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アリア・スフォルツァ

 王からの遣い、勅使としての役割と果すことになったアリアはすぐさま自宅に戻った。すると、彼女が『何か』を持ってくると予期していたのか母親が玄関まで出迎えていた。


「お母様」


 アリアが封書を差し出すとおそるおそるそれを受け取り、脇に控えていたメイドにペーパーナイフを持ってこさせ、丁寧に開けた。中に数枚の紙が入っていて、それをしっかりと読んでいるうちにため息をついた。


「マチルダとユリウスを呼んで頂戴」


 すべて読み終わった後、彼女たちにそう命じた。アリアも来なさい、と言って居間に向かった。


 アリアとエレノア、ユリウスとマチルダの四人が揃ったところで、エレノアが切り出した。


「まず今日の騒動だけど、やはり横領事件を引き起こしたのはあの人でした」


 アリアは知っていたけれど、もし知らなかったらマチルダと同じように、ことの重大さに気付いて、まさかというように顔を覆っただろうか。


「安心して頂戴。我が家へのお咎めはあの人に当主を引退しろという通告だけで済んだわ」


 エレノアの言葉に安心したような表情になるマチルダ。ユリウスのほうはわかっているのかわかっていないような、そんな雰囲気だった。


「そのかわりと言ってはいけないんだけど、ユリウス、あなたがスフォルツァ家の当主となるんですよ」


 義母の言葉に首を少しだけ傾げるユリウスとそんな、と軽く悲鳴を上げるマチルダ。そんな彼女の気持ちはアリアも少しだけわかったような気がした。


 前世の涼音として生きていたとき、自分は放任気味の環境で次期社長とかそんなことを考えずにぬくぬくと生きていたが、あるパーティーで出会った男の子を思い出したのだ。彼は今のユリウスと同じ立場で、父親が不祥事を起こしたとかなんとかで、急きょ社長として立てられることになった。彼は確かアリアと同い年だったから未成年だった。会社を経営していくには幼すぎたような気がする。


 でも、今のこの国では死亡率だって高いから、未成年で当主になるということは考えられる。すでに成人を迎えているものの、マクシミリアンだってあまり世間ずれてはいないが、当主という立場に相当する。だからこそ、ユリウスにも頑張ってもらわないと。


「ええ。まだ成人してないですし、しばらくの間は私が代理として政務は行います。アリア、あなたにはスフォルツァのことは一切、任せませんから、今までどおり王宮で働いていて構わないわ」


 母親の言葉は少し意外なものだった。もしかしたら、自分も何か手伝うべきなのだろうかと思っていたから、そう言われたとき、すぐには返事できなかった。


「そのかわり、これで晴れて不祥事の汚名を着せられたセレネ伯爵一家にはご自宅に戻っていただけるから、あなたはそうね、ベアトリーチェさんに王宮での暮らしを教えてあげて頂戴」


 アリアはその言葉に驚いた。もうそんな話が出ているのか。娘の問いかけにええ、と頷くエレノア。


「彼女にはすでに上級侍女として王妃殿下付きになることが決まっているわ」


 それには開いた口が塞がらなかった。まるで(・・・)『ゲーム』のようではないか。でも、その決定には従うしかない。


 頑張れ、自分。踏み止まれ、自分。


 どのルートでも破滅するしかない自分。そのあとのことなんて知ったこっちゃない。でも、今はベアトリーチェを大切にしなければならない。久しぶりにそう念じた。マチルダとエレノア、そしてセレネ伯爵夫妻はそのあといろいろ話し合っていたようだが、どれも耳に入ってこなかった。



「ねぇ」

 話し合いのあと、ベアトリーチェに話しかけられた。アリアは来たる日を前にして少し緊張していたが、彼女に話しかけられ、いっそう緊張してしまった。なぁに、と尋ねると、私さ、と話しはじめた。


「アリアみたいに強くないし、アリアみたいに行動的でもない。でも、なんで私が上級侍女で、アリアが下級侍女なの?」


 どうやら彼女はなんでアリアが上級侍女ではないのか疑問に思っていたようだった。


「そうね。それは私がスフォルツァ家の娘だからよ」


 その答えにベアトリーチェは不思議そうな顔をした。


「分からなくても当然よ。むしろ、分からないほうが幸せなのかもね。でも、いいわ、教えてあげる」

 アリアはわざと意地悪そうな笑みを浮かべた。


「スフォルツァ家は先代、先々代のスフォルツァ家の当主が余計なことを画策してくれちゃったおかけで、王家から睨まれるようになったし、貴族たちにも睨まれちゃってるのよ。それに、私が幼いときから余計なことをしていたから、あんまり派手に動けないの。だから、しばらくおとなしくしているために下級侍女として今は動いているの」


 その説明に納得したようなしていないようなベアトリーチェ。苦笑いしたアリアは構わないわ、と言って立ち上がった。


「また、侍女ごっこでもして遊びましょうね、ベアトリーチェ」


 アリアの言葉にええ、よろしくね、とにっこり笑った彼女。その笑顔はまだ純粋なものでうらやましいと考えてしまったアリアだった。

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