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9:拠点作りと温泉

 腹がいっぱいになったので、俺とゴブリンはテントを張って寝床を作ることにした。夜遅くなってから準備するのは大変だからな……。

 魔王城の裏庭はかなり広く、中央に一本の大樹がある。

 そこの前ならば、大樹の枝にロープを結んだりして上部に作ることができるだろう。


「よし、ゴブリン手伝って――って、手が届かないか」

『あう……』


 ゴブリンは俺の腰くらいしか背の高さがなく、テントを張るのは難しそうだった。まぁ、ここは俺が一人でやればいいか。


「ゴブリンは、薬草の話し相手になってやっててくれよ」

『え?』

「薬草はずっと話し相手がいなかったらしいから、会話に飢えてるんだ」


 頼むよと言うと、少し戸惑いながらもゴブリンは快諾してくれた。

 すぐに薬草の下へ駆けて行き、座り込んで何かを話し始めた。遠くから見たら不思議な光景ではあるが……二人が楽しそうなので問題はないだろう。




 ◇ ◇ ◇



「これは……やりすぎたかと思ったけど、かなりいいできかもしれない」


 俺はごくりと唾を飲み込み、眼前にできあがったお風呂を見る。

 とはいっても、周りを石で固めるという雑な作りにはなっているが……それが逆に味を出していたりする。


 テントを張り終わった俺は、魔王城の裏庭に流れる小川の水を溜めておく場所を作ろうと穴を掘った。結果、なぜか温泉が湧き出た。

 かなりびっくりしたけれど、嬉しいので問題はない。

 川の水とまざったら意味がないので、急いで石で囲いを作って――ドキッ! 魔王城の裏庭で露天風呂が完成した次第だ。

 脱衣所はテントの中にすれば問題ないし、こんなところまで来る人間もいないからいいだろう。……魔物は、性別があるのかすらよくわからない。気にしない。でもたぶんある。


『うわぁ、すごい……! ねぇねぇコーキ、私を温泉の近くに植えて~!』

「えっ? 別にいいけど、大丈夫なのかそれは……」


 温泉の湯加減を調整していると、薬草が興味津々といった様子で話しかけてきた。草木は水で育てるものだとばかり思っていたので、薬草の言葉には驚きだ。

 とはいえ、別に拒否する理由はない。俺は薬草を掘り返して、温泉のすぐ横へと植え替えた。


「ここらでいいか?」

『うん、ありがと!』


 にこーっと笑っているように見える薬草は、『ここはポカポカして心地いい』とご機嫌だ。どうやらお湯の近くであることに関しては問題ないらしい。


「とりあえずゴブリン、入るぞ」

『え?』

「温泉だよ、温泉~! その汚れを綺麗に落とせ!」


 じゃないとテントの中で寝かせません!!


「俺も入るし、天然温泉だからきっと気持ちいいぞ」

『は、はい……』


 ぱっと服を抜いて、俺は温泉へとつかる。

 疲れていたからなのか、お湯の温かさが体に染み渡る。気持ちいい。


『…………わっ、あったかい!』

「気持ちいいだろー」

『はいっ!!』


 先ほどハヤシライスを食べたときのように、ゴブリンの目がキラキラしている。森の中に住む魔物じゃ、普段から風呂という概念自体なさそうだからな。


 アイテムボックスから石鹸とスポンジを取り出して、ゴブリンに渡す。


『?』

「それで体を洗うんだ。ほら、こうやって……」


 俺は石鹸でスポンジを擦り、泡立たせて見せる。そのまま体を洗っていき、ゴブリンに使い方を教えてやる。


『あ、ありがとうございます……やってみます』

「おう」


 ゴブリンは恐る恐る石鹸を擦り、スポンジを泡立たせていった。

 膨れていく泡を不思議そうに見つめながら、それで体を洗っていく。ゴブリンの小さな体はすぐ泡に覆われて、『すごい!』とはしゃいでいる。


 さすがに一度では完全に綺麗にならなかったので、ゴブリンには汚れが落ちるまで洗うといいと教える。素直に体を繰り返し洗ったゴブリンは、ピカピカになった。


『はわわ、すごい、これが自分……!』


 鏡がなく全身を見ることができないので、ゴブリンは洗った自分の手足などを見て感動している。


『温泉、すごいです』

「だろう~! これからは毎日入るからな」

『幸せ……!』


 ゴブリンが神を見つめるかのように俺を見るけれど、ゴブリンが大好きだった魔王を倒した勇者なのでそんな目では見ないでほしい……。


「よし、長時間つかってるとのぼせるから上がるか。ゴブリンはこのタオルで体を拭いて、とりあえずこれを着てくれ」

『わかりました』


 俺がタオルと服を渡すと、ゴブリンは素直に従ってくれた。

 さすがにゴブリンサイズの服はもっていなかったので、渡したのはサイズ調整をしてくれる特殊装備だ。物理・魔法ともに防御力が非常に高く、精神魔法系の耐性もついている貴重なものだ。たぶん売ったら黒金貨で最低でも100枚だ。

 とはいえ、別にお金に困っているわけではないので問題ない。

 ほら、薬草の話し相手であるゴブリンがほかの冒険者にやられるといけないからな。


「っと、寝るにはちょっと早いか……」

『そうですか? 自分はもう眠いです』

「じゃあ、先に寝ててくれ。テントの中は、好きに使っていいから」

『わかりました。ありがとうございます』


 とは言ってみるが、テントの中にはまだ何もない。寝袋と、床が固いのでラグを敷いてあるくらいだろうか。

 ゴブリンがテントに入っていくのを見送って、俺はまだ試していなかった特殊調合をしてみることにした。

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