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侯爵子息の我儘な行状  作者: 相楽 二裕
行状1 芯が空洞の木を探せ(あつい)
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◇第4節◇

「ヒィフゥ……」

 ちょっと斜面を登っただけなのに、ヨハンはもう息が上がっている。

「情けないやつだ。普段からもっと体を鍛えておけ。でないと執事なんて務まらんぞ」


 結局、ヨハン、ゴドー、エリザベスのほかに手の空いている者といえば、執事のセビスから苦手な用事を押しつけられ、なんとか理由をつけてサボりたい使用人のヘンリとボブの二名だけだった。


 歩きながらゴドーに聞く。

「その木はどんな木なんだ。見分ける方法とかあるのか?」

「肝心の芯を囓られて、立ち枯れているからわかるとういことですがねえ……」


 探しまわったところで、いっこうにそれらしい木は見つからない。

 一日目は徒労に終わり、それだけでもう疲れきってしまった。

 しかし諦めたくはない。


 三日間探し回ってようやくそれらしい木を一本、ボブが見つけたという。行ってみると丁度良い太さの木だった。


「ゴドー。こいつを根元から切って屋敷に持っていくんだ」

「へえ」


 ある程度の長さに切ったそれを馬車の屋根に括りつけて運んできた。

 屋敷に着くと、俺はあとのことをヨハンに言いつけ、厨房に駆け込んで料理人のジェムスに命じた。


「ジェムース!」

「はい……なんでしょうか」


 厨房から顔を出した恰幅の良い男は、あからさまに乗り気でない表情で俺を見る。


「小麦の粉を出せ」

「何をするおつもりで?」

「粉を水と少量の油で練って引き延ばすんだ、手を貸せ」


 ジェムスは額にしわを寄せた。


 この料理人、俺がいつも無茶な注文をするので俺をみるとすぐこういう顔をする。

 三日前、急に弁当を作らされた恨みも今回は重なっているらしい。


 以前は宮廷料理人だっただけあって、ウデは確かだが、それだけに料理人としてのプライドは無茶苦茶高い。

 なんでも城の厨房の人間関係が原因で退職を余儀なくされ、ウチで働くことになったのだそうだ。

 よくある話だ。


 俺はみずから伸ばし棒を手にした。アレ(・・)のちゃんとした作り方など知らないが、とりあえず想像でいろいろ生地をこねたり伸ばしたりしてみる。しかし俺ではなかなか思うようにはならない。諦めてジェムスに作業を引き渡すとしぶしぶ生地をこねくり始めた。


「可能な限り細くしろ」

「はぁ」


 俺の指導のもと、何度かやり直しもさせ、試行錯誤のすえ少しはマシなものになった。


「できました」


 完成品を見て俺は項垂れる。


「細うどん程度ではないか」

「これ以上は無理です」


 やはりあれを作るには専門の技術が必要なのだな。


「俺は少し庭の方を見てくるから、その間これを大量に作っておけ」

「夕食の仕度もあるんですがね」

「俺の読みが正しければ、晩めしの支度は不要になるだろう」


 そうは言われても……と困惑顔のジェムスだった。


 トトンガの木は縦真っ二つに切らせた。


 ヨハンが、

「これなら修繕係のトムに普通の木をくりぬかせた方が早かったのでは……」

「な……」


 我が家にそういうことが出来る職人がいるのなら、早く言って欲しかった。


「ま、まあよい。それを並べろ」

「これを?」

「樋を斜めにしてだな、上から水を流せるように足場を組むのだ」

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