第9話:よくある登校風景4
時計を見る。HR開始まで残り僅か。ギリギリだな。
校門の所で舞と別れた俺と巴(後ろの方に嵐)は走っていた。
霞ヶ崎学園…広大な敷地に大勢の生徒が通っている。そう…広大な敷地に…。
俺達3人は同じクラスだ。そして俺達が目指している教室は…500m先の3階にある。
まわりには俺達と同じ様に走る生徒達。
その生徒達を追い抜く俺。俺の少し後ろに巴と嵐。
「「桂木!」」
大声を上げ俺の目の前に集まるのは…
空手、柔道、剣道、ボクシング、弓道、野球、サッカー、バスケ、バレー、演劇、科学…etc…etc…
各部の方々である。その集団に突撃する俺。そしてそのまま通過する。あれ…?
「赤井!桂木はどこだ!」
捕まる嵐。
嵐に詰め寄る各部の方々。キョロキョロと辺りを見渡す方々。
「真なら前を走ってますって!」
嵐の指差した方(俺)を見る方々。
「どこにいると言うんだ!」
再び嵐に詰め寄る。完璧に足が止まる嵐。
「だからあの女…」
「女生徒はどうでもいい!桂木はどこだ!」
そっか。女なんだよな。あっさり通れると思ったら…。
「まこっちゃん。ラッキーじゃん!」
いつの間にか横を走っている巴。嵐はかなり後ろにいる。
「真!俺を置いていくな!」
後方でかすかに聞こえる嵐の声。空耳だ。俺には何も聞こえない。
「ちょっ、先輩方、遅刻しますよ。」
「そんなモン関係ない!桂木を入れる事が出来るなら遅刻くらい!」
いや、例え誘われても入らないから…
そう、あの集団は勧誘の方々。俺を入部させようとしつこいんだ。助っ人はやっても入る気は全然無いのに。
「ま、真。逃げるなぁ!」
「「桂木はどこだ!」」
今、嵐からテレパシーがきた。
『ここは任せて先に行け』と
わかった嵐。お前の死は無駄にはしない!
「いや、まこっちゃん。アレは純粋に助けを求めてるかと。」
「何を言うんだ、巴。自らの死に場所を見つけた男…いや、漢の邪魔をするのは野暮ってもんだ。」
涙を流さんばかりに力説する俺。嵐との距離は離れる一方だ。なんだかんだ言いつつ巴も足を止めない。
「まこと〜」
何も言うな嵐!線香はあげてやる。
周りには走る生徒ばかり。後ろを見ると嵐は見えない距離になっていた。
扉をくぐり俺と巴は下足のまま廊下をはしる(うちは上履きはないんだ)
階段を一気にかけあがり我らの教室の前に着いた。
「はぁ…はぁ…。間に合ったようね…」
膝に手を置き息を整える巴。
「間に合ったな。鐘も鳴ってないし。」
巴をパタパタ扇ぐ俺。
「た、体力は変わってないみたいね…。」
そのようだ。女になったから疑問だったんだが体力は落ちてないようだ。
「しかし、今更ながら入るの躊躇うな。」
この教室の中に俺が女になった事を知ってるヤツはいない。正直気まずい…。
「何言ってんのよ。さて、入りますか。」
俺の手を引き教室に入って行く巴。
渋々と教室に入る俺。