くのは初めてだからちょっと遊んじゃおっかな」
アルスの言葉にリーユは少しため息をつき、
「師匠、目的を忘れてませんか?」
「大丈夫、ちゃんと願いを叶えるからさ……」
ちょっとでも評価してくれたら、作者が感謝のあまり泣き出します!