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進め!!鬼畜客船ガルーダ号  作者: 橘 正巳
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第十話 再開と脱出(後編)

◇◇◇◇


「ああ」


 戦慄いているナギを見て、カーリーが納得する。


「初めてだったのですね」


 カーリーが確認して、ナギがコクリと頷いた。


「……遂にやってしまった」


 壁に手をついて、ナギが後悔に耽る。


「さ、それはひとまず置いておいて、行きますよ」

「どうすれば、どうすれば父上に顔向けできる……」

「ナギ殿下」

「いや、そもそも、私は天国に行けるのだろうか?」

「ちょっと」

「それにしても、何て嫌な感触だ。銃で撃ったというのに、肉の感触が伝わってきたではないか」

「ナギ殿下!」


 塞ぎ込んでいるナギに、カーリーの叱咤である。


「え? へぶしっ!」


 顔を上げたナギに、カーリーの平手が炸裂した。


「あががが……」


 片頬を押さえ、ナギがうずくまる。


「しっかりして下さい。まだ敵陣のど真ん中なのですよ!」

「あががが……」

貴女あなたの帰りを待つ人がいるでしょう? 後悔は、生きて帰ってからでも、いくらでも出来ます」

「ぐぎぎぎ……」


 カーリーの説教に、ナギは返事を返さない。

 涙目になって、無言を貫くナギである。


「いつまでもふざけていないで……って、おや?」


 喋らないナギに、カーリーはようやく違和感を抱いた。


「ああ、顎が外れていますね。よいしょっと」


 ナギの頬に手をやって、カーリーが顎を戻した。


「くぁwせdrftgyふじこlp!」


 乱暴な施術に、ナギが再び廊下をのた打ち回る。


「さ、これで喋れるでしょう」


 自身満々で、カーリーが言った。


「お、おにょれ、そにゃた、今にみていろ……」


 呂律の回らない声で、ナギが怨嗟を返した。


「何か?」

「いいや! 何も」


 カーリーが聞いて、ナギはそしらぬ顔を決め込んだ。


「そうですか」


 あっさりと引き下がるカーリーであった。



◇◇◇◇


「お手をどうぞ」

「ありがとう」


 カーリーの手を借りて、ナギがおもむろに立ち上がる。


「さっきのお話ですが」

「な、何だ?」


 カーリーの切り出しに、ナギは動揺した。

 ナギの懸念は当然、さっきの恨み節である。


「自分の身を守れない者は、リーダー失格です。その点で、貴女がやったことに間違いはないのですよ」


 カーリーの口から出たのは、慰めの言葉だった。


「ああ、うん……。ありがとう」


 カーリーの台詞に、気分が救われたがナギである。


「さ、今度こそ行きますよ」


 カーリーが言って、ナギを促した。


「……すまなかった」


 船長の亡骸を一瞥して、ナギがボソリと言った。


「何がです?」


 カーリーが聞く。


「私のせいで、船長を死なせてしまった。本当に申し訳ない。どう償えばいいのやら……」

「ああ、そのことですか」


 項垂れるナギを見て、カーリーが納得する。


「心配は無用です」

「いや、そうは言ってもだな」


 存外にあっさりとした態度のカーリーであるが、ナギは殊勝な態度を崩さない。


「いや、でも現にこうしてだな――」

「あ、少々お待ち下さい」


 ナギの言葉を、カーリーが途中で遮ってピタリと動きを止める。


 その合間に、ナギは何となく、船長の亡骸に目を落とした


「あれ?」


 船長の亡骸に、ナギは少し違和感を覚えた。


「……了解しました。只今より、ガルーダ号の全権を移譲します」

「うん?」


 誰に語るわけでもなく言い出したカーリーに、ナギは激しく混乱を覚えた。


「そなた、大丈夫か?」


 カーリーの態度にナギが不安を抱いた。

 その時であった。

 艦が何かに引っ張られ、大きく揺れ始めた。


『お前らぁ!』


 揺れの後に、大きな声が艦内中に響き渡る。


『よくも、せっかく作った身体を壊してくれたな! 絶対に許さんぞ。覚悟しろ!』


 全てのインカムやスピーカーを通して、声は艦内中に轟いた。

 何者かが、通信回線をジャックしている証拠である。


「あ、あの声は……。ええっ?」


 聞き覚えのある声を聞いて、ナギは死体とカーリーを交互に見やった。


「ですから、言ったでしょう」


 得意げに、カーリーがほほ笑んだ。


「では、行きますよ。説明している時間がありません」


 言うや否や、カーリーはナギをヒョイと小脇に抱えた。


 ナギを抱えて、カーリーが廊下を駆け抜ける。

 兵士の死体を通り過ぎた時、ナギがチラリとその階級章を確認した。

 襲撃者の正体は、比較的階級の高い士官であった。


「やはりな」


 得心したとばかりに、ナギが呟いた。


「何がです?」


 ナギを抱えたまま、カーリーが聞く。


「将軍の取り巻きだ」


 ナギが答える。


「どうも、奴の息がかかっているのは、一部の高級士官だけらしい。一般の兵士や下士官は、将軍の叛意自体を知らないようだった」


 道中出会った兵士の話を交えて、ナギが説明した。


「なあ、カーリー」

「何でしょう?」

「出来れば、彼らには手心を加えてほしい」

「……それは、ちょっと難しい注文ですね」


 ナギの温情に、カーリーが難色を示す。


「何故だ? そなたさっき、リーダーの心得を説いてくれたではないか? 私は容赦のない、マキャベリズムというやつは好かんのだ。温情を見せるのも、リーダーの資質であろう?」


 不思議そうな顔で、ナギが食ってかかった。


「いえいえ、そういう意味ではないのです」


 カーリーが渋い顔を作った。


「こっちも、もう随分と殺してしまったのですが――」


 カーリーが前置きをして続ける。


「私たちが出会った戦闘員に、高級士官らしい者はあまり……。それに、殿下が今仰った兵士たちにも、若干の心当たりがですね――」

「ああ、そういうことか」


 皆まで聞くまでもなく、ナギは全てを把握した。

 

 相手がいなくなっては、かける情けもへったくれもない。

 正に〝時すでに遅し〟である。


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