第十二話 軍艦と巨船(後編)
◇◇◇◇
「武器管制は生きてるか?」
将軍が聞く。
「は、はい。システムオールグリーン。全て使えます」
士官が答えた。
「まずは煙幕を焚け。それから……。よし、この距離だと使えるな。対艦ミサイル発射用意!」
「将軍!」
ナギの存在を無視した命令に、士官が意見した。
その場にいる全員が、固唾を飲んで成り行きを見守っている。
「聞こえんのか? まずは煙幕だ」
念を押すように、将軍が全員に向かって言った。
「……了解」
少し渋った者もいたが、全員が将軍に従った。
濛々(もうもう)とした煙が現れて、軍艦をきれいに覆い尽くした。
ガルーダ号からは、最早その姿を拝むことは出来ない。
「くくく……。そちらの手の内は全てお見通しなのだよ」
将軍がニヤリとほくそ笑む。
「海賊どもには感謝せねばなるまい」
ナギの懸念した通り、将軍は海賊と通じていた。
数少ないガルーダ号の攻撃手段は、全て筒抜けとなっている。
「何がレーザーだ。おまけに体当たりだと? ふん、馬鹿馬鹿しい。そんなチャチで黴の生えた戦法が、この艦に通用すると思うのか? 少しばかり頑丈だか何だか知らんが、この対艦ミサイルを受けては無事では済むまい」
忌々しそうに、将軍が吐き捨てた。
将軍が言うように、対艦ミサイルの威力というものは非常に大きい。
例え装甲艦が相手でも、十分に勝算はある。
そもそもの話、軍艦の装甲は、艦全体を覆っているわけではない。
艦橋を吹き飛ばされれば、それだけで戦闘不能になってしまう。
ましてやガルーダ号は、自称とは言えども客船である。
「おい! 対艦ミサイルの準備は?」
将軍が聞く。
「既にレーダーで捉えています」
士官が答える。
「海の藻屑となるがいい! ミサイル撃て!」
「了解! ミサイル撃て!」
将軍の命令を受け、士官が復唱した。
士官が発射ボタンを押すと、前甲板にある蓋が開いた。
果たして、中から飛び出したのは、対艦ミサイルである。
ミサイルは音と光を伴って、垂直に昇って行った。
「はーはっは! 遺物はお前らの専売特許ではないのだ!」
勝利を確信して、将軍が高らかに笑いを上げた。
◇◇◇◇
少し時間を遡って、今度はガルーダ号である。
「敵も中々やりますね」
自らを煙に包んだ軍艦を見て、カーリーが感心した。
「何のことだ?」
ナギが聞く。
例え煙幕を使われていても、電波妨害はされていない。
レーダーでは、軍艦の姿を十分に捉えられる。
ハイテク機器が満載のガルーダ号に、それが出来ないとは思えない。
「攻撃を許すことになります。おそらくは、対艦ミサイルあたりを使ってくるでしょう」
カーリーの推測である。
「……ああ、あの将軍ならやりかねないな。だが、それと煙幕に何の関係があるのだ?」
同意しつつも、ナギがもう一度聞いた。
「レーザーです」
カーリーが端的に言った。
「いや、そなたさっきレーザーは使えないと――」
「それは、あくまで直接攻撃……失礼、直接照射した場合の話です。ミサイルを、発射間際に撃ち落とすくらいは出来ます」
ナギが指摘しかけるも、カーリーが遮った。
「ですが、それも不可能になりました。煙幕をあんなに焚かれては、エネルギーが減退してしまいます。それに……」
カーリーが途中で言葉を区切る。
「それに?」
ナギが追随するように聞く。
「それに、本船のレーダーとレーザー発振器の連携は、あまりよろしくありません。高速の物体を相手には対応出来ないのです。一度打ち上がって加速してしまえば、もうミサイルを撃ち落とすことは出来ません。おっと! 言ってる間に撃って来ましたね」
カーリーが続けた。
「ど、どうするのだ?」
予想外のピンチに、ナギがうろたえる。
「大丈夫です」
カーリーが自身満々に胸を張る。
「奥の手があります。あ、始まりましたね」
カーリーが言うと、ガルーダ号のブリッジにサイレンが響く。警告用の赤色灯が、明滅を繰り返す。
「そろそろ始まりますよ。ここからがガルーダ号の真骨頂ですよ」
不安がるナギをカーリーが宥めた。
その時である。
船橋がエレベーターのように下がって、船体に収納されていった。
「あれ?」
カーリーの台詞に、ナギはガルーダ号の管制が、独立していることに気付くのであった。
◇◇◇◇
「こ、これは?」
ナギが説明を求めた。
今やガルーダ号の船橋は、船内に埋まっている。
その代わりに、沢山のモニターが天井から降りてきて、外の様子を映し出していた。
「これこそ、本船の攻撃形態……ではなく、防御形態です。最早ミサイルの一発や二発くらい、怖くありません」
カーリーが自慢げに言った。
確かに、ガルーダ号の装甲は折り紙つきの強度である。
それはナギ自身も、海族との戦いで確認済みであった。
唯一の弱点とも言うべき暴露部分である船橋も、今となっては四方を完全に守られている。
カーリーの言葉には、十分な信頼性があった。
「とは言っても、あの艦に搭載されているミサイルは、一発や二発ではないぞ。果たして、波状攻撃に耐えられるのか?」
それでも、ナギは不安を隠しきれない。
敵は生粋の軍艦であり、戦争時の生き残りでもある。
海賊を相手取るのとは勝手が違う。
「ご心配無用です。奥の手があります」
「何だと? 〝奥の手〟とは、そなた今さっき言ったばかりではないか。この妙ちくりんな変形がそうではないのか?」
カーリーの発言に、ナギが追及する。
「さあさあ、言っている間に飛んできましたよ」
ナギを無視して、カーリーが警告した。
「くっ!」
衝撃に備えようと、ナギがコンソールを両手で掴む。
その時、ナギはコンソール上の存在に気が付いた。船長の読んでいた本の山である。
「何だこれは?」
本の表題に、ナギが目を落とす。
そのどれもが、哲学や倫理学、果ては医学や情報学などといった学術書である。
どれもこれも、少年が読むには小難しくて相応しくない。
「来ます!」
「おっと!」
カーリー警告に、ナギが我に返った。
「よーし、来い!」
コンソールに抱きついて、ナギが踏ん張った。
直後である。
大きな衝撃が、ガルーダ号を襲った――。




