キオクの整理
翌朝、アリアは朝早く目が覚めたので、引き出しの中に入っていたノートを取り出した。
まずは自分自身のことを書き込んだ。
アリア――――いや、前世で言う相原涼音は、ある地方企業の社長令嬢だった。
中学生の時に色々と暇すぎて、ポータブルゲームソフトである『Love or dead ~恋は駆け引きと共に~』を試しに買ったのが始まりだった。
声優とかキャラクターとか全く関係ないところでそのゲームにハマりこんだ涼音は、社長令嬢という立場を活かして、イベントはほとんど制覇、グッズなどもほとんど買った。
しかし、弓道部に所属していた彼女は、高校二年生のインターハイが終わってすぐの大会帰り、子供をかばって車にはねられて、あえなく死んだという人生だったと記憶している。
そして、彼女が転生した世界、『Love or dead ~恋は駆け引きと共に~』のことを書き込んでいった。
それは大手ゲーム社から出ていたゲームだった。
キャッチコピーは『愛か、死か? あなたの選択は本当に正しい?』というもので、どんな内容だったかというと、
『貧乏な伯爵令嬢であるベアトリーチェ・セレネが生計を立てるために働き始めたのはリーゼベルツ王宮。
しかし、そこは権謀術数が渦巻く場所で、無事に生き残るためには攻略対象者たちを頼らなくてはならないが、頼るためにも様々な駆け引きが必要だった。
ベアトリーチェは駆け引きを覚えることができるのか、そして、六人の攻略対象者と共に王宮で生き残れることができるのか。結末はあなた次第――――――』
というものだった。
しかし、その辺にあった普通の乙女ゲームとは違う要素がそのゲームにはあった。
どんなものかというと、選択肢が相手に対してかける台詞だけでなく、ベアトリーチェが仕える主の服装や小物を選ぶ、というもの。
一体、なんでこんなものを選ばせたのかは理解できなかったものの、礼儀作法の一環としてある程度、嗜んでいた涼音は、その知識を応用して課題を難なくクリアすることができた。
それ以上に面倒だと思ったのは、“敵”役が三人登場することだった。
一人目は、転生した先であるアリア・スフォルツァ。スフォルツァ公爵家という立場を悪用してわがまま三昧。最終的には良くて国外追放エンド、もしくは処刑エンドしか待っていない。
二人目は、リリス・スフォルツァ。彼女はアリアの妹であり、アリアと同じくスフォルツァ公爵家の名前を使って悪行三昧。アリア同様、彼女も平民落ちエンドか、処刑エンドしか待っていない。
そして三人目は、ミスティア王女。彼女はアリアたち姉妹の血縁にあたる王女で、彼女の母親であり、ゲーム開始時点で権勢を誇っていた国王の愛妾、フレデリカ・スフォルツァの影響で、かなり傲慢な性格だった。彼女の場合は、一人の攻略対象のルートでしか出てこず、人質を兼ねた結婚により隣国へ行く、という終わりかただ。
彼女の場合は、アリアたち姉妹と比べてまだましな処分であるが、これは唯一の未成年であり、ほとんどが彼女の母親であるフレデリカの責任となったからだった。
そんな三人であるが、現在、アリアがこうやって記憶を取り戻した以上、少なくとも自分だけは――いいや、全員揃って、この破滅エンドを回避したいところだ。