2色
「〜♩」
「あれ、」
目先にあの店の娘がいる。幸運だ。けど、話しかけるか迷う。相手からすると、たかが客でしかない。
「…………。」
どうしよう。どんどん近づいてくる。娘は違うところを見ているのでこちらに気づいていない。
「あれ、お客さん。偶然ですね。」
「あぁ、偶然だな。」
話しかけてくれた。嬉しいと思わないようにしなきゃ。
「今日は来てくださるんですか。」
「うーん、今日は仕事があってなぁ。ごめんよ。」
可愛い目だ。
「そうですか。お仕事頑張ってくださいね。」
「あぁ、ありがとうね。」
少しの会話だったけど、人外にとっては嬉しい事だ。簡単な奴。
「あれぇー?嬢ちゃん、可愛い顔してるなぁ?」
「……!やめてください。」
輩に襲われている。どうすべきか。問題ごとには巻き込まれたくない。
――助けて
「……そんな目されたら、困るわ。」
「あぁ?何だぁ?お前。今ちと俺は忙しくてなぁ。」
輩はでかい。勝てっこない。
「こっち、付いてきて。」
「ぇ、」
彼女の腕を引き、歩幅を合わせながら逃げた。
「あぁ!おい!!待て!」
遅い。これなら撒ける。
「こっち、」
「ぅわ」
細い路地に入る。音がこだましていた。
「待て!どこ行ったあの野郎!」
輩はどこかへ行ってしまった。
「ごめんね。強引だった……、」
近い。今気付いた。頬が赤くなる。
「いいえ。私もごめんなさい。巻き込んでしまって……、」
娘は下を向く。どんな表情してるか分からない。
「「…………。」」
心臓がばくばく鳴る。手汗がすごい。今すぐ、この場から抜け出したい。
「も、もう出ようか。」
「はい。」
眩しい。
「本当にありがとうございます。お店にいらっしゃったら何かお礼させて下さい。」
「……いいよ。そんな事。」
直視できない。いま俺はどんな顔してるのか分からない。口に手を添える。
「いえ、したいんです。この恩をきちんと返さなかったら、私が嫌なんです。」
「ん、そうか。じゃ、また行った時、なんかさせてもらお。」
「はい、是非いらしてください。」
娘は一礼してどこかへ行ってしまった。
「あ゙ぁ、ずるいって。その顔は。あ゙ぁー。」
――――――――――
「……ぁ、」
娘だ。今度は自分から声を掛けよう。
「元気…………」
手を重力に任せる。
「あぁ、どこ行っての。遅いよ。」
「ごめんごめん、じゃあ、行こうか。」
知らない男と娘が笑い合っている。
「…………。」
期待した自分が馬鹿だ。季節外れの朝顔が咲いていた。
恋愛になってきた。こんなはずじゃなかったのに。