第十三話 決戦と決着(後編)
◇◇◇◇
果たして、カーリーの言う通りであった。
ヘリウムガスは、時代を問わず非常に貴重である。
また、それを抽出するためにも、高度な技術を必要とした。
そもそも、天然ガス田から抽出するヘリウムである。
だがしかし、肝心の陸地はほとんど海の底であった。
もっとも、抽出に限ったことではない。
分子量の小さいヘリウムは、保存自体が難しい。
生半可な容器だと、透過して大気に散ってしまう。
他の可能性としては、核融合の過程で得ることも考えられるが、この時代ではお話にならない。
今となっては戦禍を逃れた貯蔵庫から、細々と拝借している程度である。
「多分ですが、今頃艦内は大騒ぎでしょう」
「それまた、どうして?」
「はっきり申しまして、ガルーダ号の装甲は伊達ではありません。
それこそ、電磁投射砲を使っても、そうそう撃ち破れはしないのです。
しかしながら、現実にはこうして貫かれてしまいました。
つまりですね、敵は分不相応な背伸びをしたのです。
電磁投射砲は、入力する電流の大きさで、威力が調節できますから。
回路が焼き切れたか、砲身が自壊でもしたのでしょう。
要するに自滅です。もう戦闘どころではありません」
「なるほど」
カーリーの推測に、ナギが納得する。
「それはよかった」
ナギの顔には、安堵が戻っていた。
「さて、そろそろご覧に入れましょう」
落ち着いたナギを見て、カーリーが続けた。
「本船の名はガルーダ号――今となっては伝える者がいませんが、古の神話に登場する無敵神鳥の名は伊達ではないのです」
カーリーの宣言が、ブリッジに響いた。
◇◇◇◇
「おいおい、マジかよ」
「信じらんねー」
ガルーダ号の無事な姿に、軍艦では動揺が広がっていた。
「何故だ何故だ何故だっ!」
士官の襟元を掴んで、同じ台詞を繰り返す将軍である。
「今度こそ間違いなく直撃した。それなのに……何故沈まない?」
将軍の言う通り、電磁投射砲は確かに有効打ではあった。
それでも、ガルーダ号は怯まない。それどころか、軍艦に向かって速度を上げながら突っ込んでくる。
「並みの艦なら、一撃で沈むはずだろう!」
「こ、これも推測なのですが……」
将軍に揺さぶられながら、士官が答える。
「敵不審船は、軍艦ではありません。おそらくですが、爆薬の類を積んでいないのでしょう。誘爆しないのです」
「うっ……」
士官の言葉には、将軍も思い当たる節があった。
電磁投射砲の砲弾には、炸薬が入っていない。
運動エネルギーで対象を撃ち抜く、徹甲弾が全てである。
弾薬庫等の重要区画を撃って誘爆を狙うことが、正しい運用方法である。
そもそもガルーダ号をよく知らずに、闇雲に仕掛けたことが悪手と言えた。
もっとも、知っていたところで攻撃が通用したかは怪しい。
徹底して防御力を重視したガルーダ号である。
その生存性は、戦艦のそれをも凌いでいた。
一撃で轟沈を狙うのならば、それこそ核兵器の直撃が必要になってくる。
「じ、次弾装填!」
「無理です!」
「どうして!」
「先程、ご自身で仰っていたではありませんか。今の一発で砲身が破裂しました。回路も焼き切れて、もう使い物になりません!」
将軍の命令を、士官が拒絶する。
カーリーの推測は、悉く当たっていた。
「くっ! 何としても不審船を近づけるな! 衝角を喰らったら、一巻の終わりだ。戦線を離脱する!」
「もうやってます!」
将軍に先んじて、士官が行動に移していた。
それでも、速度差は如何ともし難い。
最早、軍艦の高速性は完全に失われている。
軍艦とガルーダ号との距離は、縮まる一方であった。
「敵、距離を詰めてきます!」
士官の悲壮な声が響いた。
「もう駄目です……って、あれ?」
「どうした?」
士官の急変に、将軍が理由を聞く。
「み、味方です。味方の艦隊が現れました!」
レーダーを見て、士官が嬉しそうに報告する。
「ああ……」
頷く将軍の顔は暗い。
「良かったですね。これで何とかなりま――」
インカムを耳にして、士官は途中で言葉を切った。
「将軍、どういうこうとですか?」
士官が将軍に向き直る。
「味方は、我々を裏切り者と言っています!」
士官が言うと、戦闘指揮所(CIC)にいた全員がざわめき始めた。
「何だって?」
「ど、どういうことだ?」
「俺は裏切り者になった覚えはありません!」
全員が持ち場を離れて、将軍に詰め寄った。
「そ、それはだな……。おい、お前たち!」
言い淀みながら、将軍が腹心たちに振った。
しかし、肝心の腹心たちときたら、皆知らぬ存ぜぬを決め込んでいる。
「くそっ!」
将軍が悪態をつく。
「とにかく、我々は貴方と心中するつもりはありません。このままだと、味方に蜂の巣にされます」
士官が言って、舵を切った。
「ば、馬鹿! 今舵を切ったら……」
「あっ……」
将軍が止めた時はもう遅かった。
ガルーダ号の衝角が、勢いよく軍艦に突き刺さる。
その速度ときたら凄まじく、およそ四十ノットにも達していた。
突進しても尚、ガルーダ号は推進力を落とさない。
軍艦はそのまま、二つに引き裂かれていった。
「ど、どうすれば――」
激しく揺れる艦内で、将軍が自問する。
「どうすればよかったというのだ!」
天井を見上げて、将軍が叫んだ。
あるいは電磁投射砲などに拘らず、ミサイルの飽和攻撃なら可能性はあったかもしれない。
そもそも二人の乗組員を引き入れなければ、あるいは、最初から謀反など起こさなければよかったのである。
得てして、後悔先に立たずであった。
将軍の顔面めがけて、折れた鉄骨が飛んできた。
将軍の意識はそこで完全に途絶えたのであった――。




