13:ゴブリンの見つけた不思議な実
拠点に帰ると、薬草とゴブリンが楽しそうに話をしている姿が目に入った。二人で日向ぼっこをしているようで、若干うとうとしているようにも見える。
これぞまさにスローライフだな。
『あ、コーキ! おかえりなさい』
『おかえりなさい』
俺に気付いた二人が声をかけてきて、『いいものあった?』と薬草が聞いてくる。
「ああ。とりあえずベッドは買ったから、今夜からは快適だな」
『ベッド?』
「ああ。寝床だな、寝床」
ベッドという存在がなにかわからなかったらしいゴブリンが首を傾げるので、俺は寝る場所だと教えてやる。それと同時に、今夜からは床で寝るのを禁止にすることも忘れない。
『わかった。自分の寝床……嬉しい、ありがとう』
「おう。何かあれば、遠慮なく言ってくれていいから」
共同生活をするのであれば、ストレスをためるのはよくない。
とりあえず、先にベッドを設置してしまおう。
「薬草、ちょっとだけゴブリン借りるよ~」
『ん、わかった』
『?』
俺はテントに入り、買ったばかりのベッドを一番奥に設置する。
マットレスもいいものを選んだから、ふかふかだ。
『おお、これがベッドですか?』
「そうだよ。こっちがゴブリンのベッドだから、寝転がってみるといいよ」
『は、はい……っ!』
ゴブリンがおそるおそるベッドへ乗り上げて、体重で沈むマットレスに目を見開く。
その驚いている姿がなんだか可愛く思え、嬉しくなる。
一気に体を乗り上げて、ゴブリンが横になった。
『わわわ、すごい、すごいふかふか……っ!』
目をキラキラさせて、『これが寝床なんですか』と俺に問いかけてくる。すぐに頷くと、ゴブリンが全身を使って嬉しさをアピールしてくる。
ゴロゴロとベッドの上を転がって、『すごいすごい』と何度も声をあげる。
「気に入ってくれたんなら、嬉しいな」
『とても! すごいです、人間はこんなすごい寝床を使っているんですね!!』
「ん、まぁ……俺くらいになればな」
人間と言っても、階級もありベッドの質は様々だ。
買ってきたものは値段も高く、そこそこの貴族が使うレベルのものだろう。間違っても、平民がこのレベルのベッドを使っていることはない。
ベッドを堪能していたゴブリンが、突然ピタリとその動きを止めた。
「ん?」
『忘れてました……! 魔王様の部屋で、これを見つけたんです』
「? なんだこれ、木の実か?」
ただ、木の実にしては異質だ。
キラキラと銀色に輝いていて、ただの木の実ではないということがわかる。片手にすっぽりと収まるサイズなので、そこまで大きいわけではない。
……でも、光る木の実なんて見たことないけど。
ゴブリンもさっぱりわからず、かといって魔王の部屋にあったものだからと持って帰って来たらしい。
「薬草なら知ってるかな? 一応、同じ植物ではあるし」
『見せてみます』
「そうだな」
ゴブリンはベッドから降りて、急いで薬草の下へと賭けていく。俺もその後にのんびり続いて、いったいなんなんだろうなと首を傾げた。
テントから外へ出ると、薬草に木の実を見せているゴブリン。
『えぇ、私だってわからないよ~!』
『そうですか……』
『あ、でもでも! 植えて芽が出たら会話できるようになるから……とりあえず私の横に植えてみたらいいんじゃないかな?』
『なるほど』
薬草の割と安易な提案に、ゴブリンがまるで名案だ! とでもいうかのように頷いた。
薬草はいいとして、俺の交渉術スキルでも対話が可能なんだろうか。薬草以外の声はいまのところ聞こえないけれど、でもまぁ……あんな木の実が薬術と無関係なはずもないか。
きっととんでもない素材に違いない。
『コーキ、成長促進しなきゃ!』
「え、どうやって?」
栄養が大事だと思うと主張する薬草に、しかし俺はそんなものを持っていないと告げる。
すると薬草は、『知らないの?』と言いながら、成長促進について教えてくれた。
『ポーションをかけるの。薬草にとって、ポーションって実は栄養なんだ』
「そうなのか、初耳だ」
そんなこと、手引書にもまったく書いてなかった。
いや、薬草は採取することが多いから栽培に関することがまだまだ未発展なのかもしれないな。
俺が持っているポーションは、手作りしたやつ……はさすがに効果がいまいちかもしれない。薬草にもらった葉で作ったものをアイテムボックスから取り出して、ゴブリンが木の実を植えたのでそこにかける。
「……特に変化はないな?」
『染み渡るのを待たなきゃいけないから、そんなすぐの変化はないよ』
「そっか」
とりあえず一晩は様子をみなきゃいけないらしいので、明日の朝になってどうなっているのかが楽しみだ。
稀少な素材であれば、すごいポーションを作ることができるかもしれないからな。