アンラッキー
不幸な少年と幸福な少女の物語。
不幸と幸福。どっちが勝つのか。
そんな話。
はてさて、どっちが勝つのか。
一人称コメディー練習作品。
自分が運のない人間だという自覚はある。
じゃんけんをしたら3手以内に負けが決まるし、
テストで4択回答を運に頼れば間違いなく間違える。
どっちかを迷えば、ほぼほぼ間違えてしまうという自覚は腐るほどある。
何もなくても、突然、車に水をかけられたこともあるし、
水巻きしているおばちゃんやおじちゃんに水をぶっかけられて謝られたこともよくある。
制服にふんがついても、またかーって思う程度になってきた。
カバンにはいつも替えの制服が一着入れているほどだ。
運が悪いなら逆にという発想は私にもあった。
でも、ほんとに運が悪い人間はそれでも、逆にしたことで痛い目を見る。
結局運が悪い人間というのは、何をしてもうまくいかないのだと思っていた。
「結局逃げてるだけじゃない?」
最初何様だと思った。
運が悪いというのをなめるなと言いたくなった。
「じゃあさ、明日は私と一緒に居たらいいよ。
私さ、運がいいほうだからさ」
「面白い。なら俺の運の悪さ見せてやるわ」
この学校の帰り道、突然の雨にずぶぬれになって帰って、明日がさらに憂鬱に感じた。
また、一人嫌われるのが決まった瞬間でもあったからだ。
でも、これが俺とあいつの1日の始まりだった。
朝、そうそうにあいつは迎えにきた。
ピンポーンという音で俺はベッドから転げ落ち、最悪の一日が始まった。
家族もそれにはため息をつき、トースターからパンを咥えて外に出た。
「おはよーって、何してるの?」
「めし食ってる」
あいつはこめかみを抑えた。
顔はかわいい顔なのに、梅干しをかみしめたような渋った顔には笑いそうになった。
「君はさ、まずは時間に余裕を持とうか。
運以前の問題な気がしてきたよ」
「は?」
何を言ってるんだこいつ。
「もういいからさ。そのパンを食べ終えてから行こうよ。
この時間なら遅刻はないだろうし」
そう言われてから、時計を見ると、ここから10分で学校への電車が来るのに、20分も前に家を出ていることに気が付いた。
「ちょっはやくね??」
「余裕をもって、って今言ったでしょ。せめて出てきて文句言ってよね。
もうここまで出たんだからゆっくり食べて行こうよ、待ってるから」
そしてあいつは携帯をいじり始めた。
少し腹が立ったが、どうせ一日のことだ。
どうせ、運の悪さにどうしようもないことがわかることだろう。
俺はあいつの隣でパンを食べ終え、ゆっくりと駅への道を歩いた。
「止まって」
「は、なんで……」
あいつの言葉とあいつが歩を止めたことで、吊られて止まった。
それと同時に車が前からきて、勢いよく隣を通って行った。
「なんだ? あの車。あぶねえなぁ」
「ほんとにね。こんな狭い道であんなスピードだして」
車を見送って、俺たちは再び歩き始めた。
そして初めて、何事もなく駅にたどり着いた。
ある意味でここ最近で快挙な出来事であった。
いやあるわ。
あいつと居ることが自体が不幸なあることなのかもしれない。
「そっちじゃなくてこっちにしない?」
「なんで??」
「んー君って、そこで毎回待ってるでしょ?」
電車を待っていると、場所にいちゃもんをつけてきた。
そこだと扉を通るのに、ちょっと左右に移動しなくてはならない。
なんというか、面倒ではあるが、少々程度ではあるが、面倒に感じた。
「ああ、だって扉近いし……」
「そうなんだ。じゃあ……この辺でも扉開くでしょ。
こっち側にしない?」
「だからなんで!?」
「それは、うんこっちに来てから話すよだから、こっちに来なさい」
むっとしたが、確かにその辺でも扉は開いた気がする。
文句の言葉を飲み込んで、俺はあいつの場所に移動した。
「で? どうして??」
「電線。上にあるでしょ?」
ふと見上げると、俺の立っていた立ち位置の真上に、確かに電線が通っていた。
なんとなく、その上に止まってる鳥が毛づくろいをしていた。
「なんだ? 鳥が怖いのか??」
「あーうん、そうだね怖いよ。だからこっちでもいいでしょ?」
「了解。すぐ入れるならこっちでもいいし」
俺はすぐさま理解して、同意した。
あいつは電車を待ちながら、立っている。
黙っていると美少女といっても差し支えないが、やはりちと胸が。
「どうしたの?」
「いや、なんか話題をと思ってな」
「あーそうだね。じゃあ自己紹介でもしようか。
クラスメイトなだけで、あまりお互いのこと知らないでしょ?」
そう言われて、ふと思った。
確かに詳しくは知らない。
それはお互い様なのだろう。
まあ、言い合いはしてもそれ以上の関係ではないわけだし、あいつのことを聞かれても
うるさいやつで、顔はかわいいやつだ。
くらいしか感想は浮かばない。
「言い出したのは私だし、私からね。
名前とかはいいよね?
私ね、バレー部に入ってるんだ。
君は野球部に入ってるの?」
どうやら部活関係の話らしい。
名前よくないんだけど、俺さ、お前の名前知らないんだけど。
「よく言われるが坊主だから野球部ってわけじゃない。
俺は帰宅部だ」
「まさか、ふんがつくから、髪を切ったの?」
「驚いた。なんでわかった?」
「皮膚につく方が嫌じゃない??」
「しっかり洗えばすぐ落ちるし、シャンプーの消費量が多くないからな」
「まあ、今日から私が一緒だし、もう髪伸ばしても大丈夫よ」
「ぬかしおるわ」
部活関係の話だと思ったが、すぐさま話が切り替わった。
なんというか、話やすくはあるが、ところどころ顔が近くなってなんというか。
そのー。
「あ、電車来たね。電車の中で話そうか」
「ああ、ああそうだな」
「2回言ったね」
そう言いながらあいつは電車の中に入った。
追いかけるように俺は電車の中に入った。
学校についた。
なんというか、何もなかった。
不幸に見舞われることも、なに一つとして起きなかった。
なんだろう少し、目頭が熱くなってきたのを感じた。
「え、大丈夫鬼島君!!」
「おい鬼島! どうした? 腹でもいたいのか??
肩につかまれ、すぐ保健室に……」
「いえ、大丈夫です。なんでも、ないんです」
慌てて、袖で拭って校門を歩いた。
それと同時に、突き飛ばされた。
「は?」
「ダメ!!」
すごいバカ力だった。
茂みに体を突っ込ませ、多少の痛みはあったが、やはり不幸に見舞われた。
俺の方が身長も体格もいいのに、テニス部とはいえ、運動部はやっぱ違うなーって思い。
とりあえず文句だけは言っておこうと、俺は茂みから出た。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!」
校門の前では血だらけになった道路と、その先を示すようにタイヤの跡のような血痕が残り、その先であいつが倒れていた。
急いで電話をしているさっきの教師を横目に、俺は走ってあいつのもとへと向かった。
「おい! しっかりしろ! おい!!」
どうしてだよ。
なんでだよ。
どうして。
「だいじょうぶ?」
「大丈夫なわけあるか? なんでどうして!!?」
意味が分からない。なんでそんなことをした!
「きみ、うんがないっていってじゃない?
よかった。なにもないじゃない?」
「何もないわけないだろ!
ふざけんな、このままじゃ今過去一不幸だわ!
ふざけてんじゃねえ!!」
「だいじょぶだいじょぶ。わたしさ、うんがいいほう、だから。さ。」
そう言いながら、あいつは目を瞬かせている。
少しずつ瞼が閉じていく、どうすればいいどうすれば!!
「声をかけ続けろ! 意識を飛ばしたら助からないかもしれん!
鬼島君の知り合いなんだろう!」
さっきの教師の言葉だ。
そうだなんでもいい。言え。なんか言え!
「おい! 寝んな! 俺を早くおこしといて寝てんじゃねえ!」
「ねてない。ねてないよ。だいじょぶ、だいじょーぶ」
「もうすぐ救急車がくる。寝ずに持ちこたえろ! 大丈夫だ。
すぐ来るから」
「おーげさだなあー。
まあうん、これもわるくないかなー」
笑いながら、彼女は少し血を吐いた。
内臓が傷ついた証拠だ。
まずいのは見ただけで分かった。
ほどなく救急車が来て、彼女は病院へと搬送された。
そして。
「なんで、こうなんだよ。
運がいいほうだったんだろ。ならなんで運よくよけてねえんだよ!
なんで俺の運の悪さに負けてんだよ!!」
「運がいいほうだって。君が傷つかなかったんだから」
「は? ふざけんな! 運がいいわけねえだろ!」
「はは、大丈夫だって時間はかかるけどしっかり回復するもん。
ほら、それからまた君と一緒に登校するもん」
「うっせえ。トラウマだわ。
お前と登校して、倒れられたらたまったもんじゃねえ」
あいつは生きていた。
奇跡的で、傷跡もつかず、ケガの後遺症もなく。
ただ3か月は入院になるということで、毎日プリントやらを届けて話に来ているわけだ。
「はは、でもやだよ。
私と一緒じゃないと君は運が悪かったんでしょ?」
事実として、彼女と一緒のあの日だけ、あの出来事以外の不幸は起こっていない。
だけど、それで彼女が傷つくのなら、俺は不幸に見舞われてもいいとさえ思えた。
「は、俺は超幸福だわ。
だからもういいから安心してろって!」
「やだって言ったでしょ?
もういいって言ってる時点で起こってんじゃん!
絶対治ったら一緒に登校するからね!」
「やめろって、絶対!
俺が傷つくよりつらいわ。
だからダメ。絶対ダメ!」
俺と彼女とのこの話は平行線だ。
絶対、登校は一緒にはしない。
絶対。絶対だ。
「くっ。どうしてこうなった!! 不幸だー」
「それはこっちのセリフだ!」
突然彼女は頭を抱えて今更、ケガをした不幸を呪った。
ほんと、ごめんなさい。
はい、不幸の勝利ー。
ただこのあとはどうなったのかは、本人たちのみぞ知る。
感想や評価をくれるとうれしいです。
返事できるか、よくわかってないですけど作者は超嬉しがります!