第105話:ある病院の風景
さて、俺は今非常にピンチにみまわれている。
病室からでて中庭に来たのはいいだろう。その途中の自販機でブラックコーヒーを買えたのもよし。
中庭の日陰のベンチが開いてたのはもはや奇跡だろう。…けっして暑いからみんな外に出たがらない訳じゃないからな。
俺はベンチに座ってコーヒーを開けようとした所でピンチが訪れた。
コーヒーを飲むには缶を開けないと飲めないのは判っているんだ。
開かないぞ…。両手ガッチガチにギブスで固まってるから蓋が開かないんだ!
何度か試したけどまずひっかからない。
運よく引っかかってもあっさり外れる。
マズイ!諦めるか?いや、俺の胃はカフェインを欲している。ってよりコーヒーが飲みてぇ!
こんな時に限ってなんで周りに誰も居ない!暑いからか?夏だからか?
考えたら自販機でコーヒー買えたのがすでに奇跡だった。袋に俺の財布があったから持ってきて財布を軽く振ったらたまたま丁度の金が取れた。
考えろ。冷静に考えるんだ。誰かを呼ぶか?
待て。人を呼んで
「これ開けて下さい。」
って言うのか?流石にそれだけの為に人を呼ぶのはマズイだろ。ってか馬鹿だろ…。
そんな事考えてたら手元から缶コーヒーが落ちた。
「ヤベッ!」
缶コーヒーはその丸みをいかしコロコロと転がって行く。
俺はベンチから立ち上がり缶コーヒーを追う。
おむすびを追って行ったおじいさんの気持ちがちょっとわかった気がした。
コーヒーは人にぶつかって動きを止めた。
「あ、すいません。」
俺はその人の足元を見ながら謝った。
俺は小走りでその人の方。正確にはコーヒーに向かって行った。
俺はその人の前でしゃがんでコーヒーに手を伸ばした。
しかし掴めない俺の手には落ちた缶を拾うのも難しいらしくツルッと滑り取れない。
何回か挑戦したが全く駄目だった。…本当によく自販機で買えたもんだな…。
そんな俺の戦いを見かねたのか頭上から手が伸びて来た。
伸びて来た手はコーヒーをあっさり掴んだ。
「はい…。どうぞ。」
俺の頭上から聞こえたのは女の声だった。
「あ、どうも…。」
俺は立ち上がって女の人の顔を見た。そして180度回転をして歩き出した。
歩き出した俺の肩に手が置かれる。かなり力が込められていて痛いです…。
「病室からいなくなってこんな所で何してるの?」
俺の肩をつかんでいるのはうっすらと汗をかいた巴だった。
俺には巴の言葉が
「何しとんじゃワレッ!」
って風に聞こえたのは秘密だ。