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11:薬草の成長

 朝起きて、俺とゴブリンは息を呑んだ。

 テントの外に出て一番先に視界へ飛び込んできたのが――巨大化した薬草だったから。


「なんだこれ……」


 まさか別の植物?

 そう思ったけれど、その位置は薬草を植えていた場所で間違いない。


 ゴブリンの背丈を軽く超え、俺と同じくらいの高さがある。

 昨日までの薬草は、全体が深い緑だったけれど――今は葉先が淡い黄緑色になっていて、キラキラと光り輝いていた。


『あ、コーキ、ゴブリン! 私すっごく成長しちゃったみたい!』

「えあ、う、うん……」

『大きいです……』


 やっぱり薬草だった。


 幸いなのは、悲観している様子がないことだろうか。

 声は嬉しそうに弾んでいるので、素直に喜んでいるということがわかる。そのことにほっとしつつも、なんで成長したのかと薬草に確認する。


 ……薬草の効果も高くなってるのかな?

 なんて、興味が出てしまう。


『たぶん、今まで日光に当たってなかったのと……コーキのつくったハヤシライスが原因?』

「え、俺の?」


 確かに特殊なハヤシライスだったけど……と首をかしげる。

 薬草だから、液体なら水のように栄養として吸収することができるという可能性もある。もしそうだったのなら、茶色の薬草にならなくてよかった。


「ゴブリンは薬草について何か知ってるか?」

『うーん、わかりません。こんなにキラキラしている薬草自体、初めてみました』

「そっか」


 やっぱり異常ではあるんだろう。


『でもまぁ、害はないから大丈夫!』

「まぁ、薬草だしな。一応鑑定だけしておくか」


 《至高の薬草》

 ・とにかくすごい。薬草の頂点。


「…………」

『どうかしたの?』

「いや、薬草がすごい薬草だってことだけはわかった」

『まぁね!』


 俺が褒めるとドヤっと胸を張るかのように声をあげる。


『でも、どうしていきなりこんな成長したのかしら……コーキは薬術師でしょ?』

「ん? そうだけど」

『勇者クラスの人が育てないと、薬草はここまで成長しないはずなのに……』

「…………」


 コーキはすごい薬術師なのねと、薬草が笑う。


『ゆうしゃ……!』


 それにぴくっと反応したのは、ゴブリンだ。

 薬草にも、ゴブリンにも、俺は自分が元勇者であることを伝えてはいない。


『勇者、許さない……魔王様、殺した』

『ゴブリン……』

「…………」


 はっきり、ゴブリンの目に憎しみの光がともる。

 絶対自分が勇者だと名乗り出ちゃ駄目だと、俺は固く誓う。


「ええと、とりあえず……薬草は日光を浴びたから成長したんだろ。俺は今日ポーションを作ったり拠点を充実させる予定だけど、ゴブリンはどうするんだ?」


 なるべく明るい話題になるように話を振るが、そう上手くはいかないもので。


『魔王城の、片付けをする……。体も綺麗になって、ご飯を食べて元気になったから。全部は無理だけど、せめて魔王様の部屋くらい……』

「そ、そっか……」


 俺はわかったと頷くしかできない。


「何か手伝えることがあれば協力するから、言ってくれ」

『ありがとう』




 ◇ ◇ ◇


 ゴブリンが魔王城へ向かったので、俺は薬術師としての第一歩を踏み出すことにした。

 そう、ポーションの調合だ。


 とは言っても、スキルを取得しているのでちゃちゃっと作れるからそんなに苦労はない。


「まずそのためには、薬草がいるな……」

『私の出番?』

「材料だからそうなんだけど、昨日葉っぱを二枚もらっちゃったしなぁ」


 なんとなく、すぐ追加でくれというのが申し訳ないというかなんというか。いや、俺の身長まで成長したんだから、もっとたくさん葉を摘んでも問題はないと思うけれど。


『成長できたのが嬉しいから、今日は大盤振る舞いしてあげる!』

「本当かっ!?」


 好きなだけ摘んでいいよと、薬草が言う。

 なんていい薬草なんだ、ありがたい。これだけ薬草が大量にあれば、かなりの数のポーションを作ることができるはずだ。


「じゃあ、失礼して……」

『どーぞ!』


 薬草から葉を積み、ほかの材料――魔力水と体力草を用意する。

 この二つは道具屋で買ったものだから、品質はそんなによくない。


 ……植えたら、体力草も栽培できるかな?

 それで増えたのなら、今後はわざわざ道具屋で買う必要もない。自然で育てて、交渉して体力草の一部をもらうことができれば品質だってもっといいものになるだろう。


「なあ、薬草」

『ん?』

「体力草、隣に植えてもいいか?」

『いいよー!』


 すんなり許可が下りたので、俺は薬草の隣に体力草を植える。薬草と同じくらい……とは言わないけれど、育ってくれたら嬉しいなと思いながら。


「んじゃ、植えたしポーションを作るか」

『がんばって~!』


 小さな鍋を魔力水でいっぱいにして、そこに薬草と体力草を投入する。そしてポーション調合を使うだけの簡単なお仕事だ。

 自分の魔力を注ぎこみながら、美味しいポーションになりますようにと祈る。


「《ポーション調合》」


 俺がスキルを使うと、鍋がぱっと光る。

 そして淡い色の液体ができあがっていて、成功したことがわかる。


「とりあえず、ポーション瓶に入れる前に鑑定っと……」


 《初心者のエリクサー》

 ・ほとんどの体力を回復することができる


「おっと……?」


 鑑定結果を見て、嫌な汗が背中を流れた。

 ……これって、ダンジョンの宝箱とかからしかでないレア品じゃん。

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