第5話 戦闘開始
俺達が銃器を使用した訓練を開始して、ちょうど一週間たったその日。
ラスボスの手によって、また街がいくつか滅んだとのニュース飛び込んできた。
教会の空気が重い。あちこちですすり泣くような音が聞こえる。
「襲われた街の出身者です」
シエルがその原因を教えてくれた。
「分かります、私の住んでいた村も襲われましたから」
彼女は遠い目をして、たった一言そう言った。
そうか、この子の覚悟はそのせいか。
◇
「運命神から、十分に勝機があるとの判定が出た。
そろそろ討伐を考えて欲しい」
神が勇者を集めてそう言った。
「訓練が足りてないと思う。あと敵の分析も不十分だ。まだ早い、万全を期すべきだと思う。」
俺は反対意見を述べる。
当たり前だ、自分の命をかけるからには、最大限慎重に望みたい。
「だが、こうしてる間に、多くの人々が危険にさらされているのも事実だ」
大学生江藤は神に同調する。
「分かってるのか? ミス一つで全員が死ぬかもしれないんだぞ」
俺は食い下がった。
「なら皆の意見を聞きたい、今戦うのか、もっと訓練をしてから戦うのか」
江藤は皆に問う。
そして話し合いの末、俺達のラスボス討伐が決まった。
とはいえ、ラスボスも異世界からの侵入者だ。
普段はこの世界に居ない。
突然現れて、その周囲の町を数日間かけて蹂躙し、殺しつくした後にまた異世界へと戻るのだそうだ。
俺達は今までと同じ訓練の日々を過ごしながら、ラスボス出現の報告を待った。
◇
俺達の決意を知った教会は、壮行会を開いた。
各国の王を初めとした有力者が出席して、勇者を称え、その活躍を願う声で満ちていた。
俺達は、この世界全ての人類に残された最後の希望だそうだ。
だが同時に、どいつもこいつも疲れ果てた顔をし、悲壮感を漂わせていた。
だがそれも、ラスボスによる被害の大きさを考えれば当然なのかもしれない。
ここへ来て初めて知らされたのだが、ラスボスの所為でこの世界の人口は三分の一以下にまで減らされているのだそうだ。
◇
ラスボス出現の報が教会に届いた。
訓練中だった俺達は、世界移動に使うドアを利用して現地近辺に急行する。
そして、被害にあった街の惨状を目にする。
ラスボス自体は、既に別の街へ移動中との事だ。
恐らくかなり栄えていたのであろうその街は、殺戮の限りを尽くされていた。
建物は崩れ、燃え盛り、見渡す限り数え切れない死体が散乱している。単位は万人だろう。
たった一匹でこれをやってのけたのか? こんな短時間で? 化け物め。
ある者は銃弾の様な物で撃ち殺され、ある者は焼け死に、ある者は強力な力でばらばらに引き裂かれて死んでいた。
知識として知っているのと、実際に見るのとではあまりに違いすぎた。
勇者全員が胃の内容物を全て吐いた。もちろん俺もだ。
この世界の人間が、なりふり構わずに必死な訳だ。
シエルが自分の身など、どうにでもと言う訳だ。
あまりに無常で、悲惨で、絶望的だった。
◇
俺達は空を飛んでラスボスを追撃する。奴が次の街に届く前に追いつく。皆が同じ気持ちだった。
そしてついに奴を、魔法で強化した視界に捕らえる。
前方約三キロを、時速二百キロ以上の速度で爆走していた。
六本足、六本腕の黒い塊。
大きさはアフリカゾウ程度だろうか? 以外に小さい。
腕以外に無数の触手を持ち、その先端から射程の長い魔法の小型誘導弾を発射する。
中距離では火炎放射器のような攻撃を行い、近接はその六本の腕が恐ろしい怪力を振るう。
幾多の街を滅ぼし、数多の殺戮を行った異世界からの侵略者だ。
「よし、訓練どおり行くぞ。皆、RPGを構えろ」
大学生江藤が支持を出す。
俺達の頭には無線とヘルメット、そしてゴーグルが付いている。
武装は結局、五十口径の重機関銃とRPGが一丁ずつとなった。
全て魔法で強化してあり、重機関銃は移動しながら射撃ができるように、持ちやすく改良されていた。
俺たちの後方には、この世界の精鋭部隊が追従してくれていて、武器弾薬の補充や治療を担当してくれる。
彼らに俺達の世界の武器を持たせて攻撃する実験も行われていたが、傷一つ付かなかった。
やはり勇者がやるしかないのだ。
「訓練どおり散開し攻撃を開始する。いくぞ皆!」
江藤の号令と共に、俺達は上空からフォーメーションを組んで突撃する。
そう、俺達は歩兵ではない。
魔法で大幅に強化された十二・七ミリの機銃とロケット弾で武装した、超小型の攻撃機なのだ。
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『悪の改造人間、異世界へ ~平和にのんびり暮らすつもりだったが、あまりに悲惨な世界だったので、もう一度世界征服へ挑む事にしました~』




