第100話:ある非現実の風景2
泉には寝てる俺、巴がいた。
いや、巴の後ろに包帯を巻いた嵐も立っていた。
「嵐は骨折とかは無くすんだらしいよ。」
そっか…。ならよかった。
「ちなみに俺の症状は両手の四指骨折。あとは頭部の負傷だって。」
俺は自分の手をジ〜ッと見た。まぁあんな強さで殴ってれば折れるよな…。
「一応アンタにも聞いておくけどあの時の記憶は?」
「なんかうっすら覚えてる。他人事みたいな感じで。」
「そっか。じゃあ同じだな。」
まぁ元々同じなんだからそうなるんだろうな。
俺達は泉を見ていた。
『巴、今日も来てたのか。』
『あ…、嵐。来たんだ。』
『ああ。』
『嵐、病院にくるたびになんで怪我が増えるの?』
『いや、看護士さんを見るとつい…。』
『ふ〜ん…。ほどほどにしなさいよ。』
巴は俺の顔をタオルで拭いている。
『声かけたらすぐに起きそうな感じよね。』
『そうだな。』
『まこっちゃん…。目開けてよ…。』
『巴、一ついい案があるぞ。』
『いい案?』
『ああ。おとぎ話とかによくあるやつだ。』
『おとぎ話?』
『そうそう。ほら、例えば白雪姫とか。』
『白雪姫…?』
『眠れるお姫様は口付けでってやつ。』
『……。』
巴は顔を真っ赤にした。頭から湯気出てるし…。
ってか嵐のヤツ何言ってやがる…
『あ、嵐!何言ってるのよ!』
『あくまでおとぎ話の話だろ。』
『そうだけど…。あ、嵐?何処に行くのよ。』
『検査だよ。じゃあな。』
嵐が病室を出ていった。
『まったく…。変な事言うんだから…。』
巴は視線を病室のドアから俺に移した。
『………。』
巴は寝ている俺の顔をジ〜ッと見ている。顔ってよりも口を見てるな…。
『口付けか…。』
巴の手が動いて指で俺の唇に触れた。
『は、歯みがいてこよ…。』
巴は小走りで病室を出ていった。
「これは…どうしたもんだろう。」
「さぁ?どうしたらいいかな。」
『男』の俺と『女』の俺は顔を見合わせる。
「戻る方法知らないのか?」
「知ってれば戻ってるよ。」
だよなぁ…。
「正直、今自分がなんなのかも判ってないしな…。」
「だよな。いずれ皆の記憶からアンタが消えるかも知れないからな。」
「なんかアレだな…。人に言われると辛いな。」
「いや、俺もアンタの一部だからな。」
ごもっとも。ただ頭では理解してるつもりなんだけどいまいち納得出来ないって言うか…。
「まぁ、向かいあってる人から言われればそう思うか。」
「そうなんだよな…。」
ガラガラガラ…
突如、泉から音がして俺達は泉を見る。
さっきまで寝ている俺しか居なかった病室に巴が再び戻って来たようだ。
巴は口に手を当てながらなにかしてる。
「あいつ、本当に歯磨いて来たのか?」
「みたいだな。確認してるし…。」
巴は鞄から小さなバッグを取り出した。
「口紅塗ってるのか?」
「巴…本気でする気なんじゃ…。」
泉に映る巴は鏡を見ながら化粧をチェックしてる。
「嵐の冗談を真に受けてるな…。」
「みたいだな…。」
それで戻れるなら世話ないぜ。
『まこっちゃん…。』
巴が椅子の座り顔を近付けていく。
「しまった…。あることに気が付いた。」
「俺もだ。」
二人の俺は同時に口を開いた。
『止める手段がない…。』