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不老長寿(2018b)

作者: 長矢 定
掲載日:2019/06/10

 誰もが長生きを望んでいます……

 でも、ヨボヨボになって病魔に冒され寝たきりになって生き存える人生を望む人はいないでしょう。自分がどこの誰だかわからない、そんな老後も避けたい。やはり、若々しく元気に過ごしたい、それが一つの理想です。“不老”ですね。

 若さを求めてあれこれと試す人がいますが、それも限界があるのでしょうね。どこかの時点でガタガタッと崩れ、人生を終える。それは避けられません。

“老い”について研究を進めると、それを克服する日が来るのでしょうか。

“不老長寿”の処方が確立すると、社会に少なからずの混乱が起きるでしょうね。その秘法を巡って争いが起きるかもしれません。長生きをしたいと望む人が我先にと群がる……

 仮に不老長寿を手に入れたとして、その後の長い人生をどう過ごせばよいのでしょうか。差し迫った期限がなくなり、建設的なことは何もせず、だらだらと過ごす……。私のようなだらしない男は、そうなるでしょうね。社会にとって役に立たず、負担になるばかりの男をどうやって排除するか。それが深刻な問題になるかもしれません。

 まあ、好き勝手に生きて、さっさと死ぬ。それが最も幸せな人生ではないか、そんなことを思ってしまいます。


●登場人物

※スターゲイザー(stargazer)乗員8名

◇アリナ(52)船長

□ランドン(49)副長

◇セラ(50)科学主任

□オリバー(55)エンジニア

◇エルサ(46)ドクター

◇マリリ(41)乗員

□ロビー(43)乗員

■ヴェルガー(38)乗員


※地球側

○ビューイ

○ロバン

○メーソン


    プロローグ


 それは過去の戦争とは異なる対立構造だった。

 国や地域は関係なく、特権階級や富裕層と一般市民が先進科学技術の成果を巡り激しく争った。

 密かに開発されたその技術を一部の上層階級が独占したが、都市伝説や噂話として広まり、その事実が露呈する。隠された成果を得ようと大規模な市民運動が各地で起こり、大きなうねりとなった。激しい争いが大きな戦争を引き起こし、多くの人が命を落とす。それでも大衆の蠢きは収まらず、上層階級の牙城を崩していく。多大な犠牲を出し、ついにそれを手に入れた。

 人々は勝利を得た勢いに乗って新たな時代に踏み出す。穏やかな暮らしを実現し、安定した社会を築くために不可欠な“不老長寿の処方”を手にして。

 しかし、その先に待つ世界が人類にとって好適なものなのかは、誰にもわからなかった……




    一


 亜光速飛行を終え、通常慣性飛行に移った巨大な船は虚無の宇宙を漂った。搭載する観測機器を前方の恒星系に向ける。

 ヴェルガーはブリッジの入り口でふらついた。まだ、長期冬眠の影響が抜けていない。壁に手を付き、目をギュッと閉じた後でメインビューアーに映る観測データに注目した。

「間違いないですね。故郷の太陽です」

 科学主任のセラは、収集した観測データを解析して報告する。それを耳にした女性船長のアリナは、肩を揺らし息を吐く。

「帰って来たのね……」

 八人の全乗組員がブリッジに集まっていた。長かった恒星探査も終わりを迎える。直ぐにでも故郷の星に降り立ち、広々とした青い空の下で思いっきり伸びをしたいとヴェルガーは願った。しかし、焦って船の観察窓から覗いても故郷の太陽はまだ小さな光点にすぎない。高性能の観測機器をもってしても、第三惑星を見つけることは難しい距離だった。

 恒星探査船スターゲイザーは、近隣の恒星を探査する際の接近手順に従って故郷の星に向かっていた。乗員はこの探査旅行によって一〇歳の年齢を重ねているが、スターゲイザーの亜光速航行によって故郷の星とは時間経過の大きな相違が生じていた。計算では、一〇〇〇年の時が過ぎていることになる。その長い間に地球はどう変わったのか?

「亜光速の準備ができました」と副長のランドンが言う。

「次は、天王星軌道の内側まで飛びます」

 その報告を受け、船長のアリナが頷いた。

「行きましょう」と穏やかに言う。

 その指令を受け、船尾から騒音と震動が伝わってきた。メインドライブの亜光速航行システムが始動する。一際大きな揺れがあり、スターゲイザーは亜光速飛行に入った。速度が上がる。

「到着は五日後だ」

 とランドンがブリッジに集まった全員に伝えた。ヴェルガーは溜め息混じりの息をしてノロノロとブリッジを出る。ここにいてもすることがない。冬眠からの回復を促すためにトレーニングを続けることにした。


 スターゲイザーは亜光速飛行を終えて虚無の宇宙を進む。外壁の観察窓から覗くと、一際輝く星があった。ヴェルガーは体を震わす。故郷の太陽だ。まだ遠く小さいが、確実に近付いている。

 心が躍るが、心配もある。地球へ向けて通信を行ったが、いくら待っても返答がない。もっとも太陽系外縁部からの通信に注意を払っていない可能性はある。それに、一〇〇〇年前の通信手段がとっくにお払い箱になっていても不思議ではなかった。科学文明の進化はどんなものなのか、それが楽しみであり、ついていけるのか不安でもあった。

 ヴェルガーは鼻歌まじりにブリッジへ向かう。

 そこに船長の姿はなく、副長のランドンが当直についていた。科学情報コンソールには、セラとマリリの女性二人が体を寄せ合うようにしてディスプレーを覗き込んでいる。

「何か珍しいものでも見つかったのかな?」と背後から声をかけた。

 二人の女性が振り返る。

「地球の観測データを見てたのよ」

 とマリリが応えた。彼女も役職のないスーパーサブの乗員だ。ヴェルガーを含め、船の何でも屋は三人いる。

「陸地に緑が広がってるわ」科学主任のセラが言葉を足す。

「緑? 自然が戻ったのかな」

「そのようね。共生ならいいけど……」

「違うと言うのか」とヴェルガーは問い詰めるように尋ねた。

「まだ、距離があって詳しいことはわからない」

 科学技術文明が崩壊し人類は滅亡した。その後で廃墟を緑が覆う。通信に応えることはない……。確かに、その可能性はある。ヴェルガーは低く唸った後で頭を振り、悪い考えを消し去った。

「もっと接近して調べないといけないね」

 と言葉を返した。セラは小さく頷きコンソールに向き直った。

 ヴェルガーは顔を顰めた。よい情報がなく、時間ばかりが過ぎている。もう一度亜光速で地球近傍まで飛ぶ頃合いだと思うが、船長のアリナはその決断をしていなかった。

「ロビーは眠っているのかな?」

 ヴェルガーは話題を変え、もう一人の何でも屋の居所をマリリに尋ねた。

「オリバーと機関室に行ってるわ」

「メインドライブのルーチンチェックか」

「ええ、そうよ」

 エンジニアのオリバーは、外縁部で漂っている間に亜光速航行システムのチェックをするつもりだと口にしていた。別に問題があるわけではなく、暇潰しの一つだった。ヴェルガーはその手伝いをするつもりだったが、同僚のロビーに奪われたようだ。

「じゃあ、ちょっと行って覗いてみようかな」

 そう言って、ヴェルガーはその場を離れブリッジを出た。

 スターゲイザーは巨大な船だ。単独で何年も恒星を巡る能力がある。その中核となるのが、動力システムや航行システムを備えた機関部になる。もっとも、それらの制御や保守管理などはコンピューターの役目であり、生身の人間が手を出せない複雑さ、緻密さがあった。しかしそれでも、人が最終チェックを行い責任を持つ、という古い慣習がこの船には残っていた。

 巨大な船の後ろ半分ほどを占める機関部。そこにある壁で仕切られた狭い部屋を機関室と呼んでいた。端末や幾つかの道具などが置かれた在り来たりの場所だ。機関部のルーチンチェックはこの部屋の端末を使って行うことになるが、機関室には誰もいなかった。ただ、何かの作業を行おうとする気配が残っている。部屋に入ったヴェルガーは、残された物を見ながら暫く待つことにした。広くゴチャゴチャした機関部を探し回ることが大変なのは、十分承知している。

 やがてエンジニアのオリバーが機関室に入ってきた。

「来てたのか」

「ええ、手持ち無沙汰ですからね。何かトラブルですか」

 乗員の中で最年長、五五歳のオリバーがニヤリと笑った。

「いや、休憩だよ。急ぐ理由はないからな」

 最年少、三八歳のヴェルガーとは大きな年の差があるが、少人数で一〇年間もこの船の中で暮らしてきたため年齢差を気にすることはなくなっていた。

「ルーチンチェックは順調ですか」

「まだやっていないんだ。例によってメンテナンスシステムが細かい点を気にし始めた。その作業が終わっていない。ちょっと様子を見てこようと思うが、一緒に行くか?」

「ええ、行きましょう」

 二人は狭い部屋を出て広い機関部を進む。幾つもの大きな装置と配線・配管が複雑に絡むゴチャゴチャとした場所だが、何度も行き来しているので目を瞑っていても目的の場所に行けるほど馴染んでいた。

 長期の探査旅行に備えるため、機関部にある主要システムは二系統設置されている。その一方をメンテナンスし、切り替えながら運用を続けてきた。そのメンテナンスを担うのもコンピューターであり、手足となる様々な形態のメンテナンスロボが小忙しく動き回っている。いつものよく見掛ける光景だ。

「地球に帰ったら、この船はどうなるのでしょうか」

 乗員の誰もが思う気がかりをヴェルガーが口にする。

「どうなるのかな……」

「まだまだ、船は使えます。これで終わりにするのは、もったいないですね」

「そうだな……」

「暫くしたら準備を整え、もう一度探査に出掛けますか。やり残したことが沢山あります」

「そうだな。それもいいが、問題はこっちの年齢だな。老体に鞭打ち、どこまでやれるかだ」

 それはオリバーにとって深刻な問題になる。スターゲイザーが地球を出発した時は、乗員も皆、若々しかった。長期の探査となり一〇歳の年齢が加わって若さを失った。船長も科学主任も五〇代だ。副長のランドンも来年五〇歳。船全体に老いが滲んでいる。肉体の老化が精神を蝕む。このまま続けても萎んでいくだけだろう。

「地球に帰って、何がしたいですか」

「何がしたいのか……。そうだな、とりあえずのんびりしたいな」

「のんびり、ですか……」

 それでは今の状況と変わりないように思う。

 一〇年前、幾つもの柵を断ち切ってこの船に乗った。亜光速飛行の影響で、地球では長い時間が経過することも承知している。帰っても知り合いは一人もいない。一体、何のために帰るのか……

 二人は言葉を無くし、メンテナンスロボの作業を漫然と眺めていた。




    二


 亜光速飛行で地球に接近したスターゲイザーは、月の軌道の遙か外側で通常慣性飛行に移った。

 観測機器を始動させ、カメラが捉えた故郷の星をメインビューアーに映す。データが示した通り、陸地には緑が広がっている。海の青も、記憶の中より濃いように思う。人類の活動痕跡を探すが、直ぐには見つからない。地表に人々が溢れている、という予測は外れていた。誰もがイヤな予感を覚えるが、それを口にすることは控えている。

 突然、観測データが乱れた。ビューアーの映像にもノイズが入り歪む。コンピューターが様々な異常を告げた。

「どうしたの?」アリナ船長が声を張り上げた。

「強力な妨害波です。おそらく本船を走査しているのでしょう」と科学主任のセラが応える。

「走査? 地球からなの?」

「発信源は特定できません」

「船のシステムは大丈夫なの?」

「いえ、影響を受けています。ただ、今のところ船内環境に問題はありません」

「通信標準チャンネルを開けて。呼び掛けてみるわ」

 その指示を副長のランドンが対処した。アリナ船長が呼び掛けをする。

「こちら地球船籍、恒星探査船スターゲイザーです。一〇〇〇年前に地球を出発し、故郷に戻ってきました。受け入れをお願いします……」

 アリナは何度か呼び掛けた。暫くして妨害波が停止する。観測装置や船内システムが正常に戻った。そして通信標準チャンネルを介し音声による応答が入る。

「スターゲイザー、お帰りなさい。ご苦労様でした。そのままお待ちください」

 短い言葉だったが、八人の全乗員の体から力が抜けていった。


「ずいぶん待たされましたね」

 ヴェルガーはそう言い、気密服の装着を始めた。

「突然来たのよ、向こうも戸惑っているのでしょ」

 とドクター・エルサが応える。彼女とマリリの二人の女性も気密服に手を掛けた。船長と話しをしていた副長のランドンが遅れてエアロック前室に来て、急いで気密服の装着に取り掛かる。まず、この四人が地球へ出向くことになった。対面し、話しをして互いの事情を確認する。そこから始めることになった。

「エアロックにドッキングできないのは残念ね。気密服を着て、向こうの船に乗り移ることになるとは思わなかったわ」

「一〇〇〇年前の船だからね。やっぱり、この船は時代遅れの骨董品なんだ。ドッキングベイの仕様も違って当然だね」

 とヴェルガーがマリリに返した。

「でも、よかったわ。人類は存続していた。絶滅したんじゃないかと心配してたのよ」

 エルサがそう言ってニコリと笑う。それについては誰もが胸を撫で下ろしていた。

 四人は気密服を装着し、機能チェックを終えてからエアロックに進む。空気を抜き、外壁扉を開けるとロビーが操縦する作業ポットが待っていた。ポッドは長いアームをいっぱいに開く。四人がそこにしがみつき地球へ向かう船まで運んでもらう。気持ちのよい移動手段ではない。地球からの迎えの船は、スターゲイザーから三〇〇メートル離れた位置で待機していた。

 作業ポットがゆっくりと母船から離れていく。ヴェルガーはヘルメットの中で顔を回し、地球の姿を探した。肉眼で確認したいと思ったのだが、距離があるため明るい星にしか見えない。

「ずいぶん待たされましたが、迎えの船のスピードは明らかに速いですね」

「航法システムが違うのは確かだろう。そのへんの我々の常識は通用しないぞ。まあ、余計な疑問は持たないで素直に受け入れるしかないな」

 とランドンが言う。副長という立場から彼がチームリーダーになる。

「そうね、一〇〇〇年後がどんな世界になったのか、楽しみながら確かめることにしましょう」とエルサ。

「ええ、でも未開の野蛮人にならないように注意しないといけませんね」

 そのヴェルガーの話に他の三人が笑った。ヴェルガーも一緒になって笑う。声を出して笑うことで緊張を解した。

 迎えの船に近付いた。扁平で楕円をした小型の船には窓らしきものが見当たらない。

「中に人が乗っていると思う?」とマリリが尋ねた。

 ランドンが唸る。

「無人機かもしれないな」

「窓がないから?」

「それもあるが、何となく人がいないような気がする」とランドンが推測を言う。

 船の壁が開口し、中の照明が点く。エアロックのようだ。作業ポッドを操縦するロビーは慎重に接近し、アームを開口部に近付けた。四人は順に迎えの船へと乗り移る。

「楽しんできてくれ、お土産はいいから」

 無線を介しその言葉を残し、作業ポッドが離れていく。船の外壁扉が閉じ、空気が充満する音が聞こえてきた。それと同時に重力を感じる。徐々に大きくなり、地球重力と同じになった。内壁扉が開き、奥へと進む。

 何もない部屋。誰もいない。四人は部屋の中央へと歩き、一塊になった。誰もヘルメットを外さない。

 グラリと揺れた。船が発進したのか?

 !!………?

 異変に気付く。

 四人は天井の高い広い部屋にいた。

 ここはどこ?

 何があったのか?

 それに気密服を着ていない。普段着のジャンプスーツ姿だった。

「すみません。驚かすつもりはないのですが……」

 その声は通信で対話をした相手、この時代のコンピューターと考えている。四人は気を取り直おそうと努力した。周囲の壁、天井や床も白を基調にしたガランとした部屋。ここにも人の姿はなかった。

「もしかして、ここは地球なのか」とヴェルガーが尋ねた。

「はい、そうです」

「瞬間移動、ということか……」

「この時代の一般的な移動手段になります」

「それに、気密服を脱ぐ手間を省いてくれたのか」

「はい。それと皆さんの体内の古い病原菌やウイルスなども除去しました。この時代の人々には、それらに対する免疫がありませんので……」

 ランドンが短く息を吐いた。

「それは面目ないね。でも、これでこの時代の人たちと会うことができるということか」

「はい。その前に、せっかくですから周辺の景色を見ませんか」

「見れるのか。ぜひ、お願いしたいね」

 すると一方の白い壁が流れるように透明な窓へと変化していった。眩しい日の光。床から天井までの大きな窓から青空と白い雲、草花や木々の広がりと海辺の景色が目に飛び込んでくる。

「すばらしい!」

 四人は小躍りするように窓際へと駆けた。高い位置からの眺めだ。長く延びる海岸線、広がる大海原、水平線の丸み……。その景色に目が釘付けとなる。

「外に出ることができるの?」とエルサが聞いた。

 窓から下方を覗くと階下に広いテラスがあることに気付く。

「もちろんです。少し暑いと思いますが出ることができます」

 壁際に階下へと続くスロープがあった。そこを下り、テラスに出る。日の光の暖かさ、心地良い潮風に包まれた。遠くに波音が聞こえ、鳥の囀りも耳に届く。

「夢じゃないわよね。地球に帰ってきたのね」

 エルサの問い掛けにヴェルガーは小さく頷く。久しぶりの大自然。その感覚に酔いしれていた。体が震える。

 四人は時間を忘れ、テラスからの風景に見入っていた。




    三


 広い部屋に戻るとゆったりとしたソファーが並んでいた。

 四脚が一列になり、その対面に置かれた三脚のソファーには人がいた。驚き、足を止める。

 異様な姿の三人、これが現代人なのかと身を引く。

 ソファーの三人は栄養失調のように体が細い。頬が痩け白い肌の顔、目が大きく、鼻と口が小さい。肥大した頭部が際だって大きく見える。頭を支えるのが大変だろう。バランスの悪い体形だ。三人は似た容姿で、男性のようにも女性のようにも見える。ヴェルガーには見分けがつかず年齢も推察できなかったが、まだ青年のように感じた。

「どうぞお座りください。この時代の人たちとはコミュニケーションの手法が異なりますので、私が仲介をします」

「挨拶は、どうすればいいのかな?」とランドンが尋ねる。

「特に必要ありません。ソファーにお座りください」

 四人は戸惑ったが、内側のソファーにランドン副長とドクター・エルサが座り、年少者のマリリとヴェルガーがその両側に座った。

「好みがわかりませんので、水を用意しました。よろしかったら、どうぞお飲みください」

 ソファーの幅広の肘掛けにコップに入った水が出現した。躊躇しながらそれを口にして一息つく。この場はチームリーダーのランドンに任せることにした。

「彼らは、どういった立場の人たちですか」

「立場?」

 その疑問はコンピューターが抱いたものなのか、彼ら三人のものなのか判断がつかなかった。

「この国の政府関係者ですか」

 見た感じでは、そのような人物とは思えなかった。

「今回の件に関心のある人が、各地から集まりました」

「関心のある人……」

 ランドンはそれをどう受け取ればいいのか戸惑う。座り心地のよいソファーなのに身を捩り、体を揺すった。

「そうですか……」そこで大きな咳払いをする。

「私たちの時代では、初めて会う人には名前を名乗ることになりますので、それに倣うことにします。私は、ランドン。隣の女性がエルサ、その向こうがマリリ。反対側の男性がヴェルガーです。どうぞよろしく」

 その紹介にあわせ、ヴェルガーは軽く会釈をした。対面の三人はピクリとも動かなかったが、おもむろに端の一人が小さな口を開いた。

「ビューイ……」掠れた低い声を絞り出す。

 それに続き、他の二人も声を出す。

「ロバン……」

「メーソン……」

 三人とも嗄れ声だったが名を名乗ったのだろう。普段は言葉を発することがないようだ。そうなると声を絞り出し名乗ったことは特別な礼儀になるのかもしれない。初めて意思疎通がとれ、ランドンが満足げに頷く。

 そうなると、彼らはどのようにしてコミュニケーションをとっているのか気になってくる。やはり肥大した頭部だろう。テレパシー能力を持っている、あるいはそれに類する装置を埋め込み、他の人やコンピューターと意思疎通を行っているのではないか。ヴェルガーはそう考えていた。

「私たちは一〇〇〇年前に地球を出発し、近隣の恒星系を巡り調査をする旅に出ました。船が亜光速で飛行するため、私たちには一〇年の時間経過ですが、地球では一〇〇〇年が過ぎてしまいます……」

 ランドンの話しは既に伝えた内容だ。幾らかの関心を持ったとなれば、当然彼らも承知しているはずだ。

「そうした記録は残っていませんか」

「残念ですが、記録はありません」

 何か記録が消失するような出来事があったのか。それとも一〇〇〇年分の膨大な情報の中に埋もれてしまったのかもしれない。

「一〇〇〇年前の地球がどんな様子だったのか関心がありますが、そちらに情報はありますか」

 とコンピューターが尋ねる。三人の中の誰かがそれに関心を持っているということになるようだ。

「スターゲイザーは恒星探査船ですから地球に関する情報は基本的なものだけです。しかしそれについては、船の知識データベースにアクセスしたようですから、承知していると思いますが……」

 ランドンが険しい顔で言う。船の搭載コンピューターが外部からの不正アクセスを検出していたが、それを防ぐことができずデータベースの情報が流出したようだ。それは、いま話しをしているこの時代のコンピューターの仕業に違いない。ただ、一〇〇〇年の技術力の差があるため致し方ない状況ではある。

「会話を成立させるために言語関連の情報を収集しました。勝手な行為をお許しください。他の情報については収集していませんので、そちらの判断で情報提供していただきたいと考えます。よろしくお願いします」

 ランドンの表情が和んだ。こちらを気遣う発言に安堵する。一〇〇〇年前の人間が突然現れたら、それを邪険にするのではないかと気を揉んでいたのだ。

「一〇〇〇年が経ち、科学技術もずいぶん進歩したと思います。亜光速飛行に代わる航法を実現し、近隣の恒星などはとっくに調査したのではないのですか」

 そうなるとスターゲイザーが得た調査データは、無意味になってしまう。気になるところだ。

「宇宙航法については新たなものがありますが、他の恒星系に出向くことはしていません。皆さんが集めたデータは貴重なものになります」

 ランドンは、ほっとしたように微笑んだが、ヴェルガーは上辺の話ではないかと思う。なぜか疑心が強くなっていた。

「手段があるのに、なぜ他の星に行かないのですか」ヴェルガーの口から言葉が飛び出た。 少しの間があり、コンピューターが応える。

「わざわざ遠くの星に行って何をするのか。その目的がありません」

「目的がない……」

 それはスターゲイザーの恒星探査を全否定するような言葉だ。価値観が違う、彼らは外の世界に関心を持っていないようだ。やはり、突然現れた一〇〇〇年前の人間など社会の秩序を乱す厄介者でしかない、そう思っているような気がする。

 ヴェルガーは意気消沈した。




    四


 この時代の人たちとの会談は早々に終わった。三人はソファーごと消え去る。

「我々も混乱し、動揺している。少し落ち着いて、整理したほうがいい」

 ランドン副長の言葉に、他の三人が頷く。

「一〇〇〇年の地球の歴史を確認したいわね」とドクター・エルサが言う。

「悪いが、ざっと解説してくれないか」とランドンが中空に向かって声を張り上げた。

「ざっと、ですか」と、この時代のコンピューターが応える。

「古い時代の記録は残っていません。なぜ消失したのか、それもはっきりしてません。大きな変革があったのは不老長寿の処方が確立した時代になります」

「不老長寿! それが可能なのか」

「はい、可能です。この時代の人々は誰もが不老長寿の処方を受けています」

「あの三人の姿は、その結果ということか」

「いえ、それは違います。皆さんと容姿が異なるのは、別の様々な要因によるものです」

「様々な要因……。それも気になるけど、まずは不老長寿ね。どういう手法なの?」とエルサが尋ねる。

「手法ですか。端的に説明すると、細胞の活性化です。若い頃と同様に新陳代謝するようにコントロールします。この処方によって老化を原因とする体調不良や疾病などの不具合を排除できます。もちろん不治の病は存在しますし、ケガで命を落とすことがありますので不死ではありませんが、これによって寿命が格段に延びます」

「どれくらいの寿命なの?」

「この処方を継続的に受けることで、理論的には永遠に生き続けることができます」

「永遠……」

 その話に、四人は唖然とする。

「さっきの三人は、とんでもない年齢だということか」

「はい。皆、五〇〇歳を超えています」

「五〇〇……」

「価値観が違って当然だな。我々とは意見が合わないだろう」

 ランドンはそう言い、目を細める。

「ただ、不老長寿の処方が一般に普及する際に社会に混乱が生じました。大きな戦争が起こり、多くの人が命を落とし、地球環境が壊されます。世界の総人口が激減し、その後社会が安定するまで長い時間がかかりました。不老長寿を獲得するために殺し合いをするという人間の行動原理は、機械生命である私には理解できないことです」

 コンピューターの声が、自身を機械生命と言った。どういうことなのかとヴェルガーは興味を持つ。

「今は戦争はないの? 平和なの?」とエルサが尋ねた。

「はい、その後戦争は起きていません。平和が続いています」

「どうやら、よい時代に帰ることができたようだな。それについては幸運だといえそうだ」とランドンが微笑む。

「現在の世界の総人口は、どれくらいなの?」とエルサ。

「三億人ほどです」

「三億……。少ないわね。人口は増える傾向にあるの?」

「いえ、長く微減が続いています」

「長寿と平和を得たけど、人口は減少傾向にある。何となく不安ね」

 そう言うエルサにヴェルガーが頷く。

「そうですね。長寿になったことで何か弊害があるのでしょうか。印象に過ぎないのかもしれませんが、彼らからは覇気が感じられませんでしたね」

「長生きしても何もいいことがない。これ、私のお祖母さんの口癖よ。きっと、長寿の恩恵を帳消しにするぐらいの弊害があるのかもしれないわね」とエルサが応える。

「消極的、保守的なんだよ。冒険を好まない。この星の中でじっとしているんだ」

「彼らに、我々の信念・心情は理解できないだろうな」

「困りましたね。私たちは、この時代の社会に受け入れてもらえないかもしれない」

「それは覚悟していたはずよ。一〇〇〇年前も今も、私たちが異端者であることに違いはないわ。そうでしょ?」

 そのエルサの問い掛けに、ランドンとヴェルガーは口を噤んだ。険しい表情になる。その時、会話に加わっていなかったマリリがソファーを立ち、窓際へと歩く。海辺の景色を眺めた。

「何のために星々の世界に行き、何のために戻ったのか……」

 とヴェルガーが呟く。それぞれが自問してきたことだ。だが、自信を持って答えることができない。

「この時代の人たちが、私たちの帰還に関心を持っていないことが残念ね」とエルサ。

「いえ、関心はあります」とコンピューターが応えた。

「ただ、戸惑っているのは事実ですね。皆さんと、どう接すればよいのか考えあぐねています。この施設も皆さんを迎えるために大急ぎで造ったものです」

「新しく造ったのか。短い時間で……。凄いな」

 階下には八つの個室と設備の整った共有スペースがある。スターゲイザーの乗員を迎えるための専用施設だ。短時間のうちに、どのようにして造ったのかわからないが、この時代の科学力、技術力の一端を感じた。

「煩わしく、見捨てたわけではないのか。だとすれば、ありがたい」

 とランドンが言う。

「でも、私たちがこの社会に馴染むのは時間がかかりそうね。大変だわ」

「私は、ここで暮らしてみたいわ」

 マリリが海を見詰めたまま言った。三人は彼女を見る。スターゲイザーの居住空間は快適性に配慮していたが、一〇年の間、機械装置に囲まれ閉ざされた場所で過ごしてきたのだ。大自然の中で暮らしたいという気持ちは皆の心にもある。

「船に残った四人も、早めに地球に降りるべきね。私たちの冒険は終わったのよ」

 そうエルサが言い切った。




    五


 広く白い部屋に机と椅子が配置され、会議室となった。

 一方にスターゲイザーの乗員八人が並び、対面には同じ人数の痩せ細った現代人が座る。彼らに性別がないこともわかった。皆、中性的な存在だ。生殖も一〇〇〇年前の手段とは掛け離れている。争いを断ち切り平和を獲得するには、人類に大きな変革が必要だったのだ。対面の八人の中には最初に面会したビューイ、ロバン、メーソンの三人もいたが、ヴェルガーには人物の見分けができなかった。

「スターゲイザーは水があれば、動力、空気や食糧を得ることができるシステムを搭載しています……」とアリナ船長が話す。

「ただ、リサイクルが完全ではないので時折、補給をすることになります。船には惑星降下能力がありませんが、私たちが出向いた恒星系でも氷を持つ衛星や小惑星を発見でき、船への補給が可能でした。従って急いで帰る必要はなく、当初予定を超えて星々を巡り探査を続けることになりました。今回、地球へ帰還する決断をしたのは、活動期間が一〇年という節目を迎えたからです」

 アリナは対面に座る現代人の様子を順に見ていった。これといった反応がない。無関心のように感じるが、彼らが感情を表に出すことはないそうだ。テレパシー能力で互いの思考を頻繁にやり取りしている。それは言葉や身振りによる意思疎通よりも遙かに大量の情報を取り扱い、勘違いや理解不足などは起きないという。従って、意思疎通の齟齬が原因となる言い争いもない。

「私たちの星々の探査は、船に搭載された各種の計測装置を用いた周回軌道からの観察になります。その恒星系の太陽、惑星とその衛星、小惑星や彗星など、多くの星のデータを収集しました。生物が存在する星も発見しましたが、それらの生態を詳しく調べることはできませんでした。星に降下して調査活動をするための装備が必要です。残念ながらスターゲイザーは、そのための降下機を備えていません。そうした調査が今後の目的になると思います。……それと、知性種との遭遇はありませんでした。それも今後に期待することの一つです」

 アリナは大きな息をしてから言葉を足した。

「スターゲイザーが収集した調査データは皆さんに提供します。大いに活用されることを期待します」

 それが唯一のお土産になる。その価値を高く評価してくれることを望んでいた。

「ありがとうございます。持ち帰った収集データには大きな関心があります。私たちも解析・調査を行いたいと思います」

 と機械生命の声が応えた。それは対面に座る人たちの総意であると受け取る。

「皆さんは長旅を終え、体も心もお疲れでしょう。故郷であるこの地球で寛ぎ、十分な休養をとってください」

「お心遣いに感謝します」とアリナが代表してお礼を言う。

 ヴェルガーは小さく頷いた。これからのことは休養しながら考えればよい、と思う。


 長く延びる砂浜にポツンと二つのビーチパラソルがあり、それぞれにビーチチェアーが置かれていた。人影が動く。

 ヴェルガーはクーラーボックスを提げて歩み寄った。施設の外では瞬間移動や物の出現・消失もできない。砂浜までは持って歩いて行くことになる。

「補給物資ですよ」と微笑む。

「ありがとう、悪いわね。顎で使ったりして」

 ビーチチェアーで寝そべる科学主任のセラが応える。その横でドクター・エルサが笑っていた。二人の女性は船では見ることがなかったラフな格好をしている。

「構いませんよ。少しは動かないと体が鈍ってしまいますから」

 そう言ってクーラーボックスを開けた。二人がボトルに入った飲み物を選ぶ。日の光と潮風、波音が心地良い。

「泳ぎましたか」

「膝まで入ったわ。泳ぐのは怖いわね。もう五〇のおばちゃんなのよ」

 とセラが言い、冷えた飲み物を口にした。

「せっかくだから、泳ぎます」

 そう言ってヴェルガーはTシャツを脱ぐ。そのつもりで来たのだ。

「無理しないで。溺れても助けられないわ」

「しっかり準備運動をして」とエルサ。

「ええ、無理はしません。ちょっと浸かるだけにします」

 ヴェルガーは波打ち際へと歩きながら手足を振った。広大なプライベートビーチを独り占めだ。現代人は海水浴などしないのだろう。痩せ細った体では沈んでしまう。“金槌”に違いない。

 柔軟体操で体を解してからジャブジャブと膝下まで入った。泳ぐにはちょうどよい水温だ。遠浅の海だが、どのくらいの深さなのかわからない。沖へと泳ぐには勇気がいる。そろりそろりと進み、お腹まで浸かったところで横に向かって泳ぐ。久しぶりだ。泳ぎがぎこちない。打ち寄せる波を被り少し水を飲んでしまったが、爽快な気分だった。

 海から上がり、持ってきたタオルで顔と頭を拭く。

「若いわね」とセラが声を掛けた。

「ダメですね。体がいうことを聞かない」

「あなたも若さがほしい?」

 ヴェルガーはパラソルの傍に座り、クーラーボックスから一本のボトルを取り出した。

「それって不老長寿の話ですか」

「そうよ。エルサとも、その話をしてたわ」

「我々にも処方できるのですか、処方してくれるのですか」

 そう言ってからボトルの中身をグビグビと飲んだ。

「できるようね。若さを取り戻すことができるのよ」

 それを聞き、ヴェルガーは唸った。

「あら、気に入らないの?」

「気に入らないというか、引っかかりますね。それは彼らのような姿になる、ということでしょ?」

「それは違うわよ。容姿は別問題よ」

「そうでしょうか。私たちは一〇〇〇年前の人間です。その長い間に様々な問題があり、平和を得るために古い体質を捨て去り、新しい体になっていった。詳しい経緯は知りませんが、性別も捨て去ったのですよ。彼らの目に映る私たちの姿は、一〇〇〇年前の野蛮人にしか見えないと思います。そうしたわだかまりがあって、この社会で長く暮らしていくことができるでしょうか。エルサ、あなた言いましたよね。一〇〇〇年前も今も、私たちは異端者だと……」

「そうね……」とエルサが小声で言う。

「この社会に馴染むために、この体を捨てるのは気が引けますね。自分でなくなる気がする。そこまでして長生きしたいのか……」

「じゃあ、勧められても不老長寿は断るの?」

 そうセラに問い掛けられ、ヴェルガーは顔を歪めた。

「それができれば、格好いいと思いますよ。でも、彼らはどんなふうに考えているのでしょうか。星々の調査データは手に入れたんです。厄介な一〇〇〇年前の野蛮人は、さっさと死んでくれればいい……」

「そんなふうに思っているというの?」

 ヴェルガーは首を横に振る。

「彼らの心は読めませんからね。何を考えているのか、さっぱりわかりません」

「そうね。確かに、この社会で暮らしていくには辛いものがあるわね。馴染めないわ」

 三人はそこで、それぞれに思案をした。大海原を眺めながら自身の正直な気持ちを探った。

「一つ、提案があります……」とヴェルガーが口を開く。

「提案? 何?」

「おそらく、皆さんの心の隅にも、その考えがあると思いますが……」

 ヴェルガーはその前置きをしてから、自身の想いを口にした。




    エピローグ


 スターフライヤーと名付けられた新造船は、一〇〇〇年前の船・スターゲイザーより格段に大きな船体だった。装備も充実しており、新たな恒星探査に挑むことになる。

 集結した八人の乗員は皆若く、健康的だ。二十歳そこそこに見える。だが、二〇年近い付き合いのある親しい関係だ。そこにスターフライヤーを管理・運用する機械生命が加わっていた。

 地球から扁平楕円型の飛翔体が上昇し周回軌道上のスターフライヤーに接近する。速度を合わせ、船体の格納庫に滑り込んでいく。若々しい体のヴェルガーは、隣室からその様子を窓越しに眺めていた。

「何か、イメージが違いますね」

「イメージ?」

 横に立つ、同じ年頃の男性が問い返した。副長のランドンだ。

「未踏の星に降り立つときは、降下機に乗ってその重力圏へ突っ込むイメージでした。でも、今回の予行演習ではっきりしたのは、物足りなさですね。降下機を空の状態で星に降ろし、後から瞬間移動する。気密服も勝手に着せてくれる。こんなに楽をしていいのでしょうか」

 そのヴェルガーの話に、ランドンが笑う。

「重要なのは、初めての星での調査活動だ。生身の人間が降り立って活動することに意味がある。大気や草木のサンプルを採取し、動物の死骸を探し出してその肉片を採集する。行き来の手段は関係ない」

「そうですが、一番の楽しみを奪われた気分です。できれば、窓のついた降下機に乗って地表を目指したいですね」

 と笑みを返す。機械生命の手足になっているような気がしてならない。どこかで鼻を明かしたいと企んでいる自分がいた。

 格納庫では帰還した無人の降下機が所定の位置に係留された。他にもう一機、同じ型の降下機が並び、少し離れた区画に様々なタイプの作業ポットが配置されている。しかし、それに乗り込み宇宙に出る機会は減りそうだ。スターゲイザーでは水の補給が必要で、重力の小さな衛星や小惑星にある氷を砕いて運んでくる作業を行っていた。だが、新造船では一〇〇〇年後の進んだ科学技術が使われ、そうした補給が不要になっている。航法システムも瞬間移動を発展させたワープ航法だ。亜光速のような地球との時間の差異は生じない。長い航行の間を冬眠状態で過ごすための装置も不要となる。

「まあ、何もかも思い通りにはいかないものだ。数奇な運命で一〇〇〇年の時を越え、不老長寿の体を得ることができた。それを素直に感謝し、我々にしかできないことに取り組む。それでいいじゃないか」

「我々しかやらないことでしょ。賢い現代人はこんなことしない」

 とヴェルガーが言い、二人は笑った。

 未到の星々を調査し、そのデータを地球に持ち帰る。それを何回繰り返すことになるのだろう? やがて、進んだ知性を持つ生命体と遭遇することになるのか?

 ヴェルガーの期待は大きく膨らみ、心が躍っていた。


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