第89話:ある衝撃の風景
台所の修羅場も終わりあり得ない人数での昼食も終わった。
居間には俺、父さん、母さん、ゆ〜ちゃん、八神さん(父)、神城さん(父)だけが残っている。
それ以外の面子は何故か俺の部屋に行っている。部屋がある舞もだ…。
「さて、真君。一息ついた所で話を始めようか。」
全員の手元にコーヒーを置いた母さんが座った所で八神さんが切り出した。
「桂木に渡した薬を飲んだんやろ?」
神城さんに言われ俺は頷く。
「しかし…。」
「まいりましたな。」
八神さんと神城さんが同時に息を吐く。
「何に参ってるんだ?」
父さんが二人に聞く。
「本来、解毒というのは毒からワクチンをつくるものなんだ。」
「そのものが無いと過程も確認できへんからな。」
そうだろうな。ある症状にならないとそれが治ったかなんて判らないだろうからな。
「だけど今回その薬を飲んでしまった訳なんだ。」
「だったらその薬をまた作ればいいんじゃない?」
「そこのお嬢の言うとることはもっともな意見や。」
「もっともだが一つ問題がある。」
「問題って?」
俺が聞くと八神さんと神城さんは俺を見る。
「同じ薬を作れるのか…だよ。」
「一度作ったんじゃ?」
俺がそういうと八神さんと神城さんは苦笑いを浮かべる。
「作ったというか…。」
「出来たっちゅうか…。」
なんか言いにくそうな二人。
「ひょっとして…偶然?」
偶然…?なんだ?意味が判らない。そしてアンタ等!頷くな!
「そう。この薬は偶然の産物なんだ。」
ハッハッハと笑う八神さん。
「つまり同じ薬できる保証は無いっちゅうことやな。」
「それはつまり治る薬も出来ない…って事か。」
「「そう。」」
ハモるな!
「じゃあ真はこのまま女の可能性が高いってわけだ。いっそ戸籍変えるか。」
俺は椅子の上で崩れ落ちる。せっかく治ると思ったのに…
「クスクス…。」
なんだか笑いが込み上げてきたぞ。
「ハハハハ…。」
俺はフラッと椅子から立ち上がり、居間をグルッ見る。なんだか八神さんと神城さんが怯えた顔してる。
俺はフラフラと居間の扉へと向かう。
「優!真を止めろ!あの目はヤバい!」
「言われなくても!」
ゆ〜ちゃんが俺に抱きついてくる。
「ゆ〜ちゃん…何する…。」
「真!どこに行く気よ!」
「どこでもいいだろ…。」
ゆ〜ちゃんを振りほどき俺は居間を出て玄関に向かう。
玄関で階段から足音が聞こえた。
「真。何か合ったのか?」
「なんだか下が騒がしいけど。」
俺は階段の上を見る。そこには巴と嵐が居た。
「クスクス…。何でも無い。もうどうでもいいから…。」
巴と嵐が驚きの表情を浮かべている。
俺は二人から視線を外すと靴を履き玄関を開ける。
「まこっちゃん!!」
「真!」
巴と嵐の声をドアを閉める事でシャットアウトする。
そのまま目的地も無く俺は歩き出した。