第93話:あるさまよい人の心情
満たされない…。
何をすれば満たされる…?
判らない…。
何がしたい…?
判らない…。
何処に行きたい…?
判らない…。
俺は誰だ…?
俺は桂木 真だ…。
俺は男…?女…?
俺は男だ…。
この体は男か…?
この体は女だ…。
お前は誰だ…?
判らない…。
頭の中をそんな言葉がグルグル回っている。
グルグル回ったまま目的地も無くフラフラと歩いている。
やがて道が途切れた。目の前に見えるのは川。
俺は土手を滑る様に降りて行く。
川では小さな子供を連れた家族がいる。子供は川に入り水遊びをしていて親はそれを見ている。
楽しそうな子供の声が俺の耳に入る。いや、俺の耳を通り抜ける。
空っぽな俺の体に音は残らず通り抜けるだけだ。
判らない…。なんで抜け殻になってる?女の体だからか?
…違う…それは前からだ…。
戻れる可能性がなくなったからから…?
…そうだ…。
今までは戻れるだろうと思ってた…。その可能性が無くなった…。もう男の姿にはなれない…。
いずれ男の姿の俺は忘れられる…。いずれ男の姿を忘れる…。
16年の姿は幻だったとばかりかな女の俺しか居なくなる…。
もう何も判らない…。
モウドウデモイイ…
男ノ俺ハ居ナカッタ…
ソレデイインダロ…
そんな事を考えていたら子供の声が聞こえなくなった。
声が完全に素通りする程空っぽになったか?
俺が顔を上げて見た景色はさっきと変わったいた。
親子三人はいる。それを囲む十数人の男。怯える親子を脅す人。
俺は立ち上がりその男達と親子の間に入った。
「な、なんなんだテメェ。」
ナンダ。簡単ナ事ダッタンダ
満タサレナイノハ…
足リナイカラダ…
聞コエナイノモ…
足リナイカラダッタンダ…。
「なんだ?テメェも俺達とアイツ等の喧嘩の邪魔するのか?」
男が何か言ってる。その言葉は俺を通り抜けるだけだ。
「アンタ達…満たしてくれよ…。」
俺は男の顔を見る。男の表情はよく判らない。判るのは口がしっかりとあるって事。
十分じゃないか。
「足りないんだ…。満たしてよ…。」
俺の中から聞こえる…。
聞カセロ…
満タシテクレ…
オ前ラノ悲鳴デ…
オ前ラノ叫ビデ…
「な、なんだ。この女…。」
『女』
ヤッパリ俺ハ女ナンダナ…
男ノ俺ハイナイ…
体が無意識に動いた。
右の掌底をフック気味に男のアゴに向かって。
男はまともに喰らい膝から崩れ落ちる。
聞コエナイヨ…
悲鳴ヲ叫ヲ聞カセロヨ…
「聞かせろ…お前等の悲鳴を…叫びを…心の声を…。」
男達がなにか叫びながら俺に向かって来る。男達の声は俺を通り抜けるだけで残らない。
そんな声じゃない…
モット…
心ノ奥カラ出ス声ダ…
タップリ聞カセテクレヨ…