第39話 おあずけ
「まあ順調だな」
出て来た魔物は、今の所ミノタウロスにアラクネ。
オーガスケルトンと、スケルトンウィザード位の物だ。
普通の冒険者なら相当苦戦するレベルの強力な魔物なのだろうが、この程度ならドラゴンを屠ったイモ兄妹の敵ではない。
2人のコンビネーションを駆使すれば、対応は容易い事だ。
「よしっと」
今倒したミノタウロスの角を切り落とし、袋に詰める。
こいつは角に魔力が集中しているので、オプション付与の触媒として使えるのだ。
他にも換金できる部位はあるのだが、それらは放置しておく。
袋にはまだまだ入るとは言え、このダンジョンは長丁場を想定しているからな。
少々勿体ないが、価値の低い物は捨てていかないとそのうち入りきらなくなってしまう。
「じゃあ次の獲物を探すとするか」
察知は殺気に反応するスキルなので、相手が此方に気付いてくれていないと反応しない。そのため、探索用途としては微妙だ。
範囲もそれ程広くないと言う欠点もある。
だから、魔物の居場所を見つけるのには魔法を使う。
脳内に魔法陣の立体イメージを思い浮かべ、そこに魔力を流し込んで俺は探索魔法を発動させた。
魔法は俺に周囲の生命反応の情報を指し示す。
「ん?」
「師匠、どうかしましたか?」
「ああ、いや。単独で魔物と戦ってる反応があったから、ちょっと驚いただけだ」
魔法による生命反応の探知は、人間と魔物の違いなども判断出来た。
どうやら、単独でこの深層を探索している冒険者がいる様だ。
きっと腕の立つ人物なのだろう。
俺はそんな風に思ったのだが――
「こんな場所でソロを考える狂人は、師匠達位の物だ。ひょっとしたら……パーティーが壊滅したのかもしれないぞ」
「――っ!?」
タロイモに言われて気づく。
確かにソロで無茶していると考えるより、その可能性の方が遥かに高いだろう。
「それだと、早く助けに行った方が良いな」
まあ実はソロで頑張ってましたって可能性もあるが、その時は引き返せばいいだけだ。
「速度を出す!二人は後からついて来てくれ!」
ブレイブオーラ発動させ、反応のあった場所へと急行する。
二人の足ではこの状態の俺の速度には付いてこれない。
緊急なので一人で先に行かせて貰う
俺は、途中にある罠などをワザと踏み抜きながら突っ走った。
罠を発動させるのは、後から来るタロイモ達が引っかからない様にするためだ。
幸いルートは一本道なので、はぐれる心配は無い。
「いた!」
冒険者は黒髪の女性だった。
彼女は下半身が蜘蛛で、上半身が人間の女性の様な姿の魔物――アラクネと戦っている。
いや、正確には『戦っていた』が正解か。
その全身には蜘蛛の糸が張り付き、絡めとられている状態だ。
もう真面に動けていない。
「ぎゅぎゃぎゃぎゃ」
上半身が人の姿をしてはいても、アラクネは言語を持たない。
所詮は魔物だ。
奴は嬉しそうに奇声をあげ、ぐったりとしている彼女の首筋に噛みつこうとしていた。
楽しい楽しいお食事タイムなのだろう。
だが――
「残念。お預けだ。来世までな!」
その直前で、俺は奴の首を跳ね飛ばす。
最高の気分で即死できたんだから、まあこいつも満足だろう。
「おい!大丈夫か?」
声をかけても返事は帰って来ない。
だが呼吸はしているので、単に意識を失っているだけの様だ。
「急いできたのは正解だったな」
もし他の二人の速度に合わせていたら、きっと間に合わなかっただろう。
「取り敢えず――」
俺はアラクネの糸を切り裂いて、彼女の体を解放する。
あちこち怪我をしてはいる様だったが、ぱっと見、重篤な外傷は見当たらない。
「回復はポーションでいいとして、一応解毒もしとくか」
それ程強力ではないが、アラクネは毒を持っている。
毒による異常はなさそうに見えるが、一応念のためだ。
俺はポーションを無理やり女性の口に流し込み、解毒の魔法を発動させる。
「師匠!」
少し遅れてベニイモ達がやって来た。
「ギリギリセーフだ。タロイモが気づいてくれなきゃ、危うくこの人を見捨てる所だったよ。お手柄だ」
「俺は……思った事を口にしただけなんで――ん?その人は」
タロイモが倒れている女性に反応を示した。
「あっ!エンデさん!」
「二人の知り合いか?」
「騎士学校の2つ上の先輩だった人です」
「そうなのか?」
騎士学校は、まあ騎士になる為入学する場所だ。
そのため卒業生は、ほぼ騎士になるのが決まっている。
そんな女性がこんな所にいるって事は、ベニイモ達の様に何らかの訳ありって事だろう。
「彼女はあの、ゾーン・バルターの娘ですよ」
「ゾーン・バルターの?」
俺に強い殺気を向けてきた、壮年の男性の姿が脳裏に浮かぶ。
「って事は、貴族のお嬢さんか」
ゾーン・バルターは最強の市民なんて呼び名から勘違いされがちだが、バルター家自体はれっきとした名門貴族だ。
当然その娘も貴族に他ならない。
そんな女性が、何故ダンジョンの深層などに来ていたのか?
謎だ。
ま、余計な詮索をする気はないが。
「しかし……ゾーン・バルターの娘って事は、パーティーじゃなくソロで来てたって事になるな」
ソアラと言う超例外を除けば、彼は王国一と呼ばれる存在だ。
その血を引く娘なら、親譲りの優れた資質を持っていてもおかしくない。
アラクネ如きにやられていたのが気になるが、それまでの連戦の疲れや油断からと考えれば、まあそこまで不思議ではないだろう。
「いや、それはありえない」
タロイモが俺の考えをキッパリと否定する。
ここまではっきり言い切ったという事は、明確な理由があっての事だろう。
「ん?何でだ?」
「エンデさんはその……平凡と言うか。あんまり強くはなかったんで」
「え?そうなのか」
「はい。レベルもそうでしたけど、戦闘技術自体も大した事はなかった感じです。とても単独でこんな場所に来れるとは……」
親が天才だからって、子も天才とは限らない訳か。
「って事は、パーティー壊滅で間違いなさそうだな」
パーティーメンバーが生き残っている可能性を考慮し、俺は彼女の介抱後すぐに探索魔法を再度使って周囲を確認している。
だが魔法の範囲内に、他の人間は引っかからなかった。
周囲に誰もいないのなら、壊滅したと考えて間違いないだろう。
まあバラバラに逃げて遠く離れた場所にいる可能性もなくはないが、それは希望的観測が過ぎる考えだ。
まあエンデって人が気が付いたら、一応確認はするが。
「ぅ……ん……」
そんな事を考えていると、丁度エンデが目を覚ました。
彼女はゆっくりと瞼を開き、そして――
「――っ!?」
俺達から飛び退る様に跳ね起き、腰に手をやる。
剣を手に取ろうとしたのだろうが、残念ながらそれは地面に転がっているので空振りだ。
「安心してくれ。魔物は倒した」
「あ……ぇ?」
「お久しぶりです」
「エンデ先輩、私達の事覚えてます?騎士学校の後輩のベニイモと、兄のタロイモです」
「貴方達……」
声をかけられ、やっとベニイモ達に気付いた様だ。
彼女は慌てて周囲を見渡す。
「私……たす……かったの?これって夢じゃ……ないのよね?」
現状を確認した今でも、その表情は未だに信じられないと言った顔だ。
「魔物なら、師匠がビシッとやっつけたんで安心してください」
「うっ……うぅ……ぐぅ……」
ベニイモの言葉に、彼女は膝から崩れ落ち尻もちをついた。
そしてそのまますすり泣き始める。
緊張の糸が切れて、感情が溢れ出したのだろう。
どう考えても絶体絶命だったからな。
まあ暫くは泣かせておいてやろう。




