10:楽しい特殊調合
特殊調合では、爆薬や調味料を作ることができるらしい。
攻撃手段は必要ないので、調味料を作ってみることにした。
……薬草を入れたら、いい感じの調味料になったりしないかな?
回復効果が付いたり、体にいいものになったりするかもしれない。
でも、薬草を分けてもらえるだろうか?
「なあ薬草」
『なにー?』
「調味料の材料にしたいから、葉とかもらえるか?」
『いいよ!』
軽ッ!!
仮にも自分の体の一部だというのに、そんなあっさり許可が下りるのか。元々、話し相手になれば素材として一部をもらえる約束だったけれど。
まぁ、本人が許可してるんだし。
「じゃあ、二枚もらっていいか?」
『うん!』
快諾してもらったので、薬草の葉を二枚摘む。
『私の葉で、何か調味料ができるの?』
「いや、薬草を入れたら特別なものができるかもしれないと思ってさ」
『なるほど……さっきのハヤシライスで調合してみるの?』
「ん?」
ハヤシライスで調合?
言われてふと、食器は洗ったけれど鍋がそのままだということに気付く。蓋はしてあったから、中にゴミが……というような心配はない。
なるほどと思い、俺はハヤシライスの少し残った鍋に薬草の葉を入れてみる。
「……ハヤシライスの残り、薬草。あとは何を入れたらいいんだ?」
薬草を入れてから考えるのもあれだけど。
俺はアイテムボックスから手引書を出して、特殊調合調味料の項目を確認する。手順はスキルで省略するから、材料が分かればいい。
「材料は野菜とかでもいいのか。それに水や魔力水を入れる……なるほど」
爆薬か調味料かで、水の種類を変えているらしい。
せっかく温泉を掘り当てたから、今回はそれを使ってみよう。
・薬草の葉 二枚
・残ったハヤシライス
・温泉
「ふむ。デンジャラス感ある」
『それが食べ物になるの?』
「おそらく」
俺が作業するのを見て、薬草が不思議そうにする。
確かに食べ物には見えないけれど、特殊調合スキルだからできあがる前はきっとこんなものだろう。
「……《特殊調合》」
鍋に魔力を注ぎながらスキルを使うと、ぱっと一瞬だけ光が溢れた。
失敗した感覚はなかったから……何かしらが鍋の中にできているはずだ。おそるおそる覗いてみると、茶色の固形物ができあがっていた。
「……ハヤシライスのルー?」
『同じのができたの?』
「そうっぽい」
鍋の中に入っていたのは、固形のルーが十個。これだけの材料からハヤシライスのルーができたのであれば嬉しいけれど、本当にルーだろうか?
一つだけを鍋に残し、ほかはアイテムボックスへとしまう。
とりあえず溶かして、これが本当にハヤシライスになるのかみてみよう。
一応、鑑定もしてみるけれど。
・元勇者のハヤシライスルー
とっても美味しいハヤシライスのルー
食べると力がみなぎってくる
「……美味さがパワーアップしたのか?」
思わず、首を傾げる。
まあ、好きだから美味い分には何の問題もない。水を入れルーを溶かし、俺はもう一度ハヤシライスを作ってみた。
『完成したの? さっきと同じね!』
「見た目はな」
だが問題は味だ。
俺は一口ぺろりと舐めて――うまッ!!
「やばい薬草、これ超美味い」
『え、なにそれコーキ一人だけずるい。私にもかけてみてよ!』
「さすがにそれは微妙なんじゃ……」
水の代わりにハヤシライスのルーをかけるって、どうなんだよ。ふやけて腐ってしまうんじゃないだろうかと思うけれど、『少しだけでいいからー!』と薬草がねだる。
「……どうなってもしらないからな」
『大丈夫!』
俺はおたまでルーを救って、薬草にかけてやる。
何か異変を感じたら、別の場所に植え替えてやればいいだろうと安易に考えて。
「何か変化はあるか?」
地面にしみ込んでいくハヤシライスのルーを見ながら言ってみるが、特に変わった様子はない。それは薬草自体も同じらしく、『なんにも』という返事。
「まあ、特殊っぽくはあるけど所詮はハヤシライスのルーだからな。何もないなら、別にそれでいいさ」
『そっかなぁ、なんか残念! すごいハヤシライスだと思ったのに』
いったい何を根拠にそう思ったのかは知らないが、変に体調がくずれるよりは何もない方が平和でいい。
「……とりあえず、明日の朝飯もハヤシライスだな」
『ゴブリンがきっと喜ぶよ』
「たしかに。とりあえず、調合もしてみたし俺も寝る、おやすみ」
『おやすみなさい!』
そう言ってテントに入り、寝袋へ。
このときの俺は、翌朝の薬草がどうなるかなんて考えもしなかった――。