6:薬術スキル交渉
宿屋を後にした俺は、さっそく日用品を買うことにした。
とりあえず、最低限のテントや寝袋を買っておこう。ベッドなどもほしいけど、それは拠点の状況を見ておいおいでもいいかな。
道具屋に入ると、「いらっしゃい」というおっちゃんの野太い声が耳に入る。
それと同時に、視界に売っているポーションが飛び込んできた。
見た目は、俺の作ったポーションと同じだ。入れている瓶も同じものだから、きっと薬術師ギルドで用意されたものなんだということがわかる。
あ、そうか……瓶も必要なのか。
支給された材料や道具は、消耗品以外使い切っちゃったからな。
「ども。ええと、テントと寝袋、あと簡単な食器類がほしいんだ。それから瓶!」
「瓶?」
「あっと、ポーションを入れるやつなんだけど……あります?」
「ああ、回復薬の瓶な、あるぞ」
おっちゃんの言葉にほっとして、用意してもらっている間に店内を見る。
何かいいものがあれば購入しようと思っていると、ふといろいろな種類の粉末になった薬草が目に入る。……なるほど、これを買えば天日干しにしてすり潰すっていう面倒な工程を省くことができるのか。さすが商売。
俺はスキルを取得したからいらないもんね。
でも、そう考えると……これが売ってるくらいだからスキルの取得はなかなか難しいのかもしれない。
「粉末状の薬草も必要か?」
「いや、俺はスキルがあるから大丈夫」
「へぇ、若いのにもう調合スキルがあるのか。たいしたもんだな」
「?」
結構簡単に取得できるのかと思ってたんだけど……そうでもないのかな? まあ、ほかに薬術師の知り合いもいないし俺には関係ないけど。
「昨日、ね」
「そうか。もし今後委託販売するなら、俺のところにも相談にきてくれよな」
「ああ、ありがとう」
そう言いながら、おっちゃんはお祝いにサービスだと、ポーション瓶を少し多めに入れてくれた。
◇ ◇ ◇
「買い物も終わったし、食料も適当に買ったし、次は拠点だ。魔王城までは……距離が長いから、転移一回じゃ無理か」
とりあえず転移をして、俺は深い森の中へ。
木々の色はダークグリーンと、いかにもラスボスがいる……という雰囲気をかもしあ
「ここが俺の転移できる街と魔王城の中間地点か……ふむぅ」
魔王城は、森と山に囲まれた中心にある。
周囲は魔物がいるけれど、強くはない。それだと駆け出しの冒険者が迷い込んでしまいそうだと思うが――実は、瘴気が濃い。
耐性があるか、瘴気を防ぐアイテムがないと奥まで入ってくることはできない。
ちなみに、俺は耐性がある。
「とりあえず、あと一回転移して魔王城に――ん?」
ぐっと伸びをして再び転移しようとしたところで、視界に薬草が見えた。
道具屋で少し購入をしたけれど、たくさんあって困ることはない。ラッキーと思い、俺は薬草の前にしゃがみ込む。摘もうと手を伸ばしたところで……俺の耳に突然声が届く。
『勝手に摘まないで!』
「え?」
誰かが管理している薬草だったろうかと、俺は立ち上がって辺りを見渡す。でも、どこにも人はいないし、俺の気配察知はスキルレベルもマックスだから……気付かないわけがない。
「はっ、もしかしてこの森で自殺したひとの地縛霊……!?」
何それ怖い逃げたい。
「よし、逃げよう。地縛霊に取りつかれたくない」
『ここですよ~! 足元!!』
「え?」
すぐに転移だ! そう思ったら、今度は足元から声が。思わず素直に足元を見ると、俺が摘もうとしていた薬草に、雑草に、地面……。
「?」
誰もいないぞ?
それとも、ミジンコサイズの魔物がしゃべっているのだろうか。地縛霊は嫌だけど、魔物だったら倒せると思う。
『ここです、薬草ですよ~』
「は?」
薬草?
俺は何度か瞬きをして、薬草を見た。でも、薬草って草でしょ? 喋らないよね? ドッキリかな?
「えっと……」
『高名な薬術師さんですよね? 交渉スキルをもっていますよね?』
「あ、それは持ってる」
でも、交渉術のスキルとこの声になんの関係があるんだ?
『ご存じではないのですね……。確かに、このスキルは取得している人が少ないと聞いたような気がします』
「はぁ、そうですか……」
とりあえずスキルは、ご存知じゃないです。
『このスキルは、私たち薬草と交渉するためのスキルです。私たち薬草があなたに望みを叶えてもらう代わりに、調合に必要な部位をお渡しするのです』
「えっ!」
『交渉をせずに薬草を摘むと、品質が下がります」
「そう、だったんですね……」
そんな事実があるなんて、知らなかった。
つまりこの声は、俺が交渉術スキルで聞くことのできる薬草の声っていうことか……。まったくそんな予想をしていなかったので、内心びくびくしてしまう。
そういえば、道具屋の薬草もそんなに質のいいものはなかったな。
「ええと、つまり……俺が君の願いを叶えたら、高品質の薬草をくれるっていうこと?」
『そうです! ただ、丸ごと全部あげてしまうと……それは死と同じになってしまいますので、適度にしていただきますが』
「あ、うん」
さすがに話しかけてくる薬草を殺すなんて酷いことはできないよ……。
俺はこくこくと頷いて、交渉術スキルを使ってみることにした。
「俺は駆け出しの、昨日薬術師になったばかりの人間だけど……交渉できるの?」
『はい、もちろんです!』
「そっか。……なら、君の願いを叶えさせてよ」
高品質の薬草を手に入れるためならば、俺が男を見せなければ。
ゲームはやり込むタイプなので、こういった特殊な素材であれば燃えるのはしかり。
『本当? なら、私の話し相手になって! この近くは、ほかに薬草がないから寂しくてつまらなかったの!』
「え? あ、うん……」
言われた言葉を聞き、辺りの地面を見てみるが――確かに、これ以外の薬草は見当たらない。
深い魔物もいる森に一人が寂しいというのは、よくわかる。
でもさ、今少し喋って薬草貰ってお別れ……っていうのは、寂しいと聞いたに実行するのはクズじゃないだろうか。
俺はどうしようか考え、しかし自分も一人だったなと思い返す。
「なら、俺と一緒に……くるか?」
『行く!』
一人だった俺に、仲間ができました!
ただし薬草。