第十話 再開と脱出(前編)
◇◇◇◇
一方で、散々死体の山を築いた船長とカーリーである。
最早この時点で、兵士たちの攻勢は衰えていた。
「来ないね?」
「どうしたのでしょう?」
二人は兵士たちの反応を訝っていた。
これは人的損耗を憂慮した指揮官の英断などではない。
単純に、戦闘員が減ったからである。
「それにしても……」
船長が切り出した。
「見つからないね」
「そうですね」
船長の意見に、カーリーが同意した。
「そろそろ、諦めてはいかがでしょう? 今でしたら、我々だけなら逃げ切ることができます」
カーリーが脱出を持ちかける。
「うーん、そうだね……」
一瞬、考える船長であった。
「いや、もう少しだけ捜してみよう。僕もなんだか、人間の矜持という物が分かってきた気がする」
船長が考えを改める。
「そうですか。分かりました。では、今しばらくお付き合いしましょう」
カーリーが言って、船長の先を行こうとした。
その時である。
廊下の曲がり角から、人影が飛び出した。
「おっと!」
今までの要領で、カーリーがその喉元を掴んで持ち上げる。
「ぐえぇ……」
哀れな被害者が、苦悶の声を上げて足をばたつかせた。
カーリーがそっ首をへし折ろうと、腕に力を入れた時である。
「おや?」
もう少しで絞め殺すところで、カーリーは被害者の正体に気が付いた。
他ならない、尋ね人のナギであった。
頸動脈を絞められて、ナギの顔がどす黒く変色していく。
「ギブギブ……!」
薄れゆく意識の中、ナギが最後の力を振り絞って、カーリーの腕にタップを繰り返す。
「おや、これは失敬」
カーリーが腕の力を抜いた。
ナギが背中から落下する。
「くぁwせdrftgyふじこlp!」
背中を打ち付けて、ナギが床をのた打ち回った。
「船長」
カーリーが船長に向き直る。
「見つけました」
「うん、よかったよかった」
カーリーの呑気な報告に、船長も呑気に返した。
(な、何か、こんなこと前にもあったような……)
床を転げまわりながら、ナギは既視感を感じていた。
◇◇◇◇
「お久しぶり」
「これはナギ殿下、ご無事で何よりでした」
「ゲホッゲホッ!」
三人の再会は、比較的激しい形で叶った。
だがしかし、もう随分と時間が経っている。
ガルーダ号で見せた、ナギの方向音痴っぷりがここでも発揮されていた。
「ゲホッ! ま、全く……。何が『よかった』だ!」
咽かえりながら、ナギが抗議する。
「ハァハァ……。貴殿ら、もっとよく相手を確認してからだな……って、ななな、何だその格好は!」
恨みがましくカーリーを見上げて、ナギは腰を抜かしかけた。
硝煙弾雨を、文字通り肉弾戦で潜り抜けたカーリーである。
服はもちろんのこと、皮膚は破けて内部が露出していた。
「あわわ……」
「何か?」
口をパクパクさせるナギを尻目に、カーリーが聞く。
「多分、君の傷を慮ってるんだよ」
横から船長が口を挟んだ。
「ああ、そういうことでしたか」
カーリーが納得する。
「ご心配痛み入ります。ナギ殿下」
恭しく頭を下げて、カーリーが礼を言った。
「ですが、ご安心下さい」
カーリーが続ける。
「私にとってはこの程度の傷、大した問題ではありません。全て自己修復の範囲内です。一両日も頂ければ、皮膚も完全に再生しましょう」
自らの機能を自身満々に語るカーリーであったが、ナギが驚愕する理由は別の点にあった。
ここに来るまで、カーリーは無手で敵を殺してきた。
そんなカーリーは、体のあちこちを血と肉片で染めている。
「……ああ、うん。それは何よりだな」
認識のズレを指摘せず、ナギがカーリーを労った。
その直後である。
「危ない!」
船長がナギを突き飛ばした。
「何をする!」
ナギが尻もちをついた瞬間である。
銃声が響いて、船長の頭が弾け飛んだ。
◇◇◇◇
顎から上を失くして、船長が床に倒れ込んだ。
即死である。
「は……?」
事態の急展開に、ナギは着いていけない。
「銃撃? 一体どこから?」
ナギが周囲を見渡すと、一人の兵士が銃を構えていた。銃口からは、まだ煙が昇っていた。
「き、貴様! 突然何をするか!」
状況を把握して、ナギが声を張り上げる。
しかし、兵士は冷静にナギに銃口を向けた。
「なっ!」
容赦なく敵意を向ける兵士に、ナギはひどく驚いた。
「おっと」
兵士とナギの間に、カーリーが素早く割り込んだ。
兵士が引き金を引いた。
連続したけたたましい発射音が鳴り響いた。
カーリーが涼しい顔のまま、全ての弾を体で受け切っている。
程なくして弾が尽き、銃声が鳴り止んだ。
「ちっ!」
舌打ちして、兵士が弾倉を換えようとする。
「隙ありです」
カーリーが兵士に飛びかかろうとした。
直後、カーリーの背後で乾いた音が鳴った。
「ぐふっ!」
額に穴を開けて、兵士が倒れ伏す。
「おや?」
カーリーが背後を振り向くと、ナギが拳銃を握っていた。
跳び出した空薬莢が、音を立てて廊下を転がる。
「お見事です」
「……」
カーリーが褒めるも、ナギの反応は芳しくない。
「あ、あああ……」
動揺を隠せず、ナギは拳銃を取り落とす。
「どうされました?」
ただならないナギの様子を見て、カーリーが聞く。
「私――」
ナギが言って、言葉に詰まる。
「ひ、人を殺してしまった!」




