第49話 強くなりたい
「あの……私もアドルさんに忠誠を誓います!」
イモ兄妹をエリクシル化した所で、急にエンデさんに真剣な表情でそう宣言されてしまい、俺は目をパチクリさせる。
驚くべき事に、スキルは彼女にも反応を示した。
それは言葉だけではなく、俺に心の底からエンデが忠誠を誓った証だ。
いや……意味が分からないんだが?
「私は……強くなりたいんです!だから力をください!!」
「強くなりたいってのは分かる。でも、説明を聞いてたよね?」
エリクシル化には、大きなリスクが伴う。
一度変化すれば、主の命令には絶対逆らえなくなるのだ。
それは言ってしまえば、俺に一生を捧げるに等しい。
いくら力が手に入るとは言え、普通の人間なら絶対にそんな契約は望まないだろう。
「勿論です。アドルさんの命令に逆らいません。だから……」
エンデが硬い意志の籠った瞳で、真っすぐに俺を見つめる。
その目を見る限り、覚悟は決まっている様だった。
いや、スキルが反応しているのだから目を見るまでも無い事だが。
「えーっと……話を聞かせて貰っていいかな?何でそんなに力が欲しいのかを」
何故エンデがそこまでして力を欲するのか?
俺はそれが気になって尋ねた。
正直、ホイホイ他人の人生を背負うつもりにはなれない。
彼女をエリクシル化するかは、その内容次第だ。
「はい。私は――」
エンデが自分の事を話しだす。
「……」
彼女は王国最強と称えられるゾーン・バルターの娘としては、極極平凡な存在だ。
偉大なる父親と、その平凡な娘。
本来ならば直ぐに期待が薄れる筈の条件だったが、周囲は彼女に期待し続けた。
――何故なら、エンデの父親であるゾーン・バルターも又遅咲きだったからだ。
そしてエンデ自身も、努力し続ければいつかきっと父親の様になれる。
そう信じ、血の滲む様な努力を続けた。
だがある日、エンデは父親から告げられてしまう。
「エンデ。お前がこの先どれ程努力しようとも、私の様にはなれん。無理をしてまで戦士の道を進まなくてもいい。お前の生きたい様に生きなさい」
王国最強であり、崇拝してやまなかった父親からの自身に対する無能宣告。
それはエンデを失意のどん底へと突き落としてしまう。
だが、彼女はそれでも諦めなかった。
諦められなかった。
父に認められたい。
その一心で、エンデはそれからも必死に努力し続けた。
だが努力すれば努力する程、自分に才能がない事を彼女は痛感させられてしまう。
以前ならば、それでも自分はゾーン・バルターの娘なのだからと、信じて頑張る事が出来た。
だが父親にその才能を否定されてしまった以上、彼女にとって努力は、ただ絶望と言うゴールに進むだけの物へと変わってしまっていた。
――それでも。
――ひょっとしたら。
そんな思いから、エンデは諦めず努力し続ける。
本当は無駄だと分かっていながらも。
「私は、父に認められたいんです。どうか、お願いします」
そう言って、彼女は深く頭を下げた。
「……」
エンデの目的は父親に認められる事。
そんな事の為に、リスクの高い契約を結ぶなんて愚かな事だ。
けど――
俺の前世は、働き過ぎの過労死だった。
死に追いつめられる程の労働。
実際問題、俺自身それが異常な状態だという事には気づいていた。
それでも俺がその環境から逃げずださず、無為とも言える努力をし続けたのは、親の遺した――「真面目に頑張れば、絶対に報われる」――と言う言葉を信じたからだ。
だが思う。
異常だと気づいていながらも、それでも親の言葉を信じて頑張ったのは、天国で見ている両親を失望させたくなかったからではないか、と。
努力しきらず、逃げだす様な無様な姿を晒したくなかった。
天国で再会する事があったなら「よく頑張った。お前は自分達の誇りだ」と言って欲しかった。
だから俺は死に物狂いで、それこそ死ぬまで頑張ったのだと、今ならそれがハッキリと分かる。
なんて事は無い。
結局は俺も、親に認められたくて無茶し続けてた訳だ。
……そう言う意味では、俺とエンデは似てると言えるな。
もし仮に俺がエリクシル化を断っても、エンデはきっとこの先も諦める事無く努力を続けるだろう。
父親に認められるという、叶う可能性の低い願望に向かって。
「……」
俺の時は、努力が絵にかいた様なバッドエンドだった。
だがエンデのラストは、俺次第である程度変えてやる事が出来るのかもしれない。
そう考えると――
「やれやれ……」
……共通項を見つけてしまうと、ついついその相手の事を応援してやりたくなってしまうな。
けど、このまま無条件と言う訳にはいかない。
最終確認はさせて貰う。
「エンデの気持ちは分かった。けど、俺はとんでもない理不尽な命令を下すかもしれないぜ?気に入らない奴を殺せって」
「この2週間……アドルさんと一緒にやって来て、そんな人じゃないって事は分かっています。戦闘は今一でも、人を見る目だけはあるつもりですから。私」
「……それはどうだろうな?」
俺は袋から冷凍用のズタ袋を取り出し、その中身を彼女に見せた。
「――っ!?」
それはザーン親子の死体だ。
トラブルがあったせいで、まだ処理できていなかった。
彼女はそれを見て、顔を強張らせる。
「こいつらは、俺と敵対したから殺した」
ベニイモが何か言おうとしたが、俺はそれを手で制す。
事情は敢えて伝えない。
――これはテストである。
どんな状況でも、俺を強く信頼してくれるかどうかの。
もし本気で俺を信じるというのなら、その時は責任を持って彼女の面倒を見ようと思う。
けどここで揺らぐ様なら、残念ながらそこまでだ。
エンデの力になってやりたいとは思うが、俺にもやるべき事がある。
中途半端な関係の相手の為に、腐心してやれる余裕はない。
「きっと何か事情があったんだって……私は判断します。だって無暗に人を殺すような人を、ベニイモさん達が心から信頼する訳ありませんから」
エンデは笑ってそう答える。
考えは変わらない様だ。
とは言え、表面上だけかもしれないので確認する。
「エンデさん。もう一度、俺に忠誠を誓って貰っていいかい?」
もし考えが変わったなら、スキルの反応が変わる筈だ。
「はい!私はアドルさんに忠誠を誓います」
だが、スキルは変わらず彼女に反応する。
口先だけではない様だ。
「わかった。君に力を――」
俺はエンデさんに、エリクシルのスキルを発動させる。




