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ヴィランズが集う時

 ちなみに、このゲームにおいては既存作品のゲーム化、というものではなかったので、推しの声優さんが声を当てている、という理由でこのゲームを始める人が多かったと、色々な雑誌やネット上のアンケート調査結果で示されていた。

 一方、中の人には興味がなく、ただ惰性だけで始めた涼音には、そのゲームをプレイするきっかけというものには興味がなかったが、それで知ったものは計り知れなかった。


“悪役”であるアリア、リリス、ミスティア王女についてどう思っていたか、というと、正直、全く良い印象はなかった。

 というのも、通常の乙女ゲームに出てくる悪役令嬢というものは、身分の違いによるマナーや作法の指摘など、というある意味、貴族社会ではできていなければならないものを教えていくが、それがいじめのように描かれるスタイルが多いが、このゲームに出てきた三人は全くそんなことはなかった。


 全て個人の怨恨や政治的思惑による詐欺、放火未遂、拉致、器物損壊、殺人未遂そして反乱を画策、エトセトラ。


 こんな三人(プラスフレデリカの四人)の悪役っぷりが徹底しすぎていて、シナリオ担当者の先祖か前世はこの人たちに殺されたのではないのか、とネット上では言われたほどだった。

 ちなみに、当たり前な話ではあるが、ほとんどのプレイヤーたちから『共通の敵』として“敵”である四人の姿はみられていたが、『涼音』個人としては、特にアリアについて、頭はいいんだから、もう少しうまく立ち回れなかったのかと、考えたことはあった。



 だからこそ、私は――――私たちはうまく立ち回るんだ。


 アリアはすべてを書き終わったものを見た時、そう覚悟しなおした。


 だからといって決して権力を持ちたい、なんて思わない。ただ、平凡な日々が送りたいんだ。


 そのための努力をしていこう、そう決心した時だった。


「お嬢様、朝でござ――うわぉ」

 アリアなら起きていないだろう、と思って大声で叫びながら、勢いよく扉を開けたメイドはその姿に呆然とした。


「あら、おはよう、マリアンネ」


 彼女はそんなマリアンネを一瞥(いちべつ)し、先ほどまで書いていたノートを鍵のついた引き出しにしまった。


「お、おはようございます」

 マリアンネはショックから立ち直ると、すぐに着替えの用意を始めた。


「いやぁ、お嬢様が朝起きておられて、既に私を待っているとは、思いませんでした」


 確かマリアンネだけは昔から、アリアに対して、かなり気軽に話しかけてきた。だが、わがままなはずのアリアやリリスは彼女を一度も怒ったこともないし、クビにしてくれとも頼んだことはない、そんなような気がした。


 少しだけ自分の態度に内心、首を傾げながらも、アリアはマリアンネの言葉をしっかりと聞いた。


「そう」

「そうですとも。昨夜、お嬢様に異変があったって侍女長から聞きましたけれど、まさかここまでになっているとは思いませんでしたよ」

「――――――」


 メイドたちは普段は喋らずに主人の支度をする。

 だが、マリアンネはそんな決まり事さえお構いなしにアリアに話しかけてくるのだから、多分、アリアが諦めたのだろう。



 メイドに着せてもらったアリアは、朝食を取るために食堂へ向かった。


「おはようございます」


 まだぐっすりと夢の中らしい、妹以外はそろっていた。

 そう、父親さえも。


「あら、昨日の言葉は本当だったのね」

 昨日の時点で既に会っているエレノアは目を細めて、そう言った。どうやらアリアの改心を信じてくれたようだ。


「何があったのは言わんでいい。だが、身体は大切にしてくれ」


 父親であるマグナムは栗色の髪を掻きながら言った。

 まあ、そうはいっているものの、あのユリウスの一件といい、この人はあまり家庭のことに興味がないのだと知っているので、あまり深い意味ではないだろう。



 先に食事をとっていた父親は出勤の時間らしく、残りを食べきると、アリアの食事を待たずに席を立った。去り際に、


「今日、ミスティア王女殿下のところへ行くよな。最近、お前が顔を見せなかったから、寂しがっておいでだったぞ」

 と、アリアに言った。


 アリアはなんでそんなことを言うのか、という疑問とともに、さっそく来た、と心の中でガッツポーズを作った。


 ミスティア王女。

 現国王、ディートリヒ王の第三子であり、唯一の王女。アリアの三つ下の可愛い従姉妹だった。


 アリアの記憶が間違っていなければ、前に会った時には、伯母の影響を受けていなく、純粋な心をしていたはずだ。


 朝食後、アリアはようやく起きてきたリリスを連れて、王宮へ向かった。

 馬車の中でアリアはこれから先、どのようにして行けばよいのかぼんやりと考えていると、リリスに話しかけられた。リリスはアリアの容姿と瓜二つで、のんきな彼女の姿は、昨日までの自分を見ているようで、頭が痛くなった。


「ねえ、お姉さま、今回は叔母様に何をおねだりいたします? わたくし、伯母様のようなお爪に塗る紅が欲しいのです。あのエターナル侯爵家のミリアさんに見せたら羨ましがるかしら」


 リリスの言葉にアリアは冷たく妹の名を呼んだ。


「リリス」


「何でしょう?」


 妹は姉の言葉にきょとんとした顔をした。

 それもそのはず、今まで姉妹ともども、これをねだろうとか、こうお願いしてみよう、とか言い合ってきたんだから。


「あなたは生きたいの? それとも死にたいかしら?」


 だが、既にアリアにそのような甘い考えは持っていない。

 姉妹としての上情を一切、感じさせないその言葉に、リリスは少し背筋を伸ばした。


「おそらく、昨日までの私たちの性格じゃ、生きていくことは難しいわ。良くて没落、悪ければ――――殺されるわね」


「―――で、でも、伯母様に言えば、なんとかなるのでは?」

 突然の姉の言葉に小声で反論するリリス。


 伯母に助けを求めれば、何とかなるのでは、という甘い言葉は、ほんの昨日までのアリアなら頷いただろう。

 だが、今のアリアは違う。


「それならば、勝手にしなさい。何かがあった時、私はいつでもあなたを捨てるつもりだから、それだけは覚えておいて」


 姉は妹を突き放すことにした。



 それから、しばらく重い雰囲気が馬車の中に漂っていた。やがて王宮に着き、いつものようにすんなりと通された。

 王宮と言っても広く、庶子である彼女が住むのは、少し奥まったところであり、そこにつくまでにすれ違った人からはあからさまに避けられていた。

 それだけ自分の行いが悪かったのだろう、と反省する材料になった。



「あら、いらっしゃい。可愛い姪っ子たち」


 ミスティア王女の部屋に入ると、待っていたのは伯母のフレデリカとその陰に隠れるようにいたミスティア王女だった。

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