砂場男
「ねー、どーして、おすなばにうまってるのー?」
昼下がりのとある公園の砂場。少女は、顔以外、砂の中に埋まっている男にそう訊ねた。
「んー、どうしてだと思う?」
「しつもんにしつもんでかえしていいのー?」
「おぉう、ふふっ、そうだねぇ、そう返されるとは思わなくてちょっと驚いちゃったよ。あ、誰かにそう言われたことがあるのかな?」
「うんー、ママに言われたー」
「そうかぁ……その時、ママは怒っていたのかな?」
「んー、ときどきそうなの」
「そうかぁ……」
「たいへんだよねぇー」
「自分で言うんだね」
「それで、おじさん。どうしておすなばにうまってるのー?」
「んー、天国が見たいからかなぁ。ほら、こうしていると空が広く大きく見えるだろう? 届きそうなくらいにさ」
「ぱんつがみたいのー?」
「急だね」
「男の子たちがたまにそうするのー。じめんにねっころがって」
「ええと、君は今、幼稚園に通っているんだよね? そこの子たち? それは許せないな本当に」
「おじさんもゆるされないんじゃないー?」
「耳が痛いね」
「だいじょうぶ?」
「ああ、そういう意味じゃないから大丈夫だよ。耳は平気」
「そうじゃなくて、しずんでるから。ぱんつみるの、はずかしくなった?」
「いや、見ようとしてないから。本当に、あの、本当ですってば」
「またしずんだー。はずかしいんだ。はずかしいおとな」
「おぉう、まあ、そうだね……恥ずかしい大人だよ……」
「あ、すこしういたー」
「え、そう? それは嬉しいね。それで、君は今、一人で遊んでいるのかな?」
「うん」
「そうかぁ……友達はいる?」
「おじさん、あたしがひとりだとうれしいの?」
「え? そんなことはないけど。いや、まあ、こうして話せるから嬉しいと言えば嬉しいかな、あ、違う、都合がいいとかじゃなくて、いやいやいや違いますから本当に」
「またしずんだー。しずんだり、ういたりするの、たのしい?」
「いや、楽しくはないかな。自分の意志でやっていることじゃないし」
「まるで、じんせいみたいだね」
「ああ、ふふっ、確かに人生というのは浮き沈みがあるね。君も、もしこの先つらいことがあって気持ちが沈んでも、必ず浮くときがあるからね」
「おじさんは、しずんでばかりのじんせいでたのしい?」
「おおぅ……あ、でも君とこうして話しているのはとっても楽しいよ」
「おじさんは女の子がすきなんだね」
「ううーん、そういうわけではないけど……でも世の中にはそういう人もいるから気をつけなきゃね。その、一人で遊ぶのもいいけど友達を作ったり、あとママともできるだけ一緒に過ごしたりさ……」
「女の子いっぱいのほうがおじさん、うれしいんだ」
「いや、連れてきてほしいとかじゃなくて、いや、あの、変態とかじゃないからね!? おじさんは実は――」
「あ、ママだ!」
「え、まずい、いや、まずくないけど、ああぁぁぁ違うんだ、あ、沈む、地獄は嫌――」
「ともだちもいるし、ママともなかがいいからだいじょーぶだよ。ねえ、ママー!」
「はーい、あら砂だらけ。ほら、蛇口で手を洗って。数分だけど、一人で大丈夫だった?」
「うん、あそこに、あれ?」
「ん? なーに?」
「ううん、ねえ、パパってさぁ」
「え!? どうしたの急に」
「ううん、どこにいるのかなーって」
「ああ、ママも知らないの。どっか行っちゃって、ろくでもない、あっ、ううんえっと……でも、どこにいても、ちゃんとあなたのことを想ってるよ。きっとね……」