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4:回復薬を作ってみた

 薬術師ギルドを後にして、まずは……今日の宿屋を探さなければ。

 違う街に行くのもありだけど、せっかくハルルさんがよくしてくれたし……。もし上手くポーションを作れなければ、相談しようと思っている。


「とりあえず、近場の宿屋がいいかな」


 正直に言えば高級宿がいいけど、そういうところは俺の顔を知っている人も多く情報がもれやすかったりする。逆にボロの安宿に泊まった方が、設備や治安を我慢すれば身バレはしないと踏んでいる。

 俺を知る人間がいる場所といない場所なら、後者を選ぶ。


「となると街の郊外が――って、ここが街の郊外か」


 薬術師ギルド、ちょっと不遇すぎだろう。

 俺は苦笑しながら、小さな路地を覗いて宿がないか探す。すぐにポーションを作って、街を出るなりなんなりするから一泊くらいは我慢しよう。


 二本目の路地を覗いたところで、古びた宿を見つける。

 木でできており、隙間風が酷そうだな……というのが第一印象。でも、ここらな王族やら貴族やら、命令されて俺を捜すであろう騎士がくることもないだろう。

 なんてったって俺は、不自由をするくらいなら金を払って快適に過ごしたいタイプだからな。魔王討伐のパーティーでもそのスタイルを崩さなかったため、誰も俺がこんな場所にいるとは思わないはずだ。


 きしむ木のドアを押して、俺は宿の中へと入った。

 中にはすぐカウンターがあり、奥の方からは料理の匂いがただよってくる。受付の女の子は、髪をポニーテールにして小綺麗にしていた。

 思ってたより、掃除なども行き届いていてほっと安心する。


「いらっしゃいませ! 宿泊? それとも定食?」

「宿泊で」

「はーい! 一泊、銀貨一枚だよ」

「一泊で」


 宿泊料の安さに思わず動揺しそうになるが、表情を崩さずに財布から銀貨を一枚受付の子に渡す。


「部屋は二階の一番奥を使ってくださいね、ごゆっくり~」

「あっ、はい……」


 えっ鍵は? そう言おうとしたけれど――千円の宿に鍵を期待してはいけないのだと、無理やり納得して部屋へと向かった。




 ◇ ◇ ◇



 用意された部屋は、窓はあるけど北向きの薄暗いところだった。

 掃除はきちんとなされていて、寝に帰るだけならば別段不便はなさそう。


「よし、とりあえずポーションを作るか」


 まずは支給されたアイテムの確認だ。

 俺は鑑定スキルがあるから、状態などの確認はできてほかの薬術師よりもちょっと有利かもしれない。鼻歌をうたいながら、袋からアイテムをすべて取り出した。


 ・薬草(品質:ちょっと悪い)

 ・体力草(品質:ちょっと悪い)

 ・魔力水(品質:ちょっと悪い)

 ・ビーカー

 ・すり鉢

 ・すり棒

 ・小瓶


「あー……品質が悪いのか」


 まぁ、上質のものをもらえるとは思っていなかったからいいか。今はとりあえず、ポーションを作って薬術のスキルを覚えることが先決だ。

 もし適性が悪かったとしても、作り続ければいつかは覚えるだろう。幸い、魔力も材料費もやまのようにあるからな……。


「んで、次に作り方っと」


 一緒にもらった手引書のページをめくる。

 ①使う薬草類をカラカラになるまで乾燥させる。

 ②葉を粉状にすりつぶす。

 ③魔力水を熱し、そこに②でできたものを加え煮込む。

 ④自身の魔力を注ぎ込む。

 ⑤上澄みの部分がポーションとなる。小瓶に入れて完成。


「工程自体はそんなに難しくない……ってか、詳細に書かれてないから簡単に見えるだけか?」


 とりあえず、これなら一応できそうだ。

 細かいところはどうすればいいかわからないけれど、とりあえずやってみるしかないだろう。


「まずは薬草……って、どれくらい入れればいいのか書いてないな」


 なんて不親切な手引書か。

 とりあえず、もらったものはすべてポーションにするのだからすべて処理をしてしまおう。薬草と体力草を、カラカラになるまで乾燥……ということは、外に干すのか。


「って、それじゃあ時間がかかりすぎる」


 却下だ、却下。

 わざわざ真面目に天日干しする必要はない。


 俺は窓を開けて換気できる状態にしてから、炎の魔法を使う。風魔法も使って空気の調節をしながら一気に高温にすれば、あっという間に乾燥状態になるはずだ。


 魔法を使うと、部屋にむわっとした熱気が広がる。

 風魔法で調整すれば大丈夫かと思ったけど、駄目か。水魔法も同時に使って部屋の温度を下げ、薬草の周りだけが高温になるよう調節を行う。

 みるみる薬草から水分が抜け、カラカラと乾燥していくのがわかる。


「よしよーし!」


 なんだ、難しいと思ってたけど結構なんとかなるもんだな。

 乾燥させきったところで魔法を止めて、今度は粉状になるまですりつぶしていく。昔だったら腕が付かれそうだけど、今はレベル100の元勇者。まったく疲れないし、道具が壊れない程度に拘束で擦ることができる。


「あ、しまった! 薬草と体力草……一緒にして擦っちゃった」


 本来は別々に保管しなければいけないのに。

 分量を変えてポーションのできを検証しようと思っていたけれど……まあ仕方がない。割合的には体力草より薬草の方が多かったから、それだけ覚えておこう。

 これは単に、一番安いのが薬草だから多めに入っていただけだ。


「次は魔力水を熱して、そこにすり潰した粉を投入っと……」


 ビーカーに魔力水を注ぎ、アルコールランプのようなものはないのでまた魔法で熱する。もしここが自宅だったら、キッチンのコンロを使っていたかもしれない。


「……でもこれ、耐熱性? あ、一応耐熱がついてるのか」


 ちょっといびつな粗悪品だけど。

 鑑定結果に感心しつつ、魔力水が沸騰したので先ほどの薬草を半分ほど加えて混ぜる。


 どれくら煮込めばいいかわからないので、とりあえず体感三分。


「んで、魔力を注ぐっと……」


 どれくらい注げばいいのか書いてないので、とりあえず気持ち大目に。すると、透明な魔力水に入れた緑の粉は完全に混ざり合って……淡い水色の光があふれ出した。


「おお、すごい! ポーションっぽい!!」


 初めての調合にテンションが上がり、段々楽しくなってくる。

 上澄みの部分がポーションと書かれていたので、その部分を小瓶に移す。まだ熱いけれど、覚めたら初めてのポーションが完成だ。


 そして俺は冷ましている間にうたた寝をしてしまうのだった……。

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