狂戦士とオーガの戦い
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神話の時代
一人の男が山々に囲まれた谷を歩いていた。
そこはオーガと呼ばれる食人鬼の住み処であったが、男は躊躇いもなく進んで行く。
更に歩んで行くとそのオーガが目視出来る程まで近づく。
オーガの数は五体。男の倍の身長はあり、その屈強な筋肉と頭蓋骨で出来た首飾りからして対峙するのも恐ろしいが男は立ち止まると呼吸を整え、オーガの群れへと雄叫びを上げながら突進する。
「うおおおおおおおおおおぉぉぉーーっっ!!」
突然の咆哮にギョッとするオーガ達であったが、すぐに獲物と解ると男に襲い掛かって行く。
メキョッ!
勢いの乗った打撃で吹き飛ばされたのはオーガの方であった。
その顔のは男の拳の痕が禍々しく残り、身体がくの字に折れ曲がっている。
男は狂戦士と呼ばれる部類であったのだ。
同胞が倒れ込み、騒然とするオーガ達。その顔には怒りよりも躊躇の表情があった。
かつて、戦士や騎士と言った猛者達を葬って来たオーガ達にとって眼前の男は明らかに異質であったからだ。
オーガ達は人間達から奪った剣を手にすると男を囲う様に身構える。
先に仕掛けたのは男であった。男の腹が剣で浅く切り裂かれる。
だが、気にしない。
男は飛び膝蹴りでオーガの顔面を潰すとその頭蓋骨の首飾りを鷲掴んで引き寄せ、その顎にアッパーを繰り出す。
そして、悶絶するオーガから剣を奪うとその胴体を両断した。
そんな男の背に鋭い痛みが走る。背中を他のオーガに切り裂かれたのだ。
だが、気にしない。
男は振り向き様に剣を振るうとそのオーガが持つ剣ごと首を跳ねる。血飛沫が舞い上がり、男の身体をオーガの血が濡らす。
男の持つ剣もまた疲弊し、刃こぼれが生じたが、男は気にしない。
残り二体。男はがむしゃらに剣を振るうオーガに突っ込むとその首に剣をねじ込む。
剣が根元からボキリと折れたが、気にしない。
男は更に折れた剣をねじ込むと喉元から腹にかけて切り裂き、そこからはみ出した内臓を無造作に引きちぎって、オーガを蹴り倒す。
残れたオーガは完全に戦意を喪失し、逃げようと背を向けるが、その肩に男が投げた剣が突き刺さり、もんどり打つ。
オーガが命乞いをするが気にしない。
男は躊躇いもなく、オーガに歩み寄ると別の剣を引き抜き、オーガを頭部から両断する。
さらに男の顔に返り血が付着したが、男は気にせず、周囲を見渡す。
そして、最初に倒したオーガに目を向けるとその胸に深々と剣を突き立てた。
そこで男は大きく息を吐き出すと再び周囲を見渡した。
すると遠吠えが響き渡り、十数体のオーガが繁みから現れる。
男はそれを見てーー笑った。
あれだけでは物足りない。あれだけでは本能が治まらない。渇きが潤う事はない。
「うおおおおおおおおおおぉぉぉーー!!」
男は歓喜の雄叫びを上げながら剣を手に駆け出す。
まだ背中が疼いたが気にしない。
男は武器を手にした先頭のオーガに駆け寄ると剣を高々と振り上げ、その脳天を叩き斬る。
最早、どちらがオーガか解らない。
ーーー
ーー
ー
日も沈みかけた夕暮れ時。
辺りにはオーガの死屍累々が転がり、荒い呼吸を繰り返す男の姿があった。
その肩には折れた剣の刃が突き刺さり、太ももには矢が突き刺さっている。口からは鮮血が零れていたが、オーガの返り血がそれを隠す。
しかし、そんな満身創痍な状態でも男は倒れる事さえもなく、踏み止まり、突き刺さっていた刃や矢を引っこ抜き、前進を再開する。
狂戦士に安らぎはない。あるのは渇きと飽くなき闘争本能である。
男は剣を杖代わりに前進し続ける。
次の戦いを求めて……。