第十三話 決戦と決着(前編)
◇◇◇◇
「何故だ!」
軍艦の戦闘指揮所(CIC)では、将軍が頭を抱えていた。
爆発の煙が晴れると、健在なガルーダ号がそこに在った。
「直撃のはずだろう!」
将軍が士官の襟首を掴んだ。
「ま、全くもって、原因不明です」
頭を揺さぶられながら、士官が答える。
「それよりも、大規模な通信障害が……、あっ!」
「どうした?」
士官の閃きに、将軍が食いついた。
「で、電磁パルスです」
士官が恐る恐る言った。
「昔の文献で読んだことがあります。誘導電流を発生させて、信管を誤爆させる防御方法があったとか。おそらく、ミサイルは着弾寸前で起爆したのでしょう」
「くそっ! 遺物のテクノロジーか……」
士官が推測して、将軍が歯噛みする。
この士官の推測は、実に正しかった。
カーリーが言う、ガルーダ号の奥の手である。
直撃に見えた対艦ミサイルは、ガルーダ号に届く寸前で暴発していた。
恐ろしいほど防御に徹したガルーダ号である。
しかしである。
「温いわ!」
将軍の敢闘精神は、衰えを見せない。
この将軍、やはり軍人としてはとても優秀である。
「主砲撃ち方始め!」
将軍が命令する。
「了解! 主砲……って、電磁投射砲のことですか?」
復唱を途中でやめて、士官が確認する。
「そうだ。あれのエネルギーなら、必ず貫ける」
将軍が自信を持って頷く。
「お、お言葉ですが!」
士官が叫ぶように言った。
「電磁投射砲は希少性の高い遺物です。無闇な実射は、海軍規約に抵触します。演習ですら撃った試しがありません。そもそも整備不良で、撃てるかどうかすら分かりかねます!」
「構わん!」
士官の具申を、将軍が切って捨てる。
「一発だけ……。せめて一発だけでも、耐えてくれたらいい」
将軍が祈るように言う。
「ですが――」
「くどい!」
渋る士官を、将軍が一蹴した。
「……了解しました。発射シークエンスを開始します」
士官は渋々命令に従った。
◇◇◇◇
「あれ? えっと、おかしいな……」
「さっきから、何をもたついている?」
まごつく士官を見て、将軍が聞く。
「問題が発生しました」
士官が答える。
「冷却用ヘリウムが漏れています。おそらく、今まで蓄積したダメージが原因でしょう。このままですと、超電導回路が焼き切れる虞があります」
「本当に、最後の一発になるか……」
士官の報告に、将軍が唸った。
電磁投射砲とは、電磁気学的な力――すなわちローレンツ力を使って砲弾を撃ち出す兵器である。
そのためには、大容量コンデンサと超電導技術は欠かせない。
「不審船が迫っています。どうしますか?」
士官が聞く。
「面白い」
将軍の口角が上がった。
「こちらとしても、この一発に賭けるしかない。どうせなら、零距離から叩きこんでやれ。全電力を主砲に回すのだ!」
「了解しました。……主砲、発射準備完了!」
将軍の命令を受けて、いよいよ発射の準備が整った。
ちなみに、この場合で言う零距離射撃とは、至近距離での射撃ではない。
それは本来、接射というべきである。
零距離射撃本来の意味は、砲身の仰角が、対象に対して角度零度での射ち方であって、運動エネルギー依存の電磁投射砲では、最も威力を期待できる撃ち方でもある。
「不審船の上甲板を狙え。撃て!」
将軍が言った。
「了解!」
士官が応えて、発射スイッチを押す。
艦首の主砲が火を噴いた。
巨大なプラズマの火球を伴って、砲弾が音速の十倍の速度で放たれる。
大気が揺れて、海面が割れた。
大したタイムラグもなく、砲弾はガルーダ号に直撃する。
電磁投射砲の弾頭は、非磁性体で出来ていた。
ついでに言えば、信管の付いた榴弾ですらない。
電磁パルスなぞ、何の役にも立たなかった。
ここまでは、全て将軍の読み通りである。
「やったぞ!」
将軍が歓喜する。
ガルーダ号の装甲が、遂に大きく抉られた――。
◇◇◇◇
「……油断しましたね」
揺れるガルーダ号で、カーリーが言った。
「あわわわ……」
ナギに至っては、恐怖のあまり声も出ない。
「まさか、あの程度の艦が電磁投射砲を持っているとは、思いもしませんでした」
ナギを無視して、カーリーが続けた。砲の存在は知っていても、その特殊性までは見抜けなかったのである。
「もうお終いだ。神様……」
両手を合わせて、ナギが天に祈った。
「ああ、せめて最期に美味い物でも食べたかった」
この期に及んで、ガルーダ号での晩餐を思い出すナギである。
「何を仰いますか?」
あくまで悲壮なナギに、カーリーが反応した。
「これしきのことで、ガルーダ号は沈みません。当船のダメージコントロールは完璧です。あの強力な砲弾にしても、防御区画で完全に食い止めました。そもそも、浸水自体が皆無です」
「え?」
カーリーの言葉に、ナギが顔を上げた。
「だが、そなたさっき油断したと――」
「傷を憂いただけです」
ナギの指摘に、カーリーが釈明する。
「損傷は軽微です。当初の予定通り、このまま突入します」
カーリーが自身満々に続けた。
「でもでも、あれを撃ちまくってきたらどうする?」
ナギは不安を払しょくしきれない。これは当然のことである。
「確かに、あれを延々とやられたら、堪ったものではありませんね」
「ああ、やっぱり――」
「ですが」
ナギを遮って、カーリーが続けた。
「そんなことは、ありえません」
あくまでも悲観的なナギを、カーリーが否定する。
「何故分かる?」
ナギが聞く。
「モニターをご覧ください」
「うん?」
カーリーに促され、ナギが正面モニターに目をやった。
有利なはずであった軍艦は、転身を始めていた。
もちろん、主砲――電磁投射砲の追撃はない。
「あれ? どうしたというのだ?」
すっかり及び腰となった軍艦に、ナギが疑問を覚えた。
「もう撃てないのですよ」
カーリーが補足する。
「こんなご時世に、電磁投射砲が残っていた事実には驚きました。ですが、あれの維持には高度な技術が必要です。大きな電力に、超電導その他諸々です。特に超電導に至っては、冷却用のヘリウムが必要です。今時そんな物、何処で手に入るのでしょうね?」




