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7:新しい拠点とハヤシライス

『おお、これが魔王城……! すごい、立派ですけど……ボロボロですね?』

「あ、うん、その……いろいろあったらしいよ」


 まさか俺たちが魔王討伐したときに半壊させました――なんて、そんな。


『でも、そのおかげで日当たりがよいですね!』


 嬉しいことですと、薬草が声を弾ませる。


 俺と薬草はもう一回の転移をして、拠点にしようと思っていた魔王城のへとやってきた。ボロボロの城は放置されていて、住んでいいたはずの魔物たちは見当たらない。

 城を捨てて、どこかに行った……? でも、どこに? そんな考えが脳裏に浮かぶけれど、残念ながら魔物が考えていることなんてわからない。


「とりあえず、魔王城の裏庭に行ってみるか」

『はい!』


 薬草は根っこから掘り起こし、土と一緒に麻袋へ入れて手に持っている。

 喋るとほんの少しだけ葉が揺れるので、見ているとちょっと楽しい。近くで音を立てると動く植物のおもちゃみたいだ。


 崩れ落ちた城の破片に気を付けながら裏へ回ると、かなり広いスペースの裏庭になっていた。自給自足をしていたのか、畑があってその横には川が流れている。

 ……なんというか、スローライフにうってつけだ。


「畑には、ニンジン、ジャガイモ、トマト、レタス……結構いろんな種類があるな」

『どの子も美味しそうですねぇ』

「ああ……」


 薬草も野菜食べるの?

 若干共食いじゃないかと思いつつ、俺はそっと気にしないことにした。だって薬草だし、口もないしね……。


『ここを拠点にするんですか? ええと、そういえば名前を聞いていませんでした!』

「俺はコーキだ。お前は名前あるのか?」

『コーキ! よし、覚えましたよぉ!! やだなぁ、たかが薬草に名前があるわけないじゃないですかー!』


 ケラケラと笑うように喋る薬草が、『拠点にするなら植えてください!』と俺に頼み込んでくる。

 とはいえ、拠点にするならこの辺りを散策してからだ。


「もう少し様子を見てからだな。ちょっとこの辺を見てくるけど、薬草も一緒にくるか?」

『いえ、私はお日様の光を浴びてまってます!』

「わかった」


 薬草の言葉に頷いて、俺は日当たりがよさそうなところに埋めてやる。野菜の隣だけど。

 穴を掘って土をかぶせるだけの簡単なお仕事だ。


『ああっ! 土はもっと優しくかけてくださいっ!!』

「えっ、あっ、ご、ごめん……」


 葉っぱにかかった土は払ってくださいねと言われ、その通りにする。

 薬草って結構デリケートだったんだな。もしかしたら、ポーションの品質にも関わるかもしれないから、これから材料は丁寧に扱おう。




 ◇ ◇ ◇



 魔王城から、だいたい二キロメートル圏内。

 何があるのかを見て回る。川と畑が都合よくあったので、薬術で使えそうな薬草などが生えていないかとか、キノコや果物があればいいなときょろきょろする。

 ちなみに、毒キノコかどうかは鑑定すればわかるので問題ない。


「まあ、もし食べても毒耐性スキルがあるから大丈夫だろ」


 問題ない。


「でも、問題と言えば……魔物が全然姿を見せないことか」


 人間がいたら、普通は襲ってくるもんなんだけどな。


「索敵スキルにはひっかかるから、魔物はいるんだよな。弱い、スライムとかゴブリンとか……」


 なんで出てこないんだろうと首を傾げつつ、魔王がいなくなった影響かもしれないなと軽く考える。

 とりあえずわかることは、この辺り一帯が平和であるということだ。のんびりポーションを作りながら暮らすのであれば、かなりいい。


「それに……果物もなってるしな」


 木を見上げれば、林檎のような赤い果物。

 鑑定で食べられることを確認して、それを持ち帰るため何個かアイテムボックスへと入れる。薬草もちらほら生えているけれど、これは拠点を作ってから交渉術スキルを使って素材をもらえばいい。


「うん、いいな魔王城の裏庭!」


 拠点はここで決定だ!

 よしよし、勇者から転職して……かなりいい出だしじゃないだろうかとにんまりする。とりあえず薬草の待っている裏庭へ戻ろうとすると、ぐううぅと俺のお腹が鳴った。


「……もういい時間か」


 腹が減った。

 裏庭に戻る前に何か食べてしまおう。


 俺は大き目の岩に腰かけて、何か食べられるものはないかとアイテムボックスの中を見る。

 容量制限がなく、時間も止まっているためいろいろなものが入れられていてある意味樹海だ。……そういえば、ダンジョンに潜ったとき時間がなくて宝箱をそのまま入れたりもしたっけ。


「そういや、パーティメンバーで分けてなかった……」


 ……まぁ、いいか。

 俺はいつ手に入れたのかもうろ覚えな宝箱をアイテムボックスから取り出し、膝の上に載せる。


 この世界の宝箱は、それはもう多種多様にいろいろなものが入っている。

 お金という定番なものに、装備やアイテム。絵画などの芸術品ということもあれば、食材、魔物……なんていうものまである。


「でも、一番ドキドキするのは……日本製品!」


 そう、この世界の宝箱にはなぜか日本製品が入っていることがある。本当に極稀にだけど。

 以前コーラが入っていたときなんて、ほかのアイテムすべてをメンバーに差し出してコーラを堪能したほどだ。だってジャンクフードは恋しくなるもんなんだよ……。


 なので、宝箱を開ける瞬間はいろいろな意味でドキドキするのだ。


「よし、オープンっ!」


 ぱかーっと、俺は宝箱を開けた。


「どうか日本製品……って、キタ!」


 宝箱の中には、日本でよく見たパッケージの箱が鎮座していた。


「ハヤシライスのルーじゃん!」


 よっしゃあと思わずガッツポーズをして、これを今から作ってご飯にするしかないと確信した。

 幸いなことに、鍋はアイテムボックスに入っている。

 肉は……殺した魔物が入ってるから、それでいいか。

 野菜は……そうだ、拠点の畑から収穫すればいい!


「バッチリだ。あとはキノコがあれば最高……お、あった」


 丁度よく、木の根元からキノコが生えているのを発見することができた。それを何個かもいで、鑑定で毒がないことを確認する。

 幸先がいいと思いながら、俺は一刻も早くハヤシライスを堪能するため拠点へ転移した。



『あ、コーキ! おかえりなさいー』

「ただいま。今からご飯作るんだけど……薬草って食べるの?」

『私は太陽の光で十分』

「ん、わかった」


 食べると言われたら……なんてドキドキしたけれど、やっぱり薬草は薬草だった。


『あ、でも水はほしいかな?』

「そうだった」


 植物といったら水やりだということを、薬草に言われるまで失念していた。畑の横にある川から水を汲んで、薬草にかけてあげた。


『ありがと! これで成長できそう~!』

「そっか、よかったな」


 俺はハヤシライスの準備をするために、畑からタマネギを一つ収穫する。それから、さっき見つけたキノコ。


「ハヤシライスは材料が少ないから、手軽でいいよな」


 川で洗い、俺はタマネギとキノコを空中にほおり投げる。

 アニメを見て、人生で一度くらいはやってみたいと思っていた大技だ……!


 宙に舞った野菜が落ちてくるのを見計らって、俺は腰に差していた剣を一気に引き抜く。そのまま野菜をきざむように切り付ける……っ!

 シュシュシュッ! そして空中で綺麗に切られた野菜たちが――――地面に落ちた。


「…………」

『…………えっと』

「何も言わなくていいですから」

『……はい』


 もう一度、野菜を川で洗う。

 それからアイテムボックスに保管していた魔物の肉を適当に切って、鍋に入れて炒める。ちなみに、薪を集めて魔法で火をつけた。

 ちょっとキャンプっぽくて楽しい。


『えっ、それ食べるんです?』

「大丈夫、見た感じは牛っぽいし」


 ミノタウロスだし、平気平気。

 調べてないから知らないけど、結構強い部類の魔物だったから高級食材という可能性もワンチャンある。今度街に行ったら調べてみよう。

 もし美味くて稀少で手に入らなくても、俺なら自分で狩に行けばいいだけだし。


 肉に色が付いたら、今度はタマネギとキノコを投入する。しんなりするまで炒めて、今度は水を入れて沸騰させアクを取る。

 計量カップがないから、正確な分量はてきとーだ。


「んでルーを入れて、ハヤシライスの完成!」


 じゃっじゃーん!

 めっちゃ美味そう。ルーは半分取ってあるから、また食べられると思うとテンションが上がる。今度は最高級の食材を手に入れて、至高のハヤシライスを作るのもいいかもしれないな。


 そんなことを思っていると、しげみががさっと揺れた。


「? ……魔物!」


 さっきまで森をうろうろしていたときは一向に姿を見せなかったのに、どうして今になって? ひょっこり顔を見せたゴブリンに、俺は首を傾げる。


 ……とりあえず、倒せばいいか?


 火の魔法で死体も残さず焼いてしまおうとした瞬間、ぐうううぅぅぅという音が辺りにこだました。


「……えっ?」

『え?』


 それは恥ずかしそうに顔を赤くさせる、ゴブリンのお腹の音だった。

感想ありがとうございます!

草をナチュラルに受け入れられてほんと草です嬉しいです。

あ、違う薬草です!!!

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