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人を操る少女(僕の妹・美樹シリーズ)

作者: 神野 守

僕の妹の美樹は、霊感が鋭い。本人曰く、「霊は見えないけど、いるのは感じるし、心の中に声が聞こえてくる」らしい。僕には全くそういう能力はないけれど、母がやはり《そういう体質》のようで、「肩がこるから」と、よく肩もみをさせられる。


美樹は頭も良く、そこそこ可愛いからモテると思うのだが、恋愛に関しては奥手のようだ。彼女の生涯のテーマは、《仮説検証》である。自分の立てた仮説が正しいのかどうかを、実験を繰り返して検証することこそが、彼女にとって至福の時間なのだ。


その行為が、男女の恋愛よりも、美樹にとっては優先されるものだった。そして、友人の恋愛話の相談を受けたときは、彼女にとって絶好のチャンスなのだ。


美樹は僕より一つ年下なのだが、小さい頃から「お兄ちゃん」とよく慕ってくれる。向かいあってそれぞれに自分の部屋があって、お互い行ったり来たりする。


ある日、僕が帰ってくると、美樹は友人の加奈子にタロット占いをしていた。彼女はドアを開けっ放しにするので、会話の声が聞こえてくる。今どきの女子中学生たちの恋愛話に、ついつい聞き耳を立ててしまう。


どうやら加奈子は、同じクラスの男子・藤本が好きなようだが、美樹の占いでは、彼は別の女子・愛梨が好きらしい。どうも近々、彼は告白を考えているようである。しかし、愛梨は彼の気持ちに気づいていない様子だ。そして困ったことに、この二人の相性は良いらしいのだ。


美樹は「彼が告白したら、愛梨はOKしちゃうよ」と加奈子に言う。「それは嫌だ」という彼女に、美樹はこうささやく。


「じゃあ、邪魔しちゃおうよ」


美樹はそう言って、「彼が告白する前に彼女を連れてきて」と加奈子に言った。そして次の日、加奈子は愛梨を連れてきた。どうやら、美樹のタロット占いは、学校でも《よく当たる》と評判のようである。

僕は例によって、向かいの部屋の会話に聞き耳を立てる。


「愛梨ちゃん、あなたに、不吉なことが近づいているようだわ」

いきなりの不吉な宣告だ! 中二がそんなこと言っていいのか?


「なにそれ、やだー! なんなの、不吉なことって?」

中二らしい、素直な驚きようである。


「あなたに近付いてくる男がいる。一見、良い男のように見えるけど、あなたはその男と縁を持つと不幸になる暗示が出ているわ」

「えー? だれ、それ? わかんなーい!」


どうやら、愛梨は藤本の気持ちには気づいていないらしい。


「その人のイニシャルはFだわ。」

「F? 古川? 藤井? 福田?……藤本?」


おっ?

藤本の名前が出たぞ。


「とにかく、その男から言い寄られたとしても、つきあってはダメ。その男はあなたに災いをもたらすから」

「そうなのね。わかったわ」


「あなたを幸せにしてくれる男は八年後に現れると出てる」

「八年後? わたしが二十二歳になったら出会えるのね」


愛梨は美樹の占いに満足し、喜んで帰っていった。


数日後、美樹の元に、友人の加奈子が来ていた。どうやら藤本は、愛梨に告白してフラれたようだ。

加奈子は、成功報酬として、美樹の好きな限定販売のケーキを買ってきていた。美味しそうにケーキを食べながら会話をする二人の様子は、中二の女子そのままである。


加奈子の藤本に対する恋はまだ成就していないのだが、まずはライバルを一人消してもらったことが嬉しかったようだ。

彼女は終始上機嫌で、何度も美樹に礼を言って帰っていった。彼女が帰ったあと、美樹が僕の部屋にやってきた。


「お兄ちゃん、今の話聞いてたでしょ?」

「えっ?……いや、別に、僕は……」


お前は《千里眼の女》か?


「あの子、これから使えるわ」

「……」


使えるって、なに?

何を企んでるの?


数日後、美樹の部屋に二人の女子が来ていた。

一人はこの前の加奈子、もう一人は……。


「はい、私は中一で、卓也の妹の藤本沙織です」


えっ、藤本の妹?

僕は、意外な人物の登場に、いつもより神経を集中させて聞き耳を立てた。


「はい、私も占い大好きなんです。美樹先輩の噂を聞いて、加奈子さんに連れてきてもらいました」


推理好きの僕は、《沙織》という女の子の登場に、なにか偶然ではないような、必然的に仕組まれたような気がしてならなかった。あわててノートを広げ、登場人物をまとめてみる。


まずは、妹の美樹。そして美樹の友人の加奈子。その加奈子が好きな男子の藤本。藤本が告白した相手の愛梨。


藤本と愛梨を結ぼうとしていた《赤い糸》が、美樹と加奈子によって切られてしまった。その結果、加奈子の美樹に対する信頼がぐっと高まった。


この加奈子という女の子は、僕が見た感じ、かなりのおしゃべりのようだ。学校における、美樹の広報担当のような役目を担っているのだろう。


加奈子が拡散した噂を耳にした沙織が、今日、この家にやってきたのだ。

まるで蜘蛛の巣にかかった蝶々のように……。


さっきちらっと顔が見えたが、沙織もまた、美樹に雰囲気が似ている。”類は友を呼ぶ”と言うことか。

その後、沙織は、度々一人で美樹の部屋に来るようになった。美樹がタロットを教えているようだ。


「すごーい、また当たったー!」


ん?

どうやら、カードで透視の練習をしているのだろう。かなり当たるみたいだが、どうも気になる。僕がさらに聞き耳を立てていると、部屋のドアをノックする音がした。


「お兄ちゃん、ちょっと来て」


お前は《超能力者》か? どうして僕の心がわかるんだ?

僕は言われるがまま、美樹の部屋に入った。


「紹介するね、この子は藤本沙織ちゃん、中学一年生」

「初めまして、藤本沙織です。よろしくお願いします」


「あ、どうも。美樹の兄で中学三年の浩一です」

「この子すごいのよ。何のカードかを当てちゃうの」


そして、美樹はカードを並べると、沙織に当てさせた。たしかに、かなりの的中率で当てていく。どうやらこの子も、美樹と同じ類の人間なのだろう。


美樹は時々、僕に《実験の経過》を見せたがる。この子も、あの加奈子同様、美樹にとっては《実験のアイテム》に過ぎないのだ。


僕には何となく、ストーリーが見えてきた。美樹の計画は、沙織を助手にするつもりなのだ。

まずは沙織にタロットを習得させる。そしてそれによって《人の心が操れる》ことを教えるに違いない。自分と沙織が同類であることは、美樹ならばすでに見抜いているはずだから。


沙織は、師匠である美樹の言うとおりに行動するだろう。美樹の狙いは、沙織のタロットを使って、兄の卓也と加奈子をくっつけるつもりなのだろう。


そうすれば加奈子は、美樹の言うことを絶対視する《忠実な僕》になるだろうし、それは同時に、沙織が師匠の美樹にさらに心酔する要因になる……。


推理オタクの僕は、勝手に妄想をふくらませていった。すると突然、美樹が僕の顔を見て、微笑みながらささやいた。


「その通りよ、お兄ちゃん」


えっ……?

やっぱり、僕の心の中まで見えてるのか?

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