表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
進め!!鬼畜客船ガルーダ号  作者: 橘 正巳
15/30

第八話 疑惑と将軍(後編)

◇◇◇◇


 将軍と儀仗兵にに連れられて、ナギが部屋へ案内された。

 軍艦の中にも関わらず、奢侈な調度品が沢山置かれており、持ち主の趣味を物語っていた。


「ささ、どうぞ」


 将軍に招かれて、ナギが部屋へと足を踏み入れる。

 ナギに遅れて、将軍もナギに続いた。



「閣下、実は――」

「そうか」


 儀仗兵から耳打ちされて、将軍がほくそ笑む。

 将軍はそのまま、素早く部屋を施錠する。


「な、何を――」

「どうですかな? 私の部屋は」


 ナギが詰問する間もなく、将軍が自慢を始めた。


「い、いい趣味に見えますが、私の好みではありません」


 言葉に嫌味を込めて、ナギが答えた。


「おやおや」


 つれない態度のナギを見て、将軍が冷やかすように言う。


「よろしいのですかな? いつまでもそのような態度をとって」

「どういう意味です?」


 将軍の挑発的な物言いに、ナギが食いつく。


「もっと殊勝になって、私に庇護を求めなさい。そうすれば、命だけは勘弁して差し上げます」

「なにっ!」


 圧倒的な上からの物言いに、ナギの血圧が上昇する。


「ききき、貴様! 無礼なるぞ!」


 最早形式上の敬語も忘れたナギである。


「……ひょっとして、ご存じない?」


 ナギの態度を見て、将軍が怪訝な態度を取った。


「何のことだ?」


 聞き返すナギ。


「あははは! これは傑作だ!」


 将軍が大笑いする。


「だから、何のことだ?」


 意味が分からず、再度ナギが問いただす。


「貴女のお国はですね、とっくの昔に潰れたのですよ」

「――っ!」


 将軍の答えに、ナギは言葉を失った。


「う、嘘だ嘘だ!」


 しばらく茫然としていたナギだったが、我に返って必死に否定する。


「そんな簡単に、我が軍が敗れるものか! そもそも、こちらが優勢だったではないか! あり得ん!」


 ナギが叫ぶように言う。


「それがあるのですよ」


 きっぱりと、将軍がナギを否定する。


「貴女を失ったと思って、わが軍の士気は崩れに崩れたのです」


 将軍の言葉を聞いて、ナギは近衛隊との別れを思い出した。

 責任感が強く、誰にでも丁寧に接するおかげで、昔から人望のあるナギである。

 軍人としては今ひとつ頼りないものの、分を弁えてしゃしゃり出ないナギの評判は高い。

 王族の存在意義を、ナギは今の今まで忘れていたのである。


「うっ……」


 将軍の台詞に信憑性を感じて、ナギは言葉に詰まった。


「それに、もうご存じなのでしょう? 私が反乱軍と通じていたことを。そして、そんな私にこの艦が与えられたのです。政府軍などちょろいものでした」

「……」


 将軍の言葉に、ナギは何も言い返せない。


「さっき儀仗兵から聞いたのですが、あのガルーダ号という船も、こちらが完全に制圧しました。あれ、遺物でしょう? まったく、とんだ儲け物ですよ。例の二人の船員も、独房に閉じ込めております。最早、貴女様の後ろ盾はございますまい。ですが、私にその身を捧げるのでしたら、処遇は考えてさしあげます」


 下卑た笑みを浮かべながら、将軍がナギににじり寄る。

 身を守ろうと、咄嗟に儀礼刀を抜こうとしたナギである。

 だがしかし、その手は空を掴んでしまう。

 ナギは今になって、カーリーの所業を思い出した。


「やめろ! 私に近づくな! うわっ!」


 ささやかな抵抗も虚しく、ナギは将軍に押し倒されてしまった。


「この変態! ロリコン! ギャーッ!」


 いつぞやの食堂での抗議も忘れて、ナギが将軍を罵倒する。

 その直後である。部屋の外が「ワーワー」と騒がしくなった。


「閣下!」


 ノックもせず、士官が一人飛び込んできた。


「何だ貴様! 今取り込み中だ!」

「それどころではありません!」


 将軍が怒鳴りつけるも、士官は怯まない。


「敵襲です!」

「はあっ?」


 士官の報告に、将軍が素っ頓狂な声を上げた。



◇◇◇◇


 少し時間を遡って、ここは艦内の別室である。比較的大部屋のそこには、机がいくつも並べられていた。奥には厨房が見えた。所謂、艦内食堂である。


「なあ、あいつらどうなるんだ?」


 今その艦内食堂で、兵士が同僚に話を振った。


「あいつらって?」


 煙草を吸いながら、同僚が聞き返す。


「ほら、今日捕まえた二人だよ」

「ああ、あいつらか」


 兵士の説明に、同僚が納得した。


「おかしな話だよな。ちょっと変な形の船だけど、武装も無いたかが民間船だぜ? それに、乗ってるのは女と子供ときた」

「そうだな」


 好奇心に満ちた兵士の主張に、同僚も煙を吐きながら同意した。


「第一、あの二人って殿下の恩人なんだろ? 最初は将軍も『お客人』とか言ってたしよ。そのくせ、急に態度を変えたりしてさ。わざわざ拘束する理由が、どこにあるんだ?」


 兵士が同僚に聞く。


「俺が知るかよ」


 同僚が面倒臭そうに答えた。


「何だよ、つれないな……」


 兵士が悲しそうに言った。


「……あ、あれじゃね?」


 バツが悪くなって、同僚が煙草を消しながら言った。


「実はあの船が遺物でさ、それを将軍が、ポッケにナイナイしようとしてんじゃね?」

「まさか」


 同僚の推理を、兵士が笑い飛ばす。


「だよなー」


 同僚も兵士と一緒に笑い始めた。


「じゃあさ、じゃあさ」


 今度は兵士の方から話を振った。


「知らず知らずの内によ、実は俺たち、将軍の陰謀に加担させられてる――とかってどうよ?」

「どういうことだ?」


 兵士の珍説に、同僚が聞き返す。


「例えばさ、ナギ殿下捜索の任務は実は単なる口実で、将軍の正体は反乱軍のスパイとか……」

「それこそ、まさかだろ」


 兵士の推理を、今度は同僚が笑い飛ばした。


「分からないぜ」


 兵士が面白おかしそうに続ける。

 同僚が新しい煙草を取りだした。


「何せ、この艦は最強なんだろ? もともと将軍には悪い噂があったんだ。士官連中も、何だか最近おかしいしよ。殿下を手土産にしたら、敵に下るのなんて簡単なんじゃねーの?」

「……やめろよ、気持ち悪い。クソッ! このライター、いい加減換え時か?」


 兵士の話に薄ら寒い物を感じて、同僚が煙草に火を付ける。しかし、ライターは火花を散らすだけである。


「そうだな……。もうこの話はなしにするわ。あ、俺にも一本くれ」


 兵士が話を打ち切って、同僚に煙草をねだった。


「はいよ」


 同僚が煙草を渡した時、艦内に甲高い金属音が響いた。


「な、何だ?」

「どうしたどうした!」


 二人が立ち上がった時、食堂に別の兵士が飛び込んできた。


「大変だ!」


 別の兵士が言った。


「何があった?」


 同僚が聞く。


「敵襲だ!」

「何だって?」

「一体どこから?」


 別の兵士が言うと、二人が聞いた。


「それが、もう艦内にいるらしい」


 別の兵士の報告に、二人は唖然とした。しかしすぐに立ち直り、二人揃って食堂をさっさと後にする。


 ちなみに、この二人の推理は至極的を射ていたのであるが、彼らが真相を知ることは終ぞ叶わなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=196140973&s ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ