◇第1節◇
ランダッシュにいよいよ本格的な夏が到来した。
この国の夏は長い。
そして暑い。
太陽もよく飽きずに毎日さんさんと照りつけるものだ。
「何処か涼しい場所はないのか~」
ランダッシュは夏が半年も続くのだ。
「ヨハーン!」
「だだをこねるんじゃありませんよ。ジタバタとみっともない……」
「カンペリに行くぞ手配しろ」
そう宣言すると薄毛の第二執事はずり下がった眼鏡をくいくいと押し上げながら、
「何をしに?」
「避暑に決まっているだろう」
「何を好きこのんであんな片田舎に。というかここより暑いですよあそこは」
「あそこには海があるだろう」
「ありますが、海で何をするんです」
「決まっているだろう。泳ぐのだ」
「泳ぐ?」
「海水浴、知らないのか?」
「なんでそんなことするんです?」
「楽しいし、涼しいから」
「そりゃあ海に入ってる時は涼しいかもしれませんがね。日がな海に浸かっているわけにもいかんでしょーが」
ヨハンは納得できぬ顔でしきりに首をひねる。
「行くと決めたら行くのだ」
「まったく気まぐれな……」
使用人のボブに命じ、大急ぎでカンペリまで馬を飛ばさせた。
侯爵子息が訪れることを地元の民に知らせたり、もろもろの手配をさせるためだ。