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生けるかたかた  作者: 幻中六花
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僕は生まれてはいけない

 僕は、外に出てキミとデートに出かけて、手を繋いで歩くのが夢。

 でも、外には出たくないという気持ちもある。だって僕は太っていて、みんなバカにするから。僕を人として見てくれないから。


『お前は外に出ちゃいけないんだぞ』って、みんなに言われるから。


 今日のキミはどこへ行くんだろう。恋人とのデートだって構わないよ。僕とキミはそういう関係じゃないもんね。

 僕はキミを見守っていられれば、それでいいと思ってる。


 ──僕はね、生まれてしまっては、いけないんだ。


 だって、僕が生まれるということは、キミともう一緒にいられないっていうことだから。


 だけど、僕は生まれて仕事をするためにここに引きこもってる。僕の仕事はキミを守ること。キミの命を守ることなんだ。


 キミに触れてみたいから生まれてみたいけど、生まれたらキミとは永遠の別れになる。だから生まれたくないけど、それじゃあ僕がここにいる意味がなくなってしまうんだ。

 僕は生まれるためにここにいる。


 僕とキミが出会ったなら、その瞬間に僕の命は消えてしまう。キミの命を守るために生まれて、僕の命は消えてしまう。命懸けでキミを守るんだよ。


 僕とキミは、ずっと一緒にいることができないんだ。キミの命を守る必要がないなら、僕は外に出る必要がないのだから。


 なんだか、世の中うまくいかないなと思う。神様は僕に意地悪しているのではないかと思うくらいだ。

 キミのことが大好きなのに、会ったら僕が死ぬか、僕が生きてキミが死ぬかだなんて。


 もしも『キミの命を守れなかった』なんてことがあったら、僕の存在価値がないんだ。


 ──ね、うまくいかないでしょう?


 きっと人間は欲深いから、大好きな人とずっと一緒にいることだけを考えて、相手のために命を投げ出すなんて人は少ないんだと思う。結局は自分が生きたいと思うのが、人間だって聞いた。


 僕はね、キミの命を守るためだけに、この部屋から出るんだ。

 一瞬だけ出て光を浴びるんだ。

 その瞬間に、キミの身体を受け止めて、僕は(しぼ)むんだ。


 ──僕はね、運転席側の、エアバックっていうんだよ。


 今日もキミを見ていてもいい?


 僕はね、キミとのドライブが大好きなんだ。だから、もうしばらくこのままでいたい。


「今日もお出かけ? 安全運転でいこうね。僕のことも、僕の家も、キミのことも、大切にしてね」



『生けるかたかた』

──完──

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