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3:勇者から薬術師に転職しました

 神殿を後にして、薬術師ギルドへとやってきた。

 冒険者ギルドの登録破棄は、違うギルドからでも可能と教えてもらったので薬術師ギルドで一緒にやってしまうことにする。


 もらった地図を見ながら街中を進んでいくが、冒険者ギルドと違って郊外にあるらしい。店もあまりない区画で、なんというか……不便な場所だ。


「人気ないって言ってたもんな」


 運営状況もあまりよくないのかもしれない。

 まあ、それくらいの方が目立たなくていいかもしれないが。


 辿り着いた場所は、本当に街の隅っこだった。出入りするための門へも遠く。不便以外で表す言葉が見つからない。

 レンガで作られているため頑丈そうではあるが、どこか薄暗さを感じる。

 ……もしかして、俺はやまった?


「いや、回復薬作りとか憧れるし……! 大丈夫、大丈夫……!!」


 きっと。



 意を決してドアを開けると、カランと鈴の音が響く。


「あ、中は結構きれいなんだな」

「口に出てますよ……」

「あ、ごめん」


 思わずつぶやいた言葉に返事をされて、とっさに謝罪する。

 声の下は、一つしかない受付にいる女の子だった。十代半ばくらいの、はちみつ色の髪をした可愛らしい子。


「ええと、薬術師になりたくて来たんだ」

「そうなんですか? 嬉しいです! 嬉しいから、馬鹿にしたセリフは忘れてあげます」

「それはどうも……」


 むすっとした表情が明るくなって、鼻歌をうたいながら書類の準備を始めた。


「私はハルル、薬術師ギルドの職員です。よろしくお願いしますね!」

「ああ。俺はイナ……コーキだ、よろしく。冒険者ギルドに登録してるんだけど、そっちは破棄の手続きをお願いしたい」

「はい、わかりました」


 お安い御用ですと言い、俺の冒険者ギルドカードを受け取った。


「破棄は、登録しているギルド、この場合は冒険者ギルドですね。それ以外で破棄を行うと、書類などの確認はありませんが……少量の血が必要になります」

「そうなのか?」

「はい。これは、ギルド側が無断で破棄をしてしまう……などの自体を防ぐためですね」


 なるほど。

 不正をしたりしないように、必ず登録者が頼んだとわかるような仕組みにしているのか。……とはいえ、襲いかかって無理やり怪我をさせるということもありそうだけど。

 この世界は、魔物もいるし血気盛んな人が多い。


「でも、どうして冒険者ギルドから薬術師ギルドへ? 正直、冒険者ギルドの方が金銭的な実入りがいいですよね……?」


 こちらとしては嬉しいんですけど……と、ハルルさんが尋ねてくる。

 俺が返す言葉はもちろん、一つ。


「魔物と戦ったりするの、嫌いなんです。争い事とか……。家でできる仕事がいいんです」

「え、あ、なるほどです……」

「いいじゃないですか、人には好き嫌いがあるんです」


 俺の答えに戸惑いながら、ハルルさんは笑顔を作り書類を渡してくれた。一瞬表情が曇ったのを見逃さなかったから、内心はかなりがっかりしているに違いない。

 そりゃあ、戦いのある異世界だ。ヘタレな男より、逞しい男が来た方が嬉しいだろう。何かあったときも心強いしな。


 しかし!

 考えてもみてくれ……。がたいのいい男が、せっせと回復薬を作るのか……? 否!

 俺みたいなヘタレが丁度いいと思う。


 渡された書類には注意書きと、署名の欄があるだけというシンプルなものだった。

 冒険者ギルドでは得意な武器やスキル、パーティー経験などいろいろ聞かれたけど……ギルドによって随分と違うもんなんだな。


 注意書きは、違法行為の禁止、いたずらに回復薬の値段を上げ下げしない……などの基本的なものだった。どれも問題ないので、俺は署名をして薬術師ギルドの一員となった。


「えっと、薬術関連の道具と手引書をお渡ししますね。薬草も少し入っているので、簡単なポーションなら作れると思います」

「おお、ありがとうございます! 燃える!」

「もえ……? ええと、気合十分で何よりです。作れるポーションの質は個人の力量で変化しますが、種類はスキルレベルによって増えていきます」


 ハルルさんが初心者にするよう、丁寧に説明をしてくれる。


「ポーションは、まず薬草を使ってそれを煮込んでこして作ります。それを何度か繰り返していくと、ポーション調合、特殊調合のスキルを取得できます。これを覚えてしまえば、面倒な工程はすべてカットすることができます」

「へぇ……」


 結構楽そうだな……。


「ポーション調合はいいとして、特殊調合って何?」

「これは、回復薬以外のもの……たとえば、爆薬や調味料などの調合が可能です」

「へぇ!」


 爆薬はいらないけど、調味料を調合できるのは嬉しい。

 この世界は、あまり料理の幅が広くない。調味料の種類が少なかったのは、薬術師に人気がなかったからか?


「とりあえず、スキルを覚えるまで頑張って手作りですね。詳細はこの手引書に書いてあります。上手くできないときは、アドバイスもできますから相談してください」

「わかりました、ありがとうございます」

「あと、用事が無くてもギルドへは気軽に来てください。一応、ポーション調合の依頼などもありますので……」


 ハルルさんの説明に頷き、とりあえず納得する。

 薬術師のスキルだと、上限が限りなく高そうだ。

 勇者のときは、スキルレベルの上限があったから、極めてしまえばそれで終了だった。でも、調合でまったく新しいものを創れるというのであれば……話しは別だ。


 でも、調合するには材料がいるな……。

 道具屋に売ってるけど、希少なアイテムになると入手が困難になる。一応元勇者だから、素材も自力で集められるけど……どこかに発注するのもいいかもしれないな。


「あとは……っと、そうそう、定住している方は住所を教えていただいています。回復薬の納品などありますし」

「家か……今は宿屋なんで、決まったらまた伝えにくるかたちでもいいですか?」

「もちろんです。旅をしながらという薬術師の方もいらっしゃいますから、定住の有無にはこだわらないんです」


 住むところも考えないといけないのか、大変だな……。

 とりあえず今日は宿を取って、どうするか考えよう。


「ハルルさん、ありがとうございます。とりあえず、のんびりやってみます」

「はい! ポーションができたら、ぜひ報告にきてくださいね」

「わかった」


 こうして俺は無事、薬術師となった。

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