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進め!!鬼畜客船ガルーダ号  作者: 橘 正巳
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第五話 敵と殲滅(後編)

◇◇◇◇


「船長、敵は旗艦を中心に向かってきます。陣形も何もあったものではありません。おそらくは素人ですね」


 カーリーの状況報告である。


「察するに、取り巻きのボートは水雷艇みたいな物だね。しばらくしたら、肉薄してくるだろうよ」


 船長が冷静に分析する。


「ど、どうするのだ?」


 ナギが怯える。


「まあ、見てなよ」


 船長が答えて続ける。


「測距用レーザー用意! 目標、敵水雷艇群!」

「了解。測距用レーザー用意」


 船長が指示し、カーリーが復唱する。

 直後、窓にシャッターが下ろされる。

 船橋ブリッジは完全に外界と閉ざされて、モニターを介さなければ外を窺えない。


「へ? 測距用? 何故この段階で?」


 ナギにとって、二人のやり取りは意味不明であった。


「照射!」


 船長が命令する。

 ナギがモニターを食い入るように見つめる。

 だがしかし、レーザーと言う割に、光跡を描いた様子はない。


「何も起こらんではないか」


 ナギが言った直後である。

 ボートの群れが、突如足並みを乱した。

 一隻のボートから、乗員が次々に外へと飛び出した。

 乗員は顔を手で覆って、苦しそうにもがいていた。

 服は焼け落ち、身体はケロイドだらけである。

 乗員は海へ飛び込んで、そのまま動かなくなった。

 制御を失ったボートは蛇行を続けて、あっと言う間に転覆してしまった。

 他のボートも皆、似たような末路を辿っていった。


「なるほど、不可視帯域――目に見えない波長のレーザーか。しかし、あの威力で測距用とは……」

「測距用です」


 ナギが言いかけると、カーリーが言葉を被せた。


「誰が何と言おうと測距用です。この船にあるのは、あくまで測距用に作られた、レーザー発振器です。試しに出力を上げて使ってみたら、自衛にぴったりだった。ただそれだけのことです」

「そ、そうか」


 カーリーの説明に、釈然としない物を感じながらナギが同意した。


「船長、敵が砲撃を開始しました」


 カーリーの報告が続く。


「何? あ、危なくないか?」


 再びモニターに目をやって、ナギが聞いた。


「大丈夫」


 船長が力強く答えた。


 海賊の旗艦が砲撃を続けていく。

 もっとも、旗艦とはいっても、両舷に大砲を並べた粗末な艦であった。

 旗艦は大昔の戦列艦さながらに、船体を横にして撃ちまくっている。


「全速前進! 衝角ラム戦用意!」

「了解。全速前進。衝角ラム戦用意」

「は? 衝角ラム戦だと?」


 二人のやり取りに、ナギは度肝を抜かれた。


 衝角ラム戦とは、遥か大昔の帆船時代に行われた戦法である。

 大砲が発達してから無用になった、体当たり攻撃である。

 

 ナギの懸念を余所に、ガルーダ号はグイグイと加速していく。敵弾が何発か命中するが、全て表面で弾かれた。

 ガルーダ号の体当たりを受けて、旗艦は真っ二つに千切れてしまった。

 少し揺れただけで、ガルーダ号は無傷であった。


「状況終了!」


 船長の宣言で、ガルーダ号の戦いは幕を下ろした。



◇◇◇◇


「それでは、後始末をして参ります」


 カーリーが言って、ブリッジを後にした。


「……この船は凄いな。道理で変てこな形をしているわけだ。しかも、装甲を纏っているとはな」


 ナギが言うように、ガルーダ号の形は独特であった。

 船橋ブリッジより前にある露天甲板は、人が歩けるように出来てはいない。

 全てが傾斜の付いた装甲板で覆われている。


 だがしかし、軍艦が装甲を纏っていたのは大昔の話であった。

 ミサイルが発達した海戦で、装甲はあまり役に立たない。

 防御手段と言えば、誘導装置の撹乱、あるいは直接ミサイルを撃ち落とすことで占められているのが普通である。

 とは言っても、この時代では艦船の新造は難しい。

 大抵は、打ち捨てられたボロ船を修理した物である。

 退化した技術のせいで、お世辞にも性能はよろしくない。

 つまるところ、装甲の優位性がこうして復活したのである。


「それにしても、あのカーリーとか言うアンドロイドも大したものだな。察するに、この船も彼女も、旧時代の遺物であろ?」


 ナギが聞くと、船長の眉尻がピクリと動いた。

 遺物と呼ばれる昔のハイテク艦船でも、程度のいい物は稀にある。それらを巡って、熾烈な争奪戦が繰り広げられていた。


「誰から聞いた……って、本人しかいないな」


 船長が一人で納得する。


「あまり触れ回らないで。企業秘密なんだ」


 ナギに念を押す船長であった。しかし、カーリーに関してはともかくとして、ここで船の正体まで認める必要はない。


「ほう……」


 カマかけが成功して、ナギがニヤリとほくそ笑む。


「分かった。ところで、そなたも、その……」


 ナギが聞こうとして、ためらった。


「ああ、そういうことか」


 船長が察して、自分の親指を噛んだ。


「僕は生身だ。アンドロイドじゃあない」


 否定する船長の親指には、しっかりと血が滲んでいた。


「……すまん。不躾だった。許せ」


 ナギが非礼を詫びた。


「そう言えば、あのアンドロイド――名をカーリーだったな。彼女は、何をしに行ったのだ? 敵兵の救助でもしているのか?」


 ナギが話題を変えて聞く。


「えっと……」


 船長が言い淀んだ。


「私も行った方がいいか?」

「駄目」


 ナギの申し出を、船長が即座に却下した。


「個人的には構わないと思うんだけど――」


 船長が続けた。


「カーリーが、お客は行っちゃ駄目だって」

「……そうか」


 船長の言い分に、納得するナギであった。



◇◇◇◇


 一方でカーリーである。

 外に出たカーリーは、まずタラップの操作盤を弄った。

 タラップがガラガラと音を立てて、海面まで下がる。

 

 カーリーがタラップを降りて行く。

 果たして、辺り一面に浮かぶのは死屍累々である。

 それでも、生き残った海賊はかなりいた。


「おーい! こっちだ!」


 海賊の一人が、カーリーに助けを求めた。


「降参する! は、早く、助けてくれ! サメが来てる!」


 海賊が言う通り、海面には物騒なヒレが沢山のぞいていた。

 血の匂いに釣られて、サメはどんどんと集まって来る。


「ぎゃあああっ!」


 別の海賊が、サメに引きずり込まれた。


「そ、そこのアンタ! 頼む、助けてくれ!」


 最初の海賊が、叫ぶように言った。互いに敵とはいえ、助けを求めずにはいられないほどの状況である。

 カーリーの手には長い棒があった。釣った魚を取りこむ道具――カギバリの付いた長いギャフである。


「はいはい。ちょっとお待ちを」


 カーリーがギャフを伸ばす。


「た、助かった……」


 海賊が胸をなでおろした時である。


「ぎゃっ!」


 海賊の頭に、勢いよくカギバリが刺さった。

 あっさり頭を割られて、海賊は意識を手放した。


「よいしょっと」


 痙攣する海賊を、カーリーが引きずり揚げる。


「どれどれ」


 海賊の身体を遠慮なく弄るカーリー。


「お、これはなかなかいい物をお持ちで」


 程度のいい拳銃が見つかったので、カーリーが懐に収めた。

 そうこうするうちに、海賊の痙攣が止まった。

 死体となった海賊を、カーリーが海へ投げ捨てる。


「何しやがる!」


 別の海賊が叫んで、カーリーに発砲した。

 弾は確かに、カーリーの頭に当たった。

 もっとも、アンドロイドには通用しない。


「次は、えーっと……」


 ささやかな攻撃を気にもせず、カーリーが次の品定めにかかった。


「な、何だこいつは!」


 撃った海賊は茫然としていた。


「はい、そこの貴方!」


 カーリーは、今度は自分を撃った海賊にギャフを打ち込んだ。


「ぐえっ!」


 この海賊も、あっさりと頭を割られた。


「あああ、悪魔だ!」

「うわーっ! 誰か、助けてくれ!」


 生きている海賊は、皆パニックに陥った。

 ある者は逃げようとしてサメの餌食になり、またある者は無駄な命乞いをして、カーリーに頭を割られた。

 海賊の悲鳴を余所に、カーリーがその上前をどんどん跳ねていく。

 武器に貴金属、各国の貨幣その他諸々が回収された。

 浮かんでいる物にしても例外ではない。その中には、燃料が入ったドラム缶もあった。


 カーリーが粛々と、無慈悲なサルベージを続けていく。

 そんなカーリーの意思に沿うよう、ガルーダ号は細かい挙動を繰り返していた。

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