第8話 勢いで引きこもりを止める俺
「だっ、大丈夫ですか勇者様」
シエルが魔法で俺の傷を治してそう言った。
「ああ、なんとかな」
「よかったぁ」
シエルが俺の胸にすがりつく。
「よかったです……うっ、うううう」
◇
「うん、ラスボスの消滅を確認したよ」
教会の中庭で、神が皆にそう告げる。
「うおおおおおおおおお」
大歓声が辺りに轟いた。
シエルがまた涙ぐんでいた。
「ほれ」
桐生が悪戯っ子の様な笑顔で、俺の背中を押す。
「ちっ」
俺はシエルの側に立ち、そっと抱きしめる。
「うわああああ、あっ、ゆうっしゃっ、さまあああああ」
それをきっかけに、シエルは俺にしがみついて号泣を始めた。
◇
ともかく慰労の為に宴が開かれるとの事で、俺達は休憩室で待たされていた。
「ねえ、で、結局あの黒い穴は何だったの?」
桐生が、ラスボスを吸い込んだ穴について尋ねる。
「ああ、元の世界で出口をブラックホールの側につないだんだよ」
「ブラックホールって本当にあるの!?」
「なに言ってんだ? あるよ、有名だろ? 白鳥座X-1」
「へー、そうなんだ」
あまり食いつきが良くないな。
面白いと話題だと思うんだが。
「どこでもつながるドアで思考実験しなかったか?
例えば深海につなぐとかさ。
攻撃魔法とかよりぜんぜんチートだろ、こういうの」
「ふーん」
反応うっす!
まあ女子だとそんなもんか?
◇
その後、教会の食堂で驚く程に歓待された。
「うぼぁぁ、ゆうじゃぁ、ざまぁあ、ごのだびはっ、うぼっ、げぶっごばああああぁ」
聖光教会のトップ、シャハルディ十八世は俺の手を握り、嬉し号泣をしていた。
この人こんなキャラだったのか……。
涙と鼻水とよだれで顔はぐしゃぐしゃだ、汚い、いい年をしてこれはどうよ?
だが、誰もそれを笑う者は居なかった。
「勇者様、こちらは我が国の誇る宮廷料理でございます。
腕利きの料理人が精魂込めて作りました、どうかお召し上がりください」
「勇者様、この酒は我が国の特産で……」
「いや、酒はちょっと……」
未成年に勧めんなよ。いや、この世界だと禁じられてないのか?
とにかく、色々な国の王様だか、大臣だかが、俺と桐生にやたらと自国の名産品を勧めてくる。
「馬鹿め、退くがよい。
勇者様、こちらは我が国の誇るパティシエが生み出しましたスイーツの一品。
どうかご賞味あれ」
「うわっすごっ! 美味しいよこれ、ほらほら、あーん」
「桐生、お前なぁ……うぐっ」
桐生が自分のスプーンでスイーツをすくい、俺の口に押し込んだ。
確かに甘くて美味い。
「ほらほら、シエルちゃんも」
「いえ、私は……うぐっ…………あ、美味しいです」
「でしょでしょ」
その宴は深夜まで続いた。
誰もが笑顔でハイテンションで、こういうのが嫌いだと思っていた俺にも、そんなに悪くないと思わせる時間だった
◇
宴も終わり、別れの時がやってきて、シエルがぴーぴー泣き出した。
「ほ、本当に、ぐずっ、ありがとうございましっ、た、ひっく、何度も、もう駄目だって、思った、です、でも、でも……
勇者っさまが、全部、全部、えぐっ、助けて、くれて……ううっ」
涙と鼻水で可愛い顔が台無しだ。
「本当はっ、別れたぐ、ないです、ぐずっ、でも、でも……ついていこうかな?
……う、ううん、駄目ですよね、そんなの、ずるるるるぅ」
美少女が思い切り鼻水をすすっていた。
「ふぐっ、んぐっ、ゆ、ゆうしゃっ、様、だから、わだじ、忘れません、ぐすっ絶対にっ」
「うんうん、ぐすっ」
桐生がもらい泣きしている。
「あ、いや、この世界と行き来できる扉は、いつでも使えるようにしておくから、これでお別れじゃないよ?」
突然現れた神がそう言った。
「えぐ? ははー、ひっく」
シエルが泣いてる途中でひれ伏した。
「いつでも好きに行き来してね」
「えーっ、台無しだよ。私の感動を返せ!」
桐生が片手でビシっと神に突っ込みを入れる。
「まあまあ、君達は英雄だし。歓待され続けるといいよ。
なんなら大怪盗になるのに使ってくれても良いし」
「神が犯罪勧めんなよ」
「あはは
でも、シエルちゃんもその方がいいでしょ?」
「え……は、はい」
そう言ったシエルは、うつむいて赤くなった。
「それに、それに、
またあんなのが来たら、よろしくね?」
神が満面の笑顔でそう言った。
それが本音か!
だがまあ、このドアは超チートだ。
元の世界でも問題解決の役に立つだろう。
ありがたく頂戴しておこう。
◇
「ほら、急がないと遅刻するよ」
桐生が俺を急かす。
俺は引きこもりを止めて、学校に登校する覚悟を決めた。
「もしかして怖い?」
真顔でそう尋ねる桐生に、俺は鞄から木製の短い杖を取り出して言う。
「いや、大丈夫だ抜かりは無い。
これを見てくれ、向こうから持ってきた魔法の道具だ。
道具ならこっちの世界でも使えるんだよ。
これでクラス全員を催眠にかけてだな……」
「はい、没収」
俺の手から桐生が魔法の道具を取り上げてしまう。
「あ、てめっ、返せくそっ」
「こんなもの無くても平気だってば」
桐生がため息混じりにそう言った。
「なんでだよ?」
「だって、あんなに勇気があったじゃない」
「あれは勇気じゃねえよ、死んでも良いと思える程に自分が無価値だったから……」
「ああ、もうっ、じゃあ私が味方だから! 何があっても君の味方になるから! 任せといて!」
桐生はそう言って親指を上げた後、
「ほら、行くよ」
俺の手をとって先へ進んでいく。
彼女の手は触り心地が良く、道の先には暖かな日差しが溢れていた。
お読み頂きありがとうございました。
これにて物語の完結となります。もしよろしければご感想など頂けると嬉しいです。
長編連載も書いております、お読み頂けるととても嬉しいです。
作者名からリンクをたどって頂けますとありがたいです。
『悪の改造人間、異世界へ ~平和にのんびり暮らすつもりだったが、あまりに悲惨な世界だったので、もう一度世界征服へ挑む事にしました~』




