14:薬草の使い方
翌日になって、不思議な木の実を植えた場所を確認してみるが……芽は出ていなかった。もう育たないのだろうかと残念に思いつつ、ポーションをかけておく。
『おはよう、コーキ』
「おはよ。そういえば、起きたらゴブリンがいなかったんだけど出かけたのか?」
『うん、食材の調達に行くって言ってたけど』
「食材……」
薬草の言葉を聞いて、なんだか嫌な予感がした。
ゴブリンって、普段何を食べるんだろうか? 人間か? いやいや、この辺は人間もいないし、ゴブリン単体ではそこまで強くないから無理だろう。
となると、野生動物か?
食材はまだたっぷりアイテムボックスにあるから、狩りの必要はない。ああでも、そのことをゴブリンに伝えていなかった。
顔を洗って服を着替え、ゴブリンが帰ってきたら一緒に朝ご飯を作ろう。
『今日もいい天気で気持ちいい~! たくさん日光の光を浴びると、きっと木の実も発芽するよ』
「だといいんだけど」
育たなかったら、ゴブリンが悲しみそうだからな。
「薬草は、今の状態がどうとかはわからないのか?」
『うーん……なんだかもぞもぞしてるっていうのは、わかるかな』
「もぞもぞ?」
土が盛り上がりつつあるみたいな感じだろうか。
薬草が地中で何かを感じ取ってくれているのなら、ひとまずは安心だろう。
適当な雑談をしていると、ゴブリンが両手いっぱいに何か植物を抱え……擦り傷だらけになって帰ってきた。
『ただいま』
「おかえり……って、なんでそんな怪我」
『ウサギを捕まえようとして、失敗した……』
「ウサギ……」
いつも野ウサギはスルーしていたけれど、ゴブリンより強いなんて知らなかった。
とりあえず、俺が一番最初に作った初心者の手作りポーションをゴブリンに渡して回復してもらう。効果はかなりいいので、擦り傷くらいならすぐに治るだろう。
『ありがとう』
ゴブリンがポーションを飲むと、みるみるうちに傷がふさがっていく。
……自分の作ったポーションで誰かの怪我が治るって、結構嬉しいもんなんだな。
『すごい、治った!』
「ポーションだからな」
『いつもは薬草を貼ってたけど、治りが遅かったから』
「薬草は貼っても効果があるのか?」
飲んだりするのが一般的な気がするけど……。
薬草博士の薬草を見ると、唸りながらも『それは違う』との返事。
『薬草は貼れば殺菌作用があるけど、治すなら生でもいいから食べた方がいいの。でも、そのまま食べたら苦い』
『苦いから、食べるのは止めた』
「なるほど……」
人間みたいにポーションにする方法を知っていればよかったんだろうけれど、ゴブリンじゃそれも難しいか。
「そういや、その腕一杯に抱えてるのはなんだ?」
『これ、美味しい』
「野菜ってことか……?」
ゴブリンが食べれると告げたので、受け取り鑑定をしてみる。野草だけど、栄養価が高く食べられるということがすぐにわかった。
畑にレタスがあるからそれと混ぜて、サラダにしてしまおう。
『ハヤシライス?』
「いや、今日は卵とベーコンを焼くぞ」
さすがに毎日ハヤシライスを食べるのは嫌だ。
ゴブリンが気に入ってくれたのは嬉しいけれど、ルーも貴重品なのでそうそう食べることはできない。
『ねぇ、コーキ!』
「ん?」
『私の、上の方にある葉をあげるよ!』
「お?」
突然どうしたのかと思いつつ、薬草の上の方を見る。
気付けば頭一個分くらい、俺より高くなっている。そのうち豆の木のように天まで届いてしまうんじゃ……と、思ってしまうほどだ。
上の方の葉は色素が薄く、キラキラ輝いている。何に使うのかと問いかけると、何種類かの調味料と混ぜてドレッシングにすると野菜の味が引き立つと教えてくれた。
「なるほど」
薬草の葉から作ったものであれば、栄養も高そうだ。
『それに、水にまぜて私たちにまいてくれると嬉しい』
「ん、わかった」
自分の葉を水に混れば栄養になるなんて、なんてお手軽なのか……。まあ、薬草には手がないから自分自身ですることはできないけれど。
「てっぺんの葉か……高いな《浮遊》」
『おお、コーキって何気に万能ね』
「まぁ、できることは地味に多いかな」
自分の所有するスキルが何個かなんて、もう数えるのも億劫だ。
職業特化のスキルをのぞけば、戦闘スキルはすべて覚えてるんじゃないかと思うほど。ただ、数が多すぎて自分でもいまいち把握していない。
困ったことがあれば、とりあえずはスキルでどうにかなる。
買ってあった塩に黒コショウ、それからオリーブオイル。そこに薬草の葉を加えて混ぜ合わせる。
「ん、いい感じ」
指ですくいそれを舐めると、黒コショウのスパイス美味。
ゴブリンが野菜を洗ってくれたので、それにかけてできあがりだ。ベーコンと卵を焼いて、買っておいたパンを取り出し朝食にした。
『今日のご飯も美味しいです……こんな、毎日お肉が食べれるのは嬉しいです』
「喜んでもらえたならよかったよ」
『ほら、私って美味しいから!』
嬉しそうに笑うゴブリンと、若干食べにくくなることを言う薬草と。
「あ、そういえばこのドレッシングを水の代わりにかけるのか」
かなり栄養価が高そうだから、効き目に期待。
そう思ってドレッシングを木の実の植えてある場所にかけると……ぴょこりと芽が出た。