第114話:ある二人の風景
なんでこうなったんだろう…。ただ唯一言いたい事は…暑い…。そして呼吸が辛い。
俺はチラッと時計を見る。時間は10時30分。因みに待ち合わせは10時。この暑い中30分はキツイんだけど…。
しかも朝から準備にエライ時間かかったからな…。
胸抑えて腹は水増しして…髪いじられて…ゆ〜ちゃんも知り合いの人も楽しみまくってたしな…。
にしても巴遅いな。辺りをキョロキョロ見ると見覚えのある後ろ姿があった。なんだ来てんじゃんか。
しかしアレだなここで普通に声かけるのもつまらないよな。
俺はゆっくり後ろ姿の女性に近付いた。
「なぁ、そこの。暇してるのか?」
普段だしてる声より少し低めの声でその女性に声をかけた。
「別に暇はしてないです。」
その女性はこちらを見もしないでそう言った。うん、この声は間違いなく巴だな。少しからかうか。
「ホントは暇なんじゃないのか?一人でこんな所いてさ。」
「いえ、待ち合わせしてるから。」
「じゃあ相手くるまで話そう。待ち合わせ何時なの?」
「10時ですけど。」
「10時?30分も前だな。そんなに待ってるのか?」
「私は今来たばっかです。って話かけないで下さい。」
おぉ〜カリカリしてるな。
「じゃあアレか?相手は30分待ってるのか?待ちきれなくて帰ったんじゃないか?」
「えっ…そんな…。」
あ、落ち込んだ。ちとやり過ぎたか?
巴は辺りをキョロキョロ見ながら鞄に手を入れた。鞄から携帯を取り出して耳にあてる。
♪〜〜♪〜〜♪〜〜♪〜〜
それと同時に鳴る俺の携帯。俺は携帯を手に取り通話ボタンを押した。
『まこっちゃん、今何処に居るの?』
携帯からの声と普通に耳に入る声。両方の耳から声が聞こえる。
「どこってお前の後ろだけど?」
『後ろって…。えぇっ!』
巴はようやく俺の方を向いた。
「よう、巴。」
俺は携帯をきりポケットにしまった。
「えっ?えっ?」
巴は携帯を持ったままキョロキョロしてる。挙動不審だ。
「巴、落ち着け。今から言う事をよく聞けよ。今日の待ち合わせは10時だ。俺は10時ちょっと前に着いた。そんで誰かは10時を30分くらいすぎてから来た。…さあ、なにか言う事は?」
「えっ?あっ…、ご、ごめんなさい。」
「よし、よろしい。」
巴は俺をジーッと見てる。
「まこっちゃん…男に見えるね。」
「そりゃ抑えて水増ししてるからな。」
「男装なんて言うからてっきりオ〇カル見たいかと思ってた。」
「あのな…。そんな恰好で外歩ける訳ないだろ。」
「それもそうだね。」
俺と巴は声を揃えて笑う。
まぁ、俺もはじめはそう思ってたけどな