第29話 潜入
「取り敢えず結界に穴を開けて……と」
城壁に辿り着いた俺は、袋からパチンコ玉の様な小さな丸い鉄の球を取り出す。
一見これは只の丸く形成されただけの鉄だが、俺が製作している以上、ちゃんとオプションが付いている。
その効果は結界に穴を開けるという物だ。
魔王城に侵入する事になった時用に用意したアイテムだったのだが、まさか人間の城に張られている結界に使う羽目になるとは夢にも思わなかった。
「よし、じゃあ入るか」
周囲に人気が無いのを確認してから、城壁の上に――結界に玉を投げつける。
すると結界に触れた瞬間それは中空に留まり、結界に人が通れる程度の小さな穴が開く。
このアイテムの優秀な所は、結界を破壊するのではなく穴を開ける点にある。
結界を破壊すればすぐに異変となって気づかれてしまうが、小さな穴を開けるだけならその心配がないという訳だ。
「よし」
跳躍して穴を通る際、玉は素早く回収しておく。
使い捨てのアイテムではないし、何より玉が浮いたままだと誰かに気付かれてしまう恐れもある。
俺はアイテム類の効果をフル活用し、見つからない様に軽く周囲を探索する。
どうやら夜間は結界頼りの守備体制の様で、巡回などの警備はそれ程ではない様だった。
簡単で助かる。
まあ所々に結界が張ってはいるが、それらは全て鉄球を使えば問題ないからな。
「いるなら、やっぱ宿舎だよな」
もしくは親衛隊なので、王族の夜の警護を務めているか。
最悪家に帰っている可能性もあるが、それは探して見つからなかった時に考えよう。
「とはいえ、どれがどれか分からないし。近くの建物から調べるか」
敷地内には中央に城があり、その周囲にいくつか大きな建物が建っていた。
特に当てもないので、俺は手近な場所から探索する。
「ここは外れだな」
最初の建物は、男性使用人達の宿舎だった。
特に特筆した物はない。
一応、一部屋一部屋をチョーカーの透視効果で確認したが、ゼッツさんは確認できなかった。
その隣は女性用の宿舎だ。
此方も特筆する部分はない。
強いて上げるなら、両方使用人達の為の物なので、警備や結界がなかった事ぐらいだろうか。
まあ流石にそこにコストはかけないだろうから、当たり前か。
次は図書館のような場所で、中はもぬけの殻だった。
入り口に警備は立っていたが、それだけだ。
書物に関しては特に大事にされていない。
もしくは、重要な物はここには収められていないんだろう。
4つ目の建物に向かう途中、庭園を横切った。
そこで俺は思わず足を止める。
月明かりの中、幼い銀髪の少女が一人座り込んで花に触れていたからだ。
身に着けている物は一目で上質と分かる。
恐らく王族の人間だなと、俺は直感でそう判断した。
――けど、こんな夜中になんで王族の子供が?
辺りにはお付きの人間や、警護の騎士は見当たらない。
一人で黙って部屋を抜け出して、外に出て来たという事だろうか?
「――っ!?」
その時、察知のスキルが周囲から複数の殺気を読み取り反応した。
どうやら俺の潜入がバレてしまった様だ。
その理由は分からないが、俺は気配を殺しつつ急いでその場を離れようとする。
――が、そこで気づく。
殺気を放つ者達が、俺ではなく少女を囲む様に動いている事に。
そしてその動きから、俺には気づいていない様に思えた。
女の子の護衛の騎士が彼女を迎えに来た?
いや、ないな。
もし護衛なら、殺気を放つ理由に説明がつかない。
俺に気付いているのならともかく、気づいていない訳だし。
――少女の暗殺。
そんな嫌な答えに達した俺は、確認のため動く。
茂みの影に隠れながら、殺気を放つ気配の一つに素早く近づきその姿を透視する。
そいつの格好は黒尽くめだった。
この格好で騎士はないだろう。
暗殺と考えて間違いない。
しかし……一晩に二件の暗殺に遭遇するとか、この国はどんだけ治安が悪いんだよ。
まあぼやいても仕方がない。
流石に少女を見捨てる訳にもいかないので、俺は茂みから飛び出し目の前の暗殺者を瞬殺する。
……初めて人を殺しちまったな。
今回は無力化ではない。
相手を確実に始末しておいた。
先程の襲撃とは違い、今回は無力な少女を守らなければならないからだ。
中途半端なダメージで放置して、万一が起こっては洒落にならない。
正直気持ちのいい行動ではないが、ここは心を鬼にするしかないだろう。
「ちっ!」
丁度その時、暗殺者達が一斉に少女に襲い掛かろうと動いた。
俺は身体能力が2倍になるブレイブオーラと、アンクレットのシャドーダッシュを同時に発動させ、少女の前に躍り出て手近な暗殺者を切り伏せる。
いきなり弾丸の様な速さで突っ込んできて、仲間の一人を斬り殺した俺を警戒してか、暗殺者達の動きが止まる。
チラリと少女の方を見ると、驚いた表情で俺を見つめていた。
そりゃま、驚くよな。
けど、流石に俺が彼女を守ったという事位は分かるはず。
そう思い、俺は少女に笑顔で優しく語り掛けた。
「俺が君を守るから、少しじっとしててくれるかい?何、直ぐに終わらせるさ」
俺がいれば大丈夫。
そう彼女を安心させるために。
「お願い……します」
少女はちゃんと俺を味方と認識してくれた様だ。
今一番困るのは、彼女が俺から逃げ出そうと動き回る事だからな。
これで余程の事がない限り大丈夫だろう。
「貴様……何者だ?」
「そりゃこっちの台詞だ。お前らは何者だ?」
「ふん、貴様が知る必要は無い。王女と纏めて男を殺せ!!」
リーダーと思しき男が号令をかけると、暗殺者達が例の投擲武器を一斉に投げつけて来た。
今度は正面だけではなく、360度な上に護衛対象もいる。
だがまあ、ブレイブオーラで能力が二倍になっているので全く問題ない。
俺は飛んで来たそれを手にした剣で全て完璧に叩き落し、素早く何本か拾って逆に投げ返してやる。
「ぐぁ!?」
「ぎゃ!!」
投擲のマスタリーはないが、素のパワーが違う。
例え適当に投げても超高速の一撃となるので、暗殺者共は回避できず頭部にもろに直撃。
そしてそれはそのまま脳を貫いて、完全に相手の息の根を止めた。
「貴様!アサシンか!」
「お前らと一緒にすんな!」
更に拾って周囲の奴らに投げつける。
当然誰も対応できないので、リーダーを除く暗殺者全てが息絶え庭園に崩れ落ちるまでに5秒とかからなかった。
「馬鹿な……貴様は化け物か……」
リーダーと思しき男はそう呟くと、剣を自分の胸に差し込み自害してしまった。
どうやらこの世界の暗殺者ってのは、失敗すると自害するのがデフォルトの様だ。
「な、すぐ終わったろ」
少女に笑顔で笑いかけてから、死屍累々の場面でやったら逆に怖いなと気づく。
だが彼女に恐れた様子はなく、笑顔を俺にむけてこう言った。
「はい。王子様」
――と。
いや、俺平民だから王子様じゃないし。
そもそも不法侵入者なんだが?




