第58話:よくある海の風景
嵐に凄い量の荷物を持たせて海にやってきた俺達。
はじめはみんなで少しづつ持つ予定だったのに
「ここは男の俺に任せて。」
と不必要な事を言ったが為に全員の荷物を車から運んでいる。
あと驚いたことに車は八神会長の運転だ。なんでも四月に誕生日を迎えてすぐに取りに行ったらしい。
「場所取って荷物見てるから先に着替えてきて。」
別に嵐が可哀想とかってんじゃないからな。ただ更衣室に知り合いと入りたくないんだ。ほら女だけど男な訳で。
「いや〜重かった…。」
そんな一人で訳判らない事考えてると嵐がやってきた。
「自業自得だろ。少し休んだらシート広げるぞ。」
そう言って嵐の前に二本の飲み物を置く。片方はコーヒー、もう片方は赤い缶でお馴染みの炭酸飲料だ。
「サンキュー。って!なんでホットなんだよ!」
嵐は俺の罠にはまった。
「なんでって嵐が飲みたがってるかなと思って。」
「誰が夏にホットを飲むんだよ。」
嵐は文句をいいつつ赤い缶を取った。
ブシューー!
当然俺は思いっきり振った訳だが。
「ぐぉー!目が目が!」
悶え苦しむ嵐を見て腹を抱えて笑う俺。なんとも楽しい光景だ。
「なにやってんだよ。」
「何って!おまっ!ヒドッ!」
「はいはい。服にもかかってるし。ここはいいからとっとと着替えて来い。」
「ぐぉぉ、更衣室はどこだ〜。」
「あっちだ。決して間違えて女子更衣室に入ったり覗いたりするなよ?」
「……当たり前だ。」
なんだか凄い気になる間があったな…。まぁ、いいか。
背中を軽く押し出してやると嵐はフラフラと更衣室に向かって行った。
さて、嵐も居なくなったし、シート広げるかな。
いや、今までは俺と嵐の二人で荷物持ってたりしてたのを今日は嵐に任せちまったからな。ちょっとした俺の優しさだな。
どうせ嵐の事だ。普通に手伝うって言っても
「男の俺が」とか言い出すのはわかってんだよ。しかもあいつの場合その行動の裏に下心があるからな…。
自分で優しさとか言うと少し辛いな…。
なんだか更衣室から
「嵐〜!何入って来てるのよ!」
「目が!目がー!」
「ど、どこ触ってるのよ!」
「ぎゃーーーっ!」
なんて声が聞こえてくるけど気のせいだな。
シートを広げ場所を確保した俺はまったりしていた。
そしてうっかり忘れていた。なおかつ気が付かなかった…。
夏の海に一人。そういう人を狙う人影を…。
「そこの彼女。一人?」
そうナンパだ…