15:木の実お世話係
ぴょこりと出た芽は、黒かった。
「普通、植物っていったら緑じゃないのか?」
『初めて見ます』
俺の言葉に、ゴブリンも同意する。
なんていうか、まがまがしさを感じるというかなんというか。どうなるのかと見ていると、よほど薬草の効果が高かったのか――あっというまに俺の腰ほどまでに成長してしまった。
『わ、すごい。さすが私!』
「すごすぎだろ……」
綺麗なピンク色の花が咲き、すぐにそれははらりと落ちて実がなった。
「え、また実なのかよ!!」
植えたのよりも一回りほど大きくなって実ったそれは、ぱっと見でわかるほどに……強い魔力を感じる。
ただの実じゃないのは明らかで、最悪は人食い植物なんじゃ……と、おもってしまう。さすがにそれは勘弁してほしい。育てたのに襲われてしまっては、たまったもんじゃない。
黒い葉に、輝く実か。
「そうだ、交渉術スキルを使おう。なんて呼べばいいかわかんないけど、俺の声が聞こえるか?」
『…………ん』
ドキドキしながら話しかけると、ほんのわずかだけれど……実から、声がした。そのことにほっとして、安堵する。
会話に応じてくれるのであれば、そこまで変な植物ではないだろう。たぶん。
俺が続けて話しかけようとすると、薬草が突然まったをかける。
『この子、すごく弱ってる。……ちからが、栄養が足りないみたい』
「え、そうなのか?」
心配そうな薬草の声。
とはいえ、俺には植物の健康状態はわからない。回復のさせ方もわからないけど、とりあえずポーションをかければよさそうということくらいはわかる。
持っていたポーションをかけてみると、実がキラリと光る。
お、回復したみたいだ……?
『ポーションをかけるのはいいんだけど、全然足りてないみたい』
「まじか……」
どれだけ大食いなんだ、この薬草は。
もちろんポーションを作ってかければいいんだけど、材料にだって限りがある。薬草が育っているとはいえ、あんまり葉をむしってしまうと可哀相だし……。
「とりあえず、ゆっくり様子を見るしかないか」
『そうだね。はやく元気になってほしいなぁ』
「だな」
ふと、ゴブリンがじっと木の実を見つめながら『見ていると、なんだか安心します』と告げた。どこか瞳がうっとりしていて、大切に思っているんだなということがわかる。
「ゴブリンは植物が好きなのか?」
『いえ、そういうわけじゃないんですけど……なんででしょう』
こてりと首を傾げるゴブリン。
けど、俺だってそんな理由は皆目見当がつかない。俺と薬草はいたって普通だから、もしかして魔物が好きなものなのかもしれない。またたびみたいな。
魔王城にあったのだから、その可能性は高いかもしれないな。
「頑張って世話して、立派な実にしような」
『はい!』
……と、いってみたものの見た目上は十分立派だ。
両手で持つくらいの大きさなのに、これより大きくなったりするのだろうか。
『自分、頑張ってお世話します!』
「なら、ゴブリンにはあとでポーションを作って渡すよ。それをかけると、栄養になるから」
毎日よろしくなと告げると、ゴブリンが笑顔で頷いた。
『まかせてください!』
『私の話し相手もよろしくね、ゴブリン』
『はい!』
体力草はあるから、薬草をもう少しもらってポーションを作ろう。でも、もらったばかりだから葉をもらえるのかが微妙だな。
俺は窺うように、薬草に葉をもらえるかどうか聞いてみる。
『えぇ、また……? でも、この子にも元気になってほしいから……いいわよ!』
特別なんだからねと言いながらも、すぐに了承してくれるところが薬草らしい。俺は浮遊スキルで、薬草の上の方にあるキラキラしている葉を数枚頂戴した。
『それでポーションを作るんですか?』
「うん。薬草が材料になるんだ」
『すごい……』
ゴブリンが感心したように薬草を見つめると、薬草も少し照れているのか『ま、まぁね』と嬉しそうな声。
「んじゃ、ゴブリンに渡すためのポーションを作るか」
『はいっ!』
俺は鍋の中に魔力水、体力草、詰んだ薬草の葉を入れる。
「俺はスキルがあるから一瞬で作れるんだけど、手間をかければポーションは誰でも作れるんだ」
『そうなんですか?』
「うん。薬草の葉を天日干しにしたりするから、結構時間はかかるんだけどな」
ゴブリンが知りたいというので、手引書に書かれていたポーションの作り方を教えてやる。ポーションを自分で作れるようになれば、怪我をしても少しは安全だろう。
ゴブリンは結構、小さな擦り傷が多いからな……。
朝ごはんのためにウサギと戦って傷を作ってしまうのは、さすがに……な。
『覚えました! 練習します!』
「おお、頑張れ」
嬉しそうにするゴブリンの横で、俺はスキルを使ってポーションを作る。
木の実にかけるようだから、別に小瓶に移す必要はないだろう。俺はポーションの液体が入った鍋ごとゴブリンへと渡した。