第7話 最終決戦
翌日、俺は異世界教会の中庭にドアを通って現れた。
寝過ごしていた。
よほど疲れていたらしい、遅刻だと怒られそうだ。
誰か居ないかと辺りを見回すと、教会の中から小さな人影がパタパタと走って来る。
シエルだ。
「勇者様~はぶっ」
あ、転んだ。
「ううううっ、勇者様ぁ」
俺の側まで来たシエルは、べそをかいていた。
「転んだくらいで泣くなよ、子供かっ」
「違いますよっ! 転んで泣いてるんじゃありませんっ!」
「え? ならどうして?」
俺の疑問にシエルはうつむいて小さな声で答える。
「だって、もう二度と会えないかと思っていたから……」
「どういうことだ?」
顔を上げたシエルは、両目にめいっぱい涙を貯めていた。
「もう勝てそうも無いじゃないですか、それに勇者様達は誰も来てないし……」
「え、誰も来てないの?」
俺が一番最後だと思ってたのに……。
「はい、誰も……勇者様はどうして来たんですか?
死んじゃいますよ?」
うーん、そうかぁ……。
みんな諦め早いな。
「勇者様だけでも来てくれて嬉しいです。
すごく、とっても……でも、でも、もういいです」
涙をポロポロこぼしながらシエルは笑う。
「もういいですから、勇者様まで死ぬ事ないですよ。
だからお帰りください。最後にお話し出来て良かったです」
これは、この世界の人も諦めムードなんだろうな。
だったら……。
「おい、神」
「なんだい?」
「はっ! ははー」
神が現れ、直後に泣いていたシエルがひれ伏す。
コントか!
「この世界の住人を、俺の世界に移住させられないのか?」
「無理だね。
今でも君の世界の神様には、かなり無理を聞いてもらっているんだ。これ以上は厳しいな。
大規模移民とかは無理だよ」
今、聞き逃せない単語が……居るんだ、俺の世界にも神!
いや、それはどうでもいい。
「シエルだけなら移住できるか?」
「可能だね」
「え? いいです勇者様。自分ひとりだけ逃げたり出来ません。最後まで頑張ります」
そうか、君はそんな感じか。
「なら、やる事は一つだな」
「驚いたな、まだ戦う気なのかい? 君はそんなに熱心だったかな? どうしてだい?」
「だ、駄目ですよ、死んじゃいますよ勇者様」
戦う理由か……。
「俺さぁ、どんなクソゲーも投げた事ないんだよね」
「くそげ?」
シエルはきょとんとした顔だ。
「ゲームではないのですよ? 死にますよ?」
「おい神、お前が言うの?
いいんだよ、最近、気がついた事があるんだ」
「なんです?」
「俺が死ねば、俺自身にとっては世界が滅ぶのと同じだって事をさ」
そう、俺の命なんて、元々なんの価値もない安っぽい物なんだよ。
だから気軽に賭けられる。
「自分の力でどうにもならない物を呪ってはいけません、自分が不幸になりますよ」
「知ってるよ。
だがな神、俺は自殺に来たわけじゃねーよ」
「策があるんだ? 乗った! 二人で出来る? いやぁ、寝坊しちゃってさぁ」
いつの間にか、こちらの世界にやって来ていた桐生美咲がそう言った。
お前もか。
「有るぜ、行き当たりばったりの成功率低そうな作戦がな」
「上等!」
そう言った桐生が親指を立てる。
俺はその顔をじっと見つめた。
「え? な、なによ?」
「あ、いや、お前って男らしいよな」
「褒めてないよねっ!?」
桐生以外の全員が笑った。
◇
「ラスボスの形が変わっているか」
教会の一室、魔法で送られた映像を見て、俺達は作戦を立てる。
「腕が無くなり、上部に板状の……これは盾だな。そして無数の穴があり、そこから魔力を集約したレーザーのような攻撃をしてくると」
俺は、未だ前線に残ってくれている精鋭部隊からの報告を反芻する。
「魔力レーザーは対空砲で、半径三キロ以内に接近した物体を無条件で迎撃する。
上空の弾幕は厚いが、反面水平方向はそれほどでもないかな?
かなりの装甲強化が行われ、強固だった防御力が更に跳ね上がっていると。
凄いな、前回の戦闘から学んだのか」
この短時間で、たいした進化っぷりだ。
「これはアレだな、庵野監督的世界から来た化け物なんじゃないか?」
「あんの……誰?」
超有名だと思うんだが、桐生は知らないか。
「その反面、速度は遅くなっていて、時速四十キロ程度になったのか」
「ねえ、これヤバくない? もう武器とか効かないんじゃ?」
桐生がそう言って、俺の顔を見る。
「同じ攻撃は通用しないだろうな。
もっとも、人数が足りないから出来ないけど」
「本当に作戦とかあるの?」
桐生は不安そうな……というより呆れたような顔だ。
マジでいい度胸してるよ、頼もしいぜ。
「ああ、むしろこの変化は好都合だ。喜べ、成功の確率は劇的に上がったぞ」
「どゆこと? あ、もしかして核兵器とか盗みに行くの?」
なかなか物騒だな。だが違う。もっと強力なヤツだ。
「庵野監督的な暗い状況を、明るい藤子先生のノリで解決するんだよ」
「ふじこ……誰?」
おい、まさか藤子先生も知らないのか、お前。
◇
三時間後、俺達は俺達の世界で無人島の海岸に来ていた、シエルや総勢二百名の魔術師と共に。
海岸には大小様々な金属性の球が集められていた。
一番小さい物で砲丸程度、一番大きい物は重機のスチールボールだ。
全て盗品だ。今度の相手は民間企業等だったので、代わりに相当の金貨を置いてきたが、ややこしい事になってしまうかもしれない。
「オープンザドア」
重機関銃を二丁持った俺は、異世界への扉を開く。
三秒後、異世界とつながり精鋭部隊の兵士が見えた。
「位置の確認。予測どおり移動中です」
兵士はそう答える。
「よし、始めよう」
俺が作戦の開始を告げる。
「分かった、オープンザドア」
桐生が砂浜で、水平にドアを開く。
三秒後、まるで落とし穴のように異世界への扉が開く。
気圧の差で、向こうに風が流れ込んでいく。
「投下開始です」
シエルの合図で、魔術師達が金属の球を落としていく。彼女の手にはこの世界の時計が握られている。
順番は決められており、順調に投下が行われる。
「投下停止です」
約五秒後、今度は停止の号令をシエルが発し、魔術師が従う。
直後に異世界への扉が消滅する。
「オープンザドア」
間髪入れずに桐生がまた扉を開く。
「よし、皆、その調子で頼むな。オープンザドア」
俺は扉を開く言葉を口にした。
「死ぬなよ」
桐生が親指を立てて言った。
「おう」
俺も親指を立てて答えた。
そして、俺の目の前に異世界への扉が開く。
飛び込んだ異世界では、ラスボスが前方八十メートル程の場所に居た。
少し遠いか? いやどのみち誘導は必須だ、ここで良い。
「オープンザドア」
俺は元の世界へとつながるドアを設置した後、ラスボスを誘導すべく突進する。
こっちだ、こっちへ来い、そう思いながら俺は両手で重機関銃の銃弾を叩き込む。
ラスボスから俺に対する攻撃は、思ったより少なかった。
奴の上空三千メートルから雨あられと降り注ぐ鉄球の迎撃に夢中だったからだろう。
だが、鉄球より遥かに貫通力のある十二・七ミリ弾を受け、ラスボスの意識が俺に向けられる。
いいぞ、ラスボスの進む方向は悪くない、だがこの弾幕の密度は危険だ。
俺は、重機関銃を投棄して避けることに専念する、避ける、避ける、だが限界は近づいていた。
もう無理か?
そう思った直後、俺の体にレーザー状の魔力が当たる寸前、俺が開いた異世界と元世界をつなげる扉が現れる。
それは、何もかも恐ろしい力で飲み込む黒穴だった。
周囲の空気を、大地を、その他全てを容赦なく獰猛に引き寄せて、飲み込んでいく。
当然、俺もラスボスも引き寄せられる。
俺は全力の飛行魔法で抗う、だが、ラスボスには抵抗する手段がなかった。
俺の数百倍はあるだろうその重量も、むしろ引き寄せる力を増していた。
瞬く間に引き寄せられ、その穴に落ちていくラスボス。
やった、勝利を確信したその瞬間、断末魔のラスボスが放った魔力レーザーが俺の胸を捕らえる。
「ぐっ」
最後の一撃を放ったラスボスは、穴の中へと跡形も無く消えた。
そして、被弾して飛行魔法を使えなくなった俺もまっさかさまに落ちていく。
扉が開いてから閉じるまでは、約五秒。
あとどのくらい残っているのか分からないが、とても間に合いそうになかった。
ここで死ぬのか、まあ俺にしてはよくやった方だよな。
目を閉じた俺は、いきなり軟らかな感触に包まれる。
「このおおおおお」
「うわあああああ」
驚いて目を開けると、シエルと桐生が俺を抱えて飛行魔法を使っていた。
なぜ? どこから?
目の前に桐生が開いたらしい扉があった。
馬鹿共め、こんなことしたらお前らが死んでしまうだろ。
引き寄せる力は強く、グングンと黒い穴が迫る。
もうすぐ時間切れの筈だ、だが、そのコンマ何秒が足りない。
くそっ、俺は死ぬ気で底力を振り絞る。
この二人は死なせたくないと、心から思った。
そして穴に引き寄せられる速度がほんの少し緩む。
俺の飛行魔法が復活していた。
俺達が穴に飲み込まれる寸前に、引き寄せる力は唐突に消えた。
扉が閉じたのだ
俺達三人は反動で、放たれた矢のように前方へ打ち出された。
助かった……。
こんな長く感じた五秒は初めてだった。
お読み頂きありがとうございます。
この作品は本日中に投稿する次話で最後となります。
続きもお読み頂けると嬉しいです。
長編連載も書いております、お読み頂けるととても嬉しいです。
作者名からリンクをたどって頂けますとありがたいです。
『悪の改造人間、異世界へ ~平和にのんびり暮らすつもりだったが、あまりに悲惨な世界だったので、もう一度世界征服へ挑む事にしました~』




