第21話 製作スキル
魔王は神の力を受けている。
この世界には創造と、そして破壊の神が存在していた。
俺にチートクラスを授けたのは創造の神であり、そして魔王が力を受けているのは破壊の神だ。
同じく神の力を受けた者同士ではあるが、元が魔王と只の人間、条件が同じであればどちらが勝つかは考えるまでもないだろう。
だから神は俺では勝てないと言ったのだ。
そんな神が、唯一勝機を見いだせる術として俺に提示したのが、強力な装備を手に入れる事だった。
基礎能力で勝てないのなら、装備で差を覆せばいいと。
だが現実問題、力ある武具は神器と呼ばれ、国などの国宝になっており俺が入手するのは難しい。
それにそもそも、魔王との力を覆すだけの物は既存の武具の中にはないと神に言われていた。
じゃあどうするのか?
答えは簡単だ。
無いなら作ればいい。
神器と呼ばれる様な強力な武具は、基本的にブラックスミスのクラスを持つ者が作った物である。
そして俺は、全てのクラススキルを網羅出来るスキルマスター。
スキルさえ習得すれば、同じ事が出来るという訳だ。
「成程。武具の製作の為に、素材集めをされてたんですね」
「ああ」
ベニイモ達には俺が転生者である事。
神によって特殊なクラスが与えられている事を伝え、お告げの話を納得してもらっている。
そして彼らでは、魔王との戦いで戦力にならない事も改めて伝えた訳だが……
「だったら、私達の分もお願いしますね」
にも拘らず、二人は俺と共に戦うと言って聞かない。
「冗談抜きで、俺と一緒に行動したら死にかねないんだぞ?」
「安心してください。出しゃばって師匠の前に出たりしませんから。私達だって雑魚を蹴散らすサポートぐらいできますよ」
「師匠、足手纏いなら俺達の事は切り捨ててくれていい」
と言った感じだ。
兄妹そろって、一度決めたら梃でも動かないのは相変わらずの様だった。
「私達を死なせたくないって思ってくれてるんだったら、強力な装備をお願いしますね」
「素材集めなら、俺達も手伝う」
「やれやれ」
まあまだ、ソアラの敵討ちまでには時間がある。
神様が言うには、少なくとも後5年間は魔王は動かないらしい。
詳しい事情までは聞けなかったが、どうも破壊の神との契約の都合だそうだ。
5年あれば、俺のレベルをカンストさせる事は可能だろう。
100が上限のイモ兄妹と、150まで上げる事の出来る俺との圧倒的な実力の差。
それを見せつければ、彼女達もきっと諦めてくれるはず。
まあ今も実力差は十分あるが、限界同士の比較の方が明確に差が浮き彫りになるからな。
「そう言えば師匠の持ってるその袋。凄い許容量ですけど、師匠が作った物なんですか?」
「ああ」
「鍛冶スキルって、そう言った物も作れるんですね」
「いや、これはアルケミスト――錬金術系のスキルで作った物だ」
ブラックスミスの製造系スキルで作れるのは、武器や防具類のみだ。
俺の持ってる特殊な効果を持つ袋なんかは製作する事は出来ない。
それに対しアルケミストの錬金術スキルは、武具以外のアイテムやアクセサリーを製作する為のスキルとなっている。
魔王と戦うにあたって、有用な物は多ければ多いほどいいからな。
色々な物を生み出すために、俺は錬金術系のスキルも既に習得済みだった。
「本当に何でもありなんですね。師匠のクラスって」
「それが売りの、神の祝福を受けた特殊クラスだからな」
戦闘以外にも対応でき、勇者並みの強さを持つ。
それがスキルマスターだ。
神話級と銘打たれるのも伊達ではない。
「それで、武具ってどうやって製作されるんです?やっぱどこかで工房を借りるとか?」
「いや。スキルの武具製作には、炉や必要となる製作環境を展開させる効果もある。だからある程度広い空間のある場所なら、どこでも製作は可能だ」
生産系のクラスは、市民と同等の物以外は能力を上げる様なスキルが一切ない。
その代わり、スキル自体は結構強力な効果を持っていたりする。
ただ環境の展開は大量の気力や魔力を消費するので、並のブラックスミスでは扱うのは難しい。
だから普通は既存の工房を使う物だが、その点俺は全く問題なかった。
其の辺りのステータスも、別クラスのスキルでもりもり上がってるからな。
「後で村はずれで製作しようと思ってたんだけど、見るか?」
「是非!」
ベニイモは嬉しそうにそう答えるが、タロイモからは特に反応は返ってこない。
まあ純粋に製作に興味がないのか、俺に対する腹立ちが収められないのか。
そんな兄にベニイモが声をかけるが――
「タロイモはどうするの?」
「俺は……訓練してくる」
妹の問いにそう答え、タロイモは宿から出て行ってしまった。
「すいません、師匠」
「ベニイモが謝る事じゃないさ。元々の原因は俺にあるんだし」
「そんな!ソアラ師匠が亡くなったのは、アドル師匠のせいじゃありませんよ」
「……」
仮に俺が一緒にいたとして、ソアラを助けられた保証はない。
だが、可能性はあったはずだ。
――俺が側に居れば救えたかもしれない。
たられば話ではあるが、そう考えると、自分に責任がなかったなんて考えるのは無理だ。
俺はあいつの相棒だったんだから。
「師匠……」
「ま、その話はいいだろう」
俺は暗い気分を振り払う様に、明るく振る舞う。
兎に角、今は自分の出来る事をするだけだ。




